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偽善悪  作者: 傘花
13.悔悟
107/211

13(11)

小説紹介PVをTikTok、YouTube、Instagramにて公開中


TiktTok:@kasa_hana


Instagram:kasahana_tosho


YouTube: https://youtube.com/playlist?list=PLt3PQbuw-r8O9HSlBuZ3glNfnbs2-4Al2

「公安は教団と繋がっているかもしれないんですよね。彼らはこの事態をどう収拾するつもりで?」


 全ての渦中にいる峰村帝を犯人に仕立て上げ、公安は自分達の汚点を隠蔽しようとしている。20年前の港区女児殺害事件、そして、5年前のデパート爆破事件。そして真実の隠蔽の先に、何か別の目的を見据えている。


「その言い方は正確ではないがな。正しくは、神崎亘と一部の公安が峰村詩乃と接触を持っている」

「彼らにとっても、これは予想外の事態だと思われますか」

「飼い犬に手を噛まれたか、もしくは…」


 人の命を奪う劇薬を手にビルに立てこもり官房長官の娘を人質に国家を脅しているのであれば、それはもう化学テロ行為だ。国家を守るために存在する公安が、果たしてこのような事態を意図的に引き起こすだろうか。想定外に教団が暴れ回っていると考える方が納得がいく。


 亘は峰村詩乃を懐柔できなかった。峰村詩乃に犯罪を起こさせ、その罪を峰村帝が被る。娘を守るという大義名分で峰村帝に自供させるのであれば、峰村詩乃は青薔薇連続殺人事件を起こすだけで良かったはずなのに、事態はそんな方程式から大幅に逸れ始めている。


 亘の予想に反して、峰村詩乃は教団の頂点に成り上がった。そして、教団は再びこの国でその権力を振りかざそうとしている。


 土居に気付かれないように、小さく息を吐く。


 そんな思想は、この後に及んで酒井が亘を信じたいがために見せる妄想だ。真相はきっとそんな生ぬるい物ではないことくらい頭では理解している。


 最悪なシナリオは、亘を始めとした公安の一部が既に教団の手中にあるという事態だ。亘らが教団を懐柔したのではない。教団が亘らを懐柔した。いや、もしくは彼らは自分達の利益を分け合う対等な関係なのかもしれない。


 国を揺さぶる者達と国を守る者達。彼らの利害が一致すれば、莫大な利益を生むことも可能だ。利益というものは必ずしも金銭だけではないのだから。


 亘らは敵か、味方か。善か、悪か。偽善か、偽悪か。そんなことを考えるだけ最早無駄だ。少なくとも彼らのしていることは道理には反していて、警察官としての矜持も倫理もあったものではない。


 峰村詩乃を殺人犯として捕えるのではなく利用するのであれば、それはもう捜査一課と仲良く手を繋ぐことなどできない。


『…えー、たった今、速報が入りました』


 そんな声がして、酒井は土居と共に再びテレビに見入る。


 時折笑いを折り混ぜながら番組を進行していたアナウンサーが、スタッフに手渡された新しい原稿を受け取りながら眉を顰めている。


『新宿区のビルで…立てこもり、ですね。立てこもり事件が発生している模様です。繰り返します。新宿区のビルで、立てこもり事件が発生しているとの情報が、今入ってきました。詳細は情報が入り次第、お知らせいたします』


 生放送の情報番組の現場が何やら緊迫した慌ただしい雰囲気に包まれている。先程まで小動物の面白ろ動画を見ながら笑い合っていた出演者達の表情もどこか険しい。


 立てこもり事件の続報はすぐに報道される。内容は先ほど土居から聞いた話と大差はない。西新宿のオフィスビル前に駆け付けた報道陣がビル内を覗こうとしているが、ビル周囲には包囲網が敷かれていて、近づくことすらできなくなっている。全ての窓にシャッターが掛けられ、出入り口は固く閉ざされており、遠目からでも中の様子を探ることができないようだ。念の為の安全措置として近隣ビルの従業員の避難誘導が行われているようで、包囲網の外側には人集りができている。


 ビル内が覗けないのであればなんとか別の視点から情報を得なければと、報道陣が近隣ビルから避難してきたサラリーマンにインタビューをしている。


 最初の中年らしきサラリーマンがテレビの向こうで「よくわからない。警察にとりあえずビルから離れてくれと言われた」「仕事がまだ終わっていない。良い加減にして欲しい」と語っている。次にインタビューされていた若いサラリーマンが「5時くらいにコーヒーを飲みながら窓の外をぼーっと見ていたら、隣のビルのシャッターが次々に閉められて、人の出入りが完全に止まった。何か異様な雰囲気だった」と語ったせいで、報道陣の質問攻めに遭っている。


 教団や劇薬の話は今はまだ出てきていない。近隣のビル従業員への避難指示は毒ガスが散布されてしまった時のための措置だろうが、警察がそんな説明をわざわざ彼らにするはずもない。そんな話が漏れれば現場は一気にパニックに陥り、二次被害を起こしかねない。けれど十分な説明がなければ、避難指示に従わなければならなかった従業員達は納得がいかないだろう。


 ビルの周囲にパトカーが何台か止まっている。そのすぐ近くに大きな機動車と指揮車が止まっている。戦術服を着た何人もの警察官がテレビカメラの横を通り過ぎていて、現場は物々しい雰囲気を醸し出している。


 SITが出動している。テレビの情報だけでもそれはわかる。


 テレビを睨みつけて、酒井はぐっと拳を握り絞める。


「悔しいか」


 酒井を見兼ねてか、土居がそんな言葉を投げ掛けてくる。


「…えぇ。この事件の最前線にいられないことが、とても悔しいです」


 このテレビの向こうには教団の連中がいて、亘がそこに関わっているかもしれなくて、長年知りたかった答えがあるかもしれない。そう思うと、こんなところで足踏みをしている自分がとても悔しく感じてしまう。


 結局自分は何一つ納得できていないのだ。5年前に麗子が死ななければならなかった理由も、亘が教団と手を組んでいるのかもしれないことも。


「目的を、目指すべき場所を履き違えるな、酒井」腕を組み、酒井と同じようにテレビを睨みつけながら土居は言う。「お前の現場にはお前にしかできないやり方がある。お前にしか成し得ないことがある」


 土居の顔を横目で見る。


 珍しくも、激励、してくれているのだろうか。


 駒に道を逸れられてしまうのは困る。この男の考えることなどどうせそんなもの。


 だが、土居の言う通りだ。酒井はSITの隊員でなければ、この立てこもり事件に駆け付けた警察官でもない。けれど酒井が追っているこの事件も目指している場所は教団「  」で、峰村詩乃の確保だ。


「…朝倉を追います。そして必ず、峰村詩乃に辿り着きます」

次回投稿は7/21(日)

を予定しております。

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