第十九話 「2人の岡田以蔵」
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第十九話 「2人の岡田以蔵」
第一部 ― 涙の選択
京都――夜。
血に濡れた体を引きずる
岡田以蔵は、
古びた長屋の奥で倒れ込んだ。
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「……動くな」
低い声。
影の中から現れる三つの気配。
大友忍軍――
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傷口に薬が塗られる。
焼けるような痛み。
だが、以蔵は眉ひとつ動かさない。
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「……京都はもう囲まれちゅう」
忍びの一人が言う。
「新選組、幕府、土佐藩……逃げ場はない」
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沈黙。
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「……ほうか」
以蔵は天井を見た。
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「……先生は、どうなっちゅう」
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空気が変わる。
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「……」
一瞬の沈黙の後、キキが口を開く。
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武市半平太――
「捕縛中。処刑は時間の問題です」
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その言葉は、刃だった。
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「……そうかや……」
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静かに、涙が一筋流れた。
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「……先生は、最期まで“志”を貫くがじゃろう」
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拳が震える。
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「……ほんなら」
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ゆっくりと起き上がる。
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「わしも、そこに行く」
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忍び達が動く。
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「やめろ」
「それは“死”だ」
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だが以蔵は笑う。
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「最初から、そういう生き方しか知らん」
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「……人斬りじゃき」
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そして――
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「最後くらい、弟子として死ぬ」
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その目に、迷いはなかった。
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翌朝。
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以蔵は、あえて人通りに出る。
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フラつく足。
隠そうともしない気配。
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すぐに――囲まれる。
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「岡田以蔵!!」
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土佐藩の捕り方。
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その奥に見えるのは――
山内容堂の影。
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以蔵は抵抗しない。
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ただ一言。
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「……先生のとこへ、連れて行け」
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縄がかかる。
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それでも――
その顔は、どこか安らいでいた。
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第二部 ― 影の侵入
夜。
京都――土佐藩邸。
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厳重な警備。
武装した藩士。
巡回する足音。
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その中を――
“影”が滑る。
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朧。
そして、その背後にもう一人。
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霞。
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「……ここが最後の分岐だ」
朧が囁く。
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霞は、静かに頷く。
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「怖いか?」
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「……少しだけ」
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だが笑う。
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「でもさ」
「兄貴(以蔵)は、“本物”なんだろ?」
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朧は答えない。
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ただ、目を伏せる。
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「……ああ」
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屋根を渡る。
影が影に溶ける。
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警備の死角。
呼吸の隙。
灯りの揺らぎ。
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すべてを読み切り――
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侵入。
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牢。
薄暗い灯りの中。
岡田以蔵は、鎖に繋がれたまま座っていた。
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「逃がしに来た」
静かに言う
朧。
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「いらん」
即答。
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「わしは先生と死ぬ」
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沈黙。
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だが――今回は、拳は飛ばない。
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朧は、ゆっくりと歩み寄る。
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「……本気で言ってるのか?」
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以蔵は睨む。
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「当然じゃ」
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朧はため息をつく。
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「じゃあ聞く」
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しゃがみ込み、目線を合わせる。
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「お前、自分の剣がどれだけのもんか……分かってるか?」
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「……は?」
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「土佐だけの話じゃねぇ」
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指を一本立てる。
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「薩摩」
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二本目。
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「長州」
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三本目。
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「幕府――新選組」
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指を握り潰す。
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「全部見た」
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静かに言う。
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「全部、斬ってきた奴らの話も聞いた」
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「……」
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「その上で言う」
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朧の目が、鋭く細まる。
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「お前みたいな剣士は――どこにもいねぇ」
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空気が止まる。
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「新選組の沖田総司は確かに速い」
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「でもな」
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「“型”だ」
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「完成されすぎてる分、枠の外に出ねぇ」
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「薩摩の剛剣は重い。長州の志士は狂ってる」
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「でもな」
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一歩近づく。
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「お前は違う」
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低く、叩きつけるように。
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「“斬るために生きてきた人間”の剣だ」
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以蔵の瞳が揺れる。
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「理屈じゃねぇ」
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「経験でもねぇ」
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「生き方そのものが剣になってる」
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沈黙。
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「……」
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「それがどれだけ異常か、分かるか?」
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「……」
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「他の奴らは“剣を振るう”」
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「お前は“斬る”」
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「それだけだ」
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一瞬の静寂。
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「だから言ってんだよ」
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朧が、霞をちらりと見る。
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霞は、静かに立っている。
