第四百六十五話・あの人は……?
書籍版・よろしくお願いします
ちょっとですが、ロボの絵もありますよ。|д゜)
Side:斎藤道三
織田は季節に一度は祭りをやっておるな。賦役や戦をしておきながら祭りもやるなど、いかほどの余裕があるのだ。
しかし桜か。花を見るとは、まるで公卿のようだな。
「今日の清洲の賑わいは凄まじいですな。織田と無益な争いを止めてよかった」
「そうだな。すべては殿の先見の明のおかげ」
それにしても、せっかくの花を見るのだ。静かに見られんのか。良い機会だと、織田に臣従しておらん美濃の国人衆を連れてきたというのに。こやつらときたら……。
まあ、周りを見て学ぼうとすることはいい。だが、要らん世辞などは不快でしかないわ。
いかんな。この程度で苛立っておっては、こやつらと同じではないか。
「噂に聞く京の都もこんな賑わいなのであろうか?」
「今時、京の都にこんな賑わいはあるまい。あそこは度々戦火に晒されておるからの」
京の都の様子も知らぬ者がおるのが美濃の国人衆だ。むろん責めはせぬ。だが、それでは織田の世で生きてゆけぬぞ。
奪うのでも攻めるのでもなく、織田は己たちで創ることを選んだのだ。
必要なものは自ら創る。それを考え、成す術を取り計らい、現に出来る者が、日ノ本にいかほどにおろうか。
かつては平清盛公が、公家の世のままでは駄目だと新たな世を創ろうとしたが、公家の世の真似事しかできなんだ。源頼朝公は、武家を中心とした幕府が支配する世を創り出したが、それも外患、大乱で滅んだ。足利尊氏公が次の世を創ったが、しょせん鎌倉の真似事。同じく大乱となった。今は戦国の世だ。
織田は、今までと違う世を創ろうとしておる。公家、武家のみならず民にも目を向け、区別することなく皆が飢えぬ世を創るつもりだ。信秀が仏になるはずだ。虎になる必要がないからの。織田が目指す世を創るのに邪魔なものには、虎になるのであろう。たとえそれが幕府であろうともな。
「城も随分大きくしたようだ……」
「平城とはいえ、あれは攻めるのに苦労するぞ」
清洲の町からは城がよく見える。しかもなにやら大きな物見櫓のようなものまで作っておる。あれはなんだ?
連れてきた者たちは皆、あれを攻めるならいかにすればよいかと頭を悩ませておるが、三河の本證寺の末路を知らぬ者はおるまい。とは言え、あれは久遠の助力あってのこと。
あくまでもここまで攻めてこられたらという話であろうな。そう思いたい。だが、実のところはここまで攻め込むことすら無理だの。
「そなたら、仮に清洲の城を囲んだとて意味などないぞ」
「殿、それは……」
「誰ぞ、わかる者はおらぬか?」
策を考えるのは悪いことではない。だが、考えるならもう少し状況に合わせて考えるべきだな。
教えねばならんか。織田は学校なるところで教えておるのだ。わしもこのくらいはせねばならぬか。
「恐れながら、織田の本領はここより南。仮に殿が上四郡を押さえても、那古野、津島、熱田、蟹江を押さえねば、すぐに反撃されてしまいまする」
「明智家の十兵衛か。見事だな」
最初に気付いたのは十兵衛光秀か。才覚があるゆえ連れてきたが、その甲斐があったというものだな。
そう、織田を攻める場合は、清洲は単独で考えてはいかんのだ。
「下四郡には、那古野をはじめ多く城がある。特に南には久遠殿の南蛮船がおる。蟹江にもいずれは城を建てるであろう。織田は清洲に籠る必要は無いのだ。南蛮船がある限り、織田は城のひとつやふたつ落とされたところで痛くも痒くもあるまい」
信秀を討つには伊勢の海の覇者である久遠が離反するなり、裏切らねばならん。しかし久遠は裏切るどころか離反もすまい。長いこと裏切り裏切られてきた、わしが言うのだから間違いない。
まず、裏切る利も道理もないからのう。
織田の力の源泉は久遠なのだ。そして久遠が富を蓄え、好きなことをやれるのは織田の庇護があるからとも言える。織田と久遠は人徳と利でつながっておるのだ。両者を引き離すのは人徳のないわしでは無理だ。与える利もないしの。
そもそもあの巨大な船を幾隻も維持する力が久遠にはあるのだ。仮に尾張上四郡が全て寝返っても勝てぬだろうな。
