第四百六十四話・それぞれのお花見
書籍版。よろしくお願いします。
ぜひぜひ、|д゜)
Side:大橋重長
津島はこの春も大いに賑わっておる。蟹江が出来て津島が廃れてしまうのでは? と案じておった者は安堵の吐息を吐いておるが、同時にあまりの忙しさに悲鳴を上げておるくらいだ。
久遠殿の船はほぼ蟹江に行くことになり、直に津島へ来ることはなくなった。しかし、その分蟹江から津島に来る船が随分と増えた。美濃行きの荷や東山道に向かう荷が続々とやってくるのだ。
桑名の会合衆がすげ替わり和睦も成ったことで、以前のように商いを桑名に持っていかれるかと思ったが影響はほとんど出ておらぬな。
さすがは久遠殿か。いつでも荷を止めることが出来るのであれば桑名など問題はないということか。
「今の若い者は知らんのであろうな。かつてわしとそなたが争っておったことを」
わしは今日、観桜会のために清洲にきておる。咲き乱れる桜を見ながら殿と商いの話をしておったら、殿はふと懐かしい昔話を口にされた。
そう。かつてわしは織田弾正忠家と争ったことがある。殿が家督を継いだばかりの頃のことだ。
「あの頃、誰も思いもしなかったであろう。尾張がこれ程に賑やかになるとは……。生きておればよきこともある」
「そうでございますな。あと二十年は生きとうございます」
「ふふふ、二十年と言わず五十年でも生きよ。新たな世が見られるぞ」
近頃はあの頃が少し懐かしくなることがある。殿も蓋しそうなのであろう。
若い久遠殿や若様は違うのであろうが、わしや殿くらいの年になれば、いささか世が早く変わり過ぎると感じるのかもしれぬ。
だが……、日ノ本すべてを変えるには今の勢いのままやらねば間に合うまい。
殿がおられて若様がおられて久遠殿やエル殿たちがおる。おそらく世を変えるには多くの才ある者が必要なのであろう。このような機会はそう幾度も訪れることはないはずだ。
「新しき世をこの目で見られたら、それに勝る幸せはありませぬな」
わしの親が生まれる遥か前から日ノ本は戦続きだったという。当たり前過ぎて、何故、戦ばかりするのかなど考えたこともなかった。だが、久遠殿は戦の無い国から来たのだ。何故、戦ばかりをするのかが、逆に理解できなかったのかもしれぬな。
戦をせぬ道はないのか。戦をせぬように人を治められないのかと考えられる者が、いかほど貴重なのかはわしでも理解できる。
新しき世がくるまでは生きたい。いかにしてもな。
殿のところから下がったわしは出店を見て歩くことにした。
今では新しき料理や品物が当たり前のように出店になっておるのだ。これも以前ではなかったことだな。
かつては水飴ですら貴重だったのに、今では砂糖を使った菓子さえあるのだ。
「大橋様でござる!」
「いいところにきたのです。新商品の金色飴を食べてほしいのです」
ひと際賑やかな出店があるなと覗いてみると、やはり久遠殿の屋台であったか。幼い童たちと共に働いておるのはすず殿とチェリー殿だ。
男のような言葉使いをして、刀を差しておるすず殿と、背中に刀を背負うチェリー殿は、いつも賑やかだ。
「ほう。金色飴か。確かに金色に見えますな」
「そうなのです! 新名物にするのです!」
チェリー殿からもらった固い豆のような飴、金平糖は、久遠家が売って以降、尾張名物となった。
金色飴とやらは確かに金色に見える。食べてみると、これまた甘い。
しかも金色に見える、その見た目がいい。これは確実に売れるな。特に津島には諸国から商人が来るのだ。少しくらい高くても買ってくれる。
「これはいい。津島にもほしいの」
「もちろんでござる!」
「祭りが終わったら、各地で販売開始する予定なのです!」
しかし一見すると少し幼いようにも思えるが、やはり久遠殿の奥方か。抜け目がないのは同じだな。
Side:久遠一馬
「さあさあ、南蛮所縁の似顔絵を描くぞ。誰か描いてほしいやつはおらんか!?」
織田家のお花見当日。清洲の桜があるお寺や運動公園では多くの人で賑わっていたが、特に人だかりが出来ているところに来てみたら、ド派手な格好をした慶次が似顔絵を描く商売をしていた。
慶次君。君はいったいなにをしているんだね? しかも絵が結構上手くて行列が出来ているよ。
それにしても、賑やかだなぁ。清洲の町ではどこもお祭り騒ぎになっている。太鼓や笛の音が心地いい。
相変わらず春の田植えの祭りとか豊穣祈願のお祭りと思われているけど、それも悪くないと思う。
「ん?」
違う場所からは聞き覚えがある歌声が聞こえる。この声はジュリアか?
