第千八百四十七話・海辺の野営
戦国要塞、一巻から七巻まで発売中です。
七巻に関しては加筆修正をしており、女性陣の視点、土岐頼芸の最後、お市ちゃんの出番など書き下ろしの場面も随所にあります。
書籍版の書き下ろしなどは、今後webなどでの公開はありません。書籍としての付加価値は守ります。
web版と違い、一冊の本として読むことを意識した加筆修正になっており、購入をお願いできるものに仕上がっていると思います。
どうか、ご購入をお願い致します。
カクヨムにて現在『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。
『オリジナル版』は、1882話まで、こちらより先行配信しております。
『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。
なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。
そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。
Side:セレス
日が西に傾く頃、夕食の美味しそうな匂いがしています。産休中であるため、わたしは子供たちと見ているだけ。
そんな日々に未だに慣れませんね。
「べろべろばあ!」
「あ~、きゃっ! きゃっ!」
「いい子なのです。私がまーまなのですよ~」
もう、すずとチェリーは暇があれば、ああして赤子に顔を覚えてもらい、真っ先に呼ばれようとするんですから。
ただ、そんな姿も微笑ましく思えます。
今日はここで野営です。子供たちと共にキャンプをするというほうが近いですが。
いつもと違うところで寝泊まりする。それだけで楽しそうで興奮した様子の子供たちの姿に、来てよかったと思います。
あちらでは市姫様が学徒たちと一緒に料理を手伝っています。
「火は危ないので、年少組が火傷しないようにするのですよ」
彼女は、この時代で一般的な武家の女とは様変わりしてしまいましたね。学問も礼儀作法も武芸も悪くありません。ただ、それ以上に私たちの価値観と知識を覚えてしまいました。
「なるべく複数の食材を食べるようにするのよ。そうすることで人は病に罹りにくく長生き出来るかもしれないから」
市姫様たちを指導しているのはセルフィーユです。医療型アンドロイドながら、栄養学・食物学・調理学・食品衛生学が専門で、領内の食生活に関する提言と改善をしています。
歳は設定では十七歳で、現在は二十七歳。髪は香草のチャービルと同じ緑色で、ストレートのセミロングをハーフアップにしており、結び目には白色に薄い水色のグラデーションが入った幅広のリボンがトレードマークでしょうか。
料理の腕前はエルを超えるかもしれないほどで、当初はあまり表に出てくることはなかったのですが、エルが多忙になるに従い、料理関係の仕事は彼女が担っています。
食材や調味料はそれぞれに栄養があり、美味しく食べるには相応の知識がいるもの。子供たちにそんな食材を美味しく食べてほしいと、指導をしていますね。
当然ながら、彼女の学問はこの時代にあるものではない。ただし、薬食いとして食べる習慣があることで、彼女は食の医師として領内ではそれなりに知られています。
「おいで」
「僕たちが絵本を読んであげるよ~」
向こうではあいりとプロイが幼子たちを集めて面倒を見ていますね。ちょうど尾張に戻っていたことで喜んで参加したふたりです。
ちなみにふたりはプロイの専門である鉱石関連の調査のため領内を歩き回っており、その過程で新領地における極秘調査もしています。元の世界では一部の資料に残る現地のあまり好ましくない風習や実態です。
これは今のところ織田家にも報告しておらず、あまり表沙汰にする気がないものですが、情報として集めるにこしたことはないものですから。
地域によっては調査も不快になるようなところがあるらしく、尾張に戻ると子供たちと遊んで英気を養っているようですね。
司令は夜に備えてたき火の支度をしています。線香花火と手持ち花火も用意してあるので、子供たちと楽しもうと張り切っているのが分かります。
もともと、そこまで子供好きだとは聞いたことがありません。こちらの世界に来て変わったことのひとつなんでしょうね。司令の元の世界では、成人男性が他人の子と関わる機会は親類縁者の子供の相手でもしないとまずありません。
自分の子を儲けたこともあるのでしょうが、司令は親戚付き合いがなかったと聞いたことがあります。こういう機会が元の世界だとなかったのでしょうね。
「まーま、だっこ!」
「ええ、いいですよ」
ふふふ、変わったのは私も同じでしょうか。私を求めてくれる子供たちがなにより愛おしい。
Side:セルフィーユ
子供たちと一緒に料理をする。それがこんなに大変でやりがいがあり、楽しいとは思わなかった。
料理を教えつつ、子供たちにも食生活の改善について教えてあげよう。食生活については、私たちがこの十年で変えてきたひとつになる。魚介の漁獲量を増やし、野菜を栽培することや、流通を促進させることで山菜やキノコ類が領内に行き渡るようにした。
それでも栄養学からみると物足りないけど。ただ、成果は確実に出ている。
「きゅうりがまだ熟しておりませんが……」
あまり見ない顔ね。どこか新参の国人の子だと思うわ。尾張では近頃増えた、元の世界でよく見かける緑色のきゅうりに戸惑っていた。
「これはね。熟す前に食べるほうが美味しいきゅうりなのよ。塩で揉んで一夜漬けにするの。そうすると明日の朝には青臭さとかが消えて美味しくなるわ」
F1種ではないものの、この時代のきゅうりと厳密には品種が違うのよね。それに食べ方も違う。そもそもこの時代だとあまり人気のある野菜じゃなく、栽培もされていなかったものになるわ。
清洲城なんかだときゅうりはお漬物として人気ね。古漬けや浅漬けが定番の品のひとつになる。
「まーま、おてつだい!」
中には包丁の握り方から教える子もいて、怪我などしないように気をつけつつ教えていると大武丸が私の着物を引っ張っていました。
「あら、大武丸。手伝ってくれるの?」
「うん!」
なぜ私のところに来たのでしょう? エルも近くで同じように子供たちに教えつつ料理をしているというのに。
まあ、いいでしょう。ただ、四歳、数えで六歳の大武丸はあまり目が離せませんね。多少、包丁の使い方は覚えているはずですが。
一緒に料理をしましょうか。
「お塩は少し控え目のほうがいいのよ。その分、食材と出汁を使うと美味しくなるわ」
領民は未だに一日二食、雑炊のみという家も珍しくない。出汁用のつもりだった煮干しが安価なため食用として普及したので、それや野菜や山菜類を食べることを推奨したけど。お腹が膨れればいいという人が相応にいる。
また、塩などの値段を領内に限り安く安定させたことで、とりあえず塩を増やして塩分の取り過ぎになるところもある。
紙芝居やかわら版でも何度も繰り返し食生活指導をしているけど、なかなか実を結ばないのよね。
栄養学で考える塩分摂取量だと物足りないのは理解するけど。
「まーま! まーま!」
「ええ、大武丸も上手ね」
いろんな子に指導をしていると、大武丸に何度も呼ばれる。もしかして構ってほしいのかしら? 尾張にいる時は遊んであげることもあるんだけど……。
でも、こうしてみんなで一緒に料理をするのがなにより楽しいわね。
私も子供が欲しくなるわ。














