第二話
今回は少し短いです
水の壁の中にはこの壁を張っているであろうキアラと呆然としている泉希、そして孝と愛がいた。その壁を囲うようにして妖が二匹、醜く顔をゆがめながら中にいる人間を狙っている。
「がぁぁぁああああぁぁあぁぁあ」
人間を不快にさせる雄叫びとともに妖が水の壁に腕をたたきつける。が、壁は全く揺るがず逆に妖の腕のほうが煙とともに溶けてゆく。
「下位の妖か。高崎一人でも十分そうではあるが……。火鳥、邪魔なあいつらを叩き潰せ。一度お前のスペックを確認しておきたい。分かっていると思うが保護対象およびその周りにいる人間を巻き込むなよ」
「わかった」
何の疑問も意見もはさまずただ西条の命令にうなずき火鳥は妖のそばへ近づく。その瞬間妖が二体とも火鳥のほうを振り向く。しかし、
「きえて」
火鳥がそうつぶやくと同時に赤くどこまでも赤い炎が火鳥から放たれる。その炎は妖のうち一体を包むと悲鳴を上げさせるまもなく焼き尽くす。さらにもう一体も火鳥の炎をまとったこぶしで殴りつけられ、蒸発するかのように煙を上げて消えていく。
「末恐ろしいな」
西条は思わずつぶやく。彼自身も多くの妖を殺してきた。だからこそあの威力に一抹の恐ろしさを感じる。あの威力は普通の人間には出せるものではない。それを戦闘訓練を少し受けた程度でここまで出せる。その事実には本当に、そう本当に
「畜生」
恐怖以上の憧憬と嫉妬が彼をむしばんでいく。
(俺には力がなかった。そして今もまだ……。ああうらやましい。貴様はどうしてそんなに力を持っている?どうしてだ、どうして俺にはそれがないんだ?その才能が!)
彼が一瞬己の感情に飲まれる。そうして彼が我を取り戻したときには事態は面倒なほうへと転がっていた。
「あなたは……陰の方ですね?助けていただいたことは感謝いたしますがどうしてここに?ここは私たち陽の縄張りのはずですが?」
「命令に従っただけ」
キアラが臨戦態勢を解かずに冷たい口調で問うのに対し火鳥はただ淡々と返事をする。
「命令ですか?」
「そう。本郷孝を護衛しろ。場合によっては陰で保護しろ。それが命令」
「っ!!孝をあなたたちには決して渡しません」
(ああ、そりゃこうなるか。)
西条は思わずため息をつきそうになるがぐっとこらえて空を見上げる。彼にとってこれは起こりうると十分予想できたことであった。陰と陽は決して相容れない。目的は同じでも方法が大きく異なるからである。
(だというのに保護するなんて馬鹿正直に言うせいでこんなことに。ああ、畜生。これからどうすべきか。)
西条が頭を悩ませる間にもキアラと火鳥の応答は続く。
「どうして?あなたは彼の保護者ではないでしょう?あなたには許可をもらう必要はないはず。それにあなたに彼をかばって得られる利益はないはず」
「っ!!」
キアラが怒りのあまり声を詰まらす。それは彼女が陰の異常性を再確認したためであり、そんなものに彼女の大事なものを奪われたくないと心から思ったためである
「そうやって人の想いを何も考えない。そういう考えだから、だから決してあなたたちには渡さない!!」
キアラの言葉とともに火鳥を囲むような陣が地面を囲む。その陣は対象を縛り付け、体力を奪っていく結界系の術の中でも難易度が高い術である。その陣を無詠唱かつ無警告で放つということ。それが彼女の怒りのほどを表している。しかしその陣を火鳥はものともせず炎で地面ごと陣を焼きつぶす。だがキアラもどこからか札を取り出し構える。
「おいおい、これはさすがにやばいか?」
西条も思わず彼女たちに割り込もうとするがその直前で
「ちょっと待ってくれ」
蚊帳の外にいた人物のうち話題に上っていた本郷孝が声を上げる。ここで声を上げたのはまず第一に自分が論点の中心にいると気づいたのが大きいが、火鳥のほうも自分たちに危害を加えに来たわけではないと冷静に判断したことも少なからず存在する。
「少し落ち着こう。えっとあなたは俺たちと争いに来たわけじゃないんだよな?」
「ええ」
その返事を聞いて安心しつつも孝は頭を回転させる。
愛は俺の後ろでおびえてるし泉希も大丈夫そうにみえて手が震えてる。早く何とかしないと。ああくそ、こういう頭を使うのは麒麟の役目だろ。あの野郎早く来てくれ。もう時間だぞ。そんな悪態を心の中でつきながらも孝は冷静に会話を行う。
「えっと、俺を保護したいって話だけどそもそもどうして?」
「あなたは妖に狙われているから」
「妖?」
「さっきの襲ってきたやつらよ」
本郷孝の質問に火鳥とキアラが交互に答える。だが、二人とも互いから目を離さず、キアラは睨み付け、火鳥は冷たい目で観察している。
「えっとそもそもああいうのってたくさんいるのかな?」
震える声で泉希が話に入る。これにはキアラが答える。
「ええ、そうね、詳しくは後で説明するわ。ここを切り抜けられたらね」
そのキアラの言葉をきっかけにして西条が動く。
「いやいやここで説明してやるよ。どうせ知らなきゃいけないことだからな」




