表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルミアと精霊樹の魔法使い  作者: 羽紗子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/13

1.セレスタイト

 これはまだ、地上の生者(せいじゃ)の住む世界と、地下の魔物の棲む魔界との境界線が、とても近くて薄かった時代のお話です。


 海や山や、森や砂漠などを隔てて、人々の暮らす国々が点在していました。小さくて、すぐにも消えてしまいそうな国があれば、他国を呑み込みながらなおも拡大して行く国がありました。そして、消えたと思えば、再び甦る国さえあったのです。

 さながら、夜空に瞬く星々のように。

 そして、それらを繋ぐ星座の線か、もしくは見上げた樹の枝に掛けられた蜘蛛の巣の、無数の糸のごとくに、陸上や海上に巡らされた街道や船の道は、国と国とを繋ぐ大切な生命線でした。


 パピルス紙に描かれている地図を確認した後、父はそれをくるくると丸めて懐にしまいました。それから母に


「もう少しだから、持ちこたえてくれ。次の国は船で行ける。あと、もう少しの辛抱だ」


 そうして、青白い顔をして時折咳き込む若い妻の背を労るように摩ります。しかし、その大きな手の持ち主こそ、紙のような顔色をして、額に汗を浮かべて、震えるように辛そうな息を吐くのです。

 小さなエルミアは歩き疲れていましたが、三人の内でただ一人健康体でしたから、弱音は吐かないと決めていました。二人を両腕でギュッと抱き締めることしか、今は出来ません。


「次の国へ着いたら、今度こそ治癒魔法で治してもらえるんでしょう? それまで、私が支えるから!」


 父は、目尻に皺を寄せて笑いました。それは、まだ元気だった頃の面影が掠めて、それを見たエルミアは、胸の内側から警鐘のように早く打ち付けていた鼓動が少し落ち着いたようでした。

 大好きな手のひらに頭を撫でられて、被っていたフードが背中に落ち、前髪が乱れ、吹きすさぶ風に三つ編みが踊りましたが、彼女は幸せでした。


「優しい子だよ、お前は」


 母も抱き締め返し、


「元気になったら、また美味しいお菓子を作ってあげようね」


と、言いました。


「うん! そうだ、私も一緒に作りたい。作り方を教えてほしいの。いいでしょ?」


「もちろんよ。ああ、今から楽しみだわ」


 眼差しを細める母の顔色が少し良くなって来たように見えて、エルミアはようやく作り笑いではない本当の笑顔を見せました。


 エルミアの母と父は、娘が大分気を使って無理をして強がっていることに気がついていましたが、まだ、本当の意味で安心させてやることが出来ないのを、心苦しく思っていました。


 ――これから、もし、あの子がたった一人になってしまう事があるとしたら、根なし草で頼りない私たちだけれど、せめてそうなる前にあの子に安全な居場所を見つけて残してあげたい――。


「さあ、行こう」


 父が皆を促しました。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 その大国に行く船には、エルミア一行と同じように病気や怪我の治療のために向かう人が多く同乗していました。


 両親が眠っている間暇をもて余していたところ、美しい竪琴の音色を耳が拾って、辿って行った先の船縁にその人は片ひざを立てて座っていました。

 話をするうちに仲良くなったセレスタイトという吟遊詩人は、日焼けして小皺がちらほらあるけれど見かけよりも若いようです。笑うと青い目が輝き、むしろ幼ささえ感じました。

 そして、一見男性に見えますが、実は女性です。それを知ったときは、エルミアはすぐには信じられなくて目を丸くしました。こっそりと巻き付けていた布をほどいて見せてくれた胸が確かに膨らんでいたので、ようやく信じられたほどです。

 その格好であちこちを旅して、魔物とも何度か戦ったことがあると話しました。


 暇潰しを兼ねて竪琴(フォルミンクス)を爪弾き、病人の為に波音や風と重奏するような滋味溢れる曲を奏でながら『なぜ、力の強い魔法を使える所が三つの国しか無いのか?』という話をしてくれました。

 

「時代を何千年も遡れば、魔法の力を宿した精霊樹は世界中のあちこちに生えて広大な枝葉を伸ばしていましたが、この時代には、なぜか、たった三本にまで減ってしまいました。

 トケイ国、ケムリ国、そして、この船が向かう先のマヨ国。この三国だけに、貴重な樹が生えているのです。

 普通の樹は大地から水や養分を根から吸い上げ、天からは光と空気を葉から吸収して清浄な空気を放ちながら育ちますが、精霊樹は少し違います。大地から水と魔素を根から吸い上げ、天から光と空気を葉から吸収しつつ、清浄な空気と共に魔素を吐き出します。この魔素というものが、魔法の源らしいのです。詳しいことは、まだ解明されていませんが、精霊樹のあるところに魔法使いが育つようですね」


 職業柄か誰にでも丁寧な言葉遣いで、ほんの子供であるエルミアに対してもそうでしたから、彼女は背伸びして使ったことすらめったに無い敬語を使おうとしましたが、危なく舌を噛みそうになってあえなく挫折しました。