織田が危うくなるは内なる敵か、それとも周辺がひとつとなって攻めてくるか。しかし、そんなことはまずあり得ぬな。
ああ、忘れておった。大智の方がおることを。
わしを手玉に取り、一向衆を壊滅させた知略を持つあの女子を欺くことも必要か。
「ということはあの城は、むしろ織田の力をみせるために……?」
「そうであろう。むろん戦の備えはしておるようだがな」
ようやく国人衆たちも清洲城の意味に気付いたか。大量の鉄砲と金色砲を抱える織田との戦は今までの戦とはまったく違う。
城すら自らの力を見せる道具でしかない。
すでに世は変わったのだ。それを理解させねば。
Side:久遠一馬
お花見も二日目になった。
今日は去年に続き、若い未婚の男女のお花見合コンをウチの主催で開催している。参加者はウチの家臣と忍び衆に雇っている人たちだ。
意外なところでは藤吉郎君が参加していることか。彼は工業村の若い未婚の職人たちと一緒だ。
あそこの職人は機密保持の必要上、ウチで雇っているからね。ちなみに藤吉郎君はいずれウチで雇うことになりそうだ。
家中での評判がいいんだ。気が利くし、仲間内に気配りも出来ている。
職人としての筋も悪くないと、鍛冶職人の親方である清兵衛さんがこの前お酒を一緒に飲んだ時に誉めていた。
清兵衛さんからは推挙されるだろうし、他からも推挙されそうなんだよね。
ただ、史実の伴侶である浅野家の寧々さんとは出会ってもない。このまま別の人と結婚するんだろうか?
「そういえば、紙芝居も増えたね」
「寺社も始めました故、左様でございますな。さすがは寺社というべきかと」
今日のお供は一益さんだ。最近文官仕事が増えて大変だとこぼしていたらしいので、久々にお供として連れてきたんだ。
今年のお花見の特徴は、ウチが関与しない紙芝居が増えたことか。
関東では北条家でも紙芝居をやっている。そもそも紙芝居は、絵解きという宗教の絵を見せてお話をすることを一部の寺社がしていたことだ。
織田領でまず真似したのが、津島神社と熱田神社だ。そこは頼まれてウチが紙芝居の製作にも手を貸した。
あまり宗教臭くならないようにしつつ、神社にお参りしようという内容だ。あとはウチでやっている娯楽の紙芝居も欲しがったのであげた。
いや、津島神社も熱田神社も紙芝居をやるときには、人を集めてくれたり境内を使わせてくれたりと協力してくれているからね。
その分、寄進もしているが、変わりゆく尾張で彼らも生きる道を必死で模索しているようだ。
今日も津島神社と熱田神社がお花見の会場で紙芝居をやっている。
「人形劇も増えておりますが……」
あと一益さんが少し微妙な顔をしたのは人形劇が増えているからだ。これは慶次がすずとチェリーと一緒に大道芸の人たちに広めたからね。混ぜるな危険が現実になっちゃったな。
一益さんは真面目だから、一族の異端児である慶次の生き方に思うところがあるのだろう。
「でも、そのおかげで人形がよく売れているんだよね」
ただ、一益さんはなんとも言えない表情をするが、慶次たちのおかげで少し前から人形が売れているんだ。
製作しているのは、忍び衆の奥さんたちだ。最低限の針仕事が出来る人たちに頼んでいる。
布とか材料はウチなら手に入りやすいし、着物を仕立てる時に余った端切れなんかを活用してもいる。
同じようなものだと、ぬいぐるみもすでに販売している。当然ながらどちらも安くはないが、コンスタントに売れているんだ。
市販のぬいぐるみはお市ちゃんとか孤児院にあげたものより、幾分完成度が落ちるが。小さくしてマスコットくらいにすると値が抑えられるし、お土産として売れている。その内、商人たちが真似をして産業として広まってくれるかな。食文化の様に目端が利く者も多いからね。
ただ、慶次に関してはいったいなにをしたいのか、またなにをするのか、もはや誰にもわからない。
だけど昨日からやっている似顔絵も人気なんだよなぁ。
彼の凄いところは、学校にいけば自分が描いているような絵も学べると宣伝していることか。
領民から武士や僧に至るまで興味を持ってくれている。
きっちりと仕事の部分を混ぜて、成果を残しているのは天性のセンスだろう。