ああ、ジュリアがリュートを弾きながら歌っている。元の世界の未来の歌を。バラードなのはせめてもの救いか。
一緒に演奏しているのはシンディとリンメイか。さらっと音楽の歴史が変わりそうだけどね。
周りはびっくりしている人も多いが、喜んで聞いている人も多い。
時代的な価値観なんだろうが、武芸に優れたジュリアは人気というか評判がいいんだ。
現在の尾張でもそうだが、身分の高い人とかジュリアみたいな人が率先して取り入れたり評価するとすぐに広がるんだよね。
音楽も史実と変わるのだろうか。だが、日本古来の音楽も残したいな。伝統文化の一つだからな。ここは公家衆に頑張ってもらうしかないかな。
近くで売っていた五平餅もどきを食べながら、しばしジュリアの歌に聞き入る。
味噌に少し甘みがある。なにを入れたのかな? 砂糖は高いし水あめだろうか。
「凄いね!! 私も歌いたい!」
今日一緒なのはパメラだ。エルは土田御前のお供だし、ケティは病院の当番らしい。
当たり前のようにオレの腕に抱き付いているパメラに、周りには少し驚いている人もいる。この時代は男女が腕を組んで歩くなんてまずないからね。特に和服では、袖が長いので腕を組むのに邪魔になる。
ジュリアの次に歌うか? でもアイドルっぽい歌が好きなんだよね。パメラは。この時代の人に聞かせるには少しばかり早いかもしれない。
「あっ、光先生だ!」
「あれ、犬千代君だ。お花見にきたの?」
「はい!」
テンションが高いパメラがジュリアに歓声を送っていると、オレの知らない少しやんちゃそうな男の子に声を掛けられていた。
年の頃は十二か十三くらいだろうか。領民の子にしては着ているものがいい。どっかの武家の子かな。
「今の子は、前田さん家の犬千代君だよ」
「前田って、荒子の前田殿?」
「うん!」
その子は丁寧にパメラとオレに頭を下げると、お付きの人と共に屋台のほうに走っていった。
なんとなく気になって見ているとパメラが素性を教えてくれるが、さすがにびっくりしたわ。
前田利家か! 毀誉褒貶分かれる人物だが、史実では加賀前田家として家を残した人物。若い頃は傾いていたとか、問題を起こして一度は史実の織田信長に放逐された人。
嘘か本当か、一説では若い頃の織田信長の男色の相手だったなんて話もあったね。
まだ反抗期前なんだろうか。それともパメラには素直なのか、意外に普通の子だったな。ただ、織田家に連なるウチにそうそう無礼なことはしないか。普通に考えて。
前田家は荒子という領地に城がある。たしか二千石くらいだったか。この世界では利家君の兄である利久さんが、織田の文官衆のひとりとして普通に働いているんだよね。
体が弱かったが、ケティの診察でかなり改善したはず。
もとは林秀貞さんの与力だった前田家だが、前田利久さんは秀貞さんの謹慎にともない信秀さんの直臣として働いている。武芸は苦手のようだが、文官衆の一人として蟹江の工事では現場監督をしたりと結構優秀な人だ。信秀さんの直臣として着実に実績を積み上げているからね。前田家の家督相続は、利久さんで決まりなのかな? そうすると、利家君はどこへ行くんだろう? 分家を立てるのかな?
「将来が楽しみだ」
ケチでも有名な人だったが、史実の偉人だからなぁ。歴史が変わったこの世界でも活躍してくれそうだ。
「学校では喧嘩して怒られているみたいだよ」
「あのくらいの年頃だと、そうだろうな」
うん。やっぱりやんちゃみたい。きちんと教育してくれるように、アーシャに期待しよう。