「そうしたらその精霊樹の近くに行ったら、私も魔法を使えるのでしょっ……かしら?」


 き、気づかれなかったよね。と思っていると、セレスタイトに『可愛らしいなあ』と思っているのがありありとわかる笑顔を向けられたので、顔に火がついたようになりました。


「魔法を使えるのは、一部の素質のある人と、精霊や妖精たちだけらしいですよ」


 その後何事も無かったかのように答えを返されましたので戸惑いましたが、始めに挨拶をしたときに『気楽に暇潰しの会話に付き合ってくだされば嬉しいです』と言われたことを思いだしました。

 今さっきの小さな失敗は無かったことにして忘れようと、ふるふると首をふり、どうにか元の調子を取り戻しました。


「素質があるって、どうすればわかるの?」


「それは、私にも分かりません。けれど、出会ったことのある魔法使いさんの話によれば、物心ついた頃には魔素の存在を感じ取れたそうです」


「そう……。私は、この前までトケイ国にいたの。そこには魔素があるはずなのに見えなかったわ。きっと、私には魔法の才能が無いんだ……あーあ、魔法が使えたら、お父さんとお母さんの病気を治してあげられると思ったのに」


「トケイ国に? よくご無事でしたね。あの国は今、魔物が多く出るようになりましたから、神殿の治癒魔法使いでさえ、魔物退治に駆り出されていると聞きます。そんな状態ですから、ろくろく治療も受けさせてはくれなかったことでしょう」


「その通りよ。あのままあそこに居たって治療の順番が回って来るより先に魔物に食べられちゃうから、逃げて来たの。きっと、この船に乗っているほとんどの人たちは、そうよ」


 セレスタイトは、ふと空を見上げて考え込むように黙りました。エルミアも黙って未だ奏でられ続けている音楽に耳を傾けます。

 詩人の隣に胡座をかいて座り、その様子を飽きることなく眺めました。木目の竪琴を片腕で抱えながら長い指先が一音一音紡ぐ度に、さざ波と共鳴して震える九本の弦。


「そうだ、昔、ある話を聞いたことがあります。精霊に愛された人の話です。なんでも、その人は元々魔法の才能が無かったにも関わらず、精霊を助けたことで友となり、長く共に過ごすうちに、いつしか、魔法を使えるようになったそうです。本当の話かは分かりませんが」


「!」


 エルミアはたちまち目を輝かせました。


「教えてくれてありがとう、セレスタイトさん。私、精霊に会いに行くと決めたわ」


 セレスタイトは、不思議な眼差しを向けて何かを言いたそうにしていましたが、結局、


「会えたらいいですね」


 とだけ伝えました。


     ◇◆◇◆◇◆


《三国の歴史と魔法について》


 精霊樹を離れて国外では、魔力は弱まるが、使えないことはない。

 魔法は便利で、水路の建設も下水道の整備も全て人力で行うよりも早く出来るし、火も起こせれば、病も治せて、なにより攻撃の威力があるから国防に役立つ。魔法はまだまだ研究の余地があり、その分野に足を踏み込んだ者が言うには、


『さながら、水溜まりだと思い足を踏み出した先が深海に繋がる洞窟の入り口だった』


らしい。さらには、


『その深さたるや、真っ暗闇で一寸先も見えない』


と。――つまり、光の届く入り口の水溜まり付近までしか、解明されていないのである。それでも、簡単な魔法は大層国民の生活を豊かにした。


 それを妬む国々があることも、また必然かもしれない。国を豊かにするためになんとか魔法の力を手にしたいと画策し、仕掛けてくる者たちが歴史上絶えることが無かった。

 暗殺や乗っ取りを企まれたり、その他色々。それに加えて、魔法を使える国では何故か魔物の発生が多いので、その対処にも人手を割かなければならない。

 しかし、魔法の無い小さな国々は脅威ではなかった。むしろ、同じく精霊樹が根差す三国同士が実は最も警戒すべき相手だった。


 これまでの歴史の中で、競うように戦が続く時代があった。周囲の小国を呑み込みながら拡大を続けた国が行き着くところは、魔法の力の及ばず治めきれない辺境の地の荒廃と、魔物の大発生だった。三国は休戦し、お互いに人質を交換する事で一先ずの平穏を得た。

 それが数百年の間変革する者もおらず、ずるずるとその悪習じみた規則を守り続けた。平和を維持するためと言い聞かせて、自国にとっても相手国にとっても価値のある、大切な身内を一人ずつ、そうして何度も送り出し、また迎え入れてきたのだ。


      ◇◆◇◆◇◆


『マヨ国』って書く度に、なぜか笑えてくる。


 中途半端で申し訳ないです。

 短編にしようと思いましたが、力尽きました。

 続きは……書け次第投稿します。

 残酷なシーンが近づくと筆が止まる病に罹かっていますので、期待せず、気長にお待ちくだされば幸いです。もしかしたら、残酷な描写は作者都合で無くなるかもしれません。

 思ったより長くなりました。


 ここまでお読みくださり、有り難うございました


 この先に挿し絵があります↓




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