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「こんな化け物を、ここで死なせるわけにはいかねぇ」
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「……化け物、か」
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かすかに笑う以蔵。
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「褒めてんだよ」
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即答。
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「いいか、よく聞け」
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朧の声が、低くなる。
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「これからの時代はな」
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「“思想”だけじゃ変わらねぇ」
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「“力”がいる」
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「それも――本物の」
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「お前みたいなな」
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間。
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「武市半平太は“道”を作った」
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武市半平太の名が出る。
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「でも、その道を守る奴がいなきゃ――全部消える」
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刺さる言葉。
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「……先生は」
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以蔵の声が震える。
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「先生は、それでいいがか……」
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「いいわけねぇだろ」
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即答。
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「でもな」
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「先生はもう、選んだ」
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静かに言う。
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「死ぬことで、道を残すってな」
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以蔵の拳が震える。
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「だったらお前はどうする」
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「……」
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「一緒に死んで、道を消すか?」
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「それとも」
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一歩踏み込む。
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「生きて、その道を“守る側”に回るか」
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沈黙。
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長い、長い沈黙。
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やがて――
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以蔵が、ゆっくりと顔を上げる。
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「……わしは……」
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息を吐く。
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「……剣じゃ」
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「人間でも、志士でもない」
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「ただの剣じゃ」
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朧が頷く。
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「だから生きろ」
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「剣は使われてこそ意味がある」
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「ここで折れるな」
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空気が震える。
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「……アタシの弟が」
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後ろの霞を見る。
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「お前の代わりに死ぬ」
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静寂。
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以蔵の瞳が、揺れた。
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霞が一歩前に出る。
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「任せろよ、“本物”」
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「アンタの代わりくらい、やってやる」
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笑う。
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その笑顔が、やけに明るい。
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以蔵の目から、静かに涙が流れる。
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「……すまん」
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それしか言えなかった。
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朧が背を向ける。
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「決まりだ」
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「行くぞ」
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その瞬間――
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岡田以蔵は、“死”を選ぶ男から
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“生きて背負う男”に変わった。
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第三部 ― 偽りの死
夜明け前。
処刑場。
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縄に縛られた男が立つ。
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顔は――
岡田以蔵。
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だが違う。
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それは――霞。
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遠くで、以蔵は押さえつけられていた。
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「……やめろ……」
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動けない。
「やっと!やっと!わかったぜよ!」
「ワシは!身代わりを立てる様な人間じゃねえ!」
「ワシはクズじゃ!畜生じゃ!道端に転がる犬の糞じゃ!」
「オマンこそ!生きる価値がある人間じゃ!」
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「やめろやあああああ!!!」
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叫びが響く。
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霞が、わずかに笑う。
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「……頼んだぜ、“本物”」
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刃が振り下ろされる。
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――終わり。
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静寂。
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以蔵の目から、涙が溢れる。
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朧が無理やり引きずる。
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「見ろ!!」
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「見るんだよ!!」
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怒鳴る。
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「目を逸らすな!!」
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「お前の命は!!」
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「今、死んだアタシの弟!霞の命だ!!大友忍軍の忍者の命だ!」
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以蔵は、崩れ落ちる。
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「……なんでじゃ……」
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震える声。
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「……なんで、わしが……」
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朧が掴み上げる。
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「生きる価値があるからだ!!」
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沈黙。
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風が吹く。
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「……これからは」
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朧が静かに言う。
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「大友忍軍として生きろ!自分勝手に命を使うな!」
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「義のために」
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以蔵は、ゆっくりと立つ。
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その目は――
もう“人斬り”ではなかった。
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「……わかった」
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低く、重く。
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「この命」
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「無駄にはせん」
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夜明け。
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一人の男が死に。
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一人の“影”が生まれた。
---
――続く(豊後国・別府・忍の里、乙原の里へ)
この技のリアルな動きはYouTubeで公開中!
「大友宗麟の忍者」
・「手裏剣の有効性についての検証」
・「アニメーションで見る豊後国・乙原の里・隠れ里の説明」
・大友宗麟の忍者の末裔が現代のスポーツ・アーチェリーや陸上競技で応用
・陸上競技ハードル走での忍術トレーニング
・陸上競技100メートル走での忍者ダッシュ!方法の説明!
などなど…
https://www.youtube.com/@%E5%BF%8D%E8%80%85%E3%81%AE%E3%81%8B%E3%81%A8%E3%81%86%E3%81%95%E3%82%93




