狗神22
「異変とは?」
「夜中にピシリ…ピシリと家鳴りがし始めた。」
「でも…家鳴りって…
昼に膨張した木材が…
夜の寒気により冷やされ
それで歪みを起こす。
只の自然現象じゃ?」
「透よ…呪いとはのう…
別に自然現象で片付く事象であっても構わぬのじゃ…」
「でも家鳴りくらいじゃ怪異にはなり得ない。」
「良いか?
この話は400年前…
江戸の始めの頃だと言うことを忘れるな。
例え現代では説明がつこうとも…
当時の人間には十分に怪異なのだ。
お前も男なら立ち小便の一つもした事が有るじゃろう?」
「そりゃ…有るけどさぁ…」
「用を足した後に体がブルリと震える事が有るじゃろう?
現代では小便と共に体温が奪われて震えが来ると原因は解っておるが?
その頃の者達は…
原因を追及せずに
妖怪ブルブルの仕業だと考えた。
これが当時の常識なのだ…常識等…年月の変化によって変わるものだ。
常識とは…
世間一般に支持される社会通念に過ぎぬ
第一家鳴りは歪み故に
新築して十年もすれば収まる。
それが急に始まるのだ
理解できないモノは妖怪の仕業だと受け止める当時の人間には
家鳴りも立派な祟りなのだ。」
「そうか…では…
現代では妖怪の仕業だと吹聴すれば、痛い人と認識されるよ?
現代の祟りとは様相が違って来ない?。」
「何も違う事は無い…
例えば今…相談を受けた依頼人が生き霊となって取り憑いておる女…」
「福島陽子さんだね?」
「其奴は人の旦那を寝盗った後ろめたさがある。
ソコへ生き霊が取り憑けば…
福島陽子の目のはしにチラリと小さな影が飛び込む様になる。
現代人ならば目の錯覚で済ますのか?
それとも…勝手に頭の中で作り出したものと割りきるのか?
最初はそれで済む…
じゃが…そうは言っても
頻繁に…それも…日に何度もじゃ」
「そうなると目に異常が有ると考えないだろうか?」
「後ろめたさを持つ人間はそうは…取らん…
何かに取り憑かれた。となるのだ。
そして…己を追い込み…
疲僻させていく。
これが呪いの正体だ…
これは…昔も現代も無い
純然たる事実だ…
「なら…自滅していくなら初さんは死ななくて良かったんじゃ無いの?」
初はフフッと笑い
「増幅装置じゃよ?
オレの怨念は奴の自滅を確実に進める為の増幅装置に過ぎぬ。」
今一ピンと来ない僕へ…
「呪いで一番大切な事は相手が自分は呪われていると疑心暗鬼になることじゃ
それには呪詛法は
えげつなけれは、えげつない程に効果がある。
必ず相手の耳に届くからのう…」
初さんは
その…薄く形の良い唇を
少し歪めて笑った。
次回をお楽しみに。




