ʏ( 八 )ʏ あーん~
今回AIによるイラストが入っています。
「ところでアキユイちゃん、朝ごはん食べた?」
突然話は変わった。
「そういえばまだね」
朝起きたら妖精になってすぐ家から飛び出てきたから。
「ぼくは普段朝起きたら母が準備しておいた朝食を食べるよ。よろしければアキユイちゃんも何か一緒に食べない?」
「それもいいかも。そういえばわたしももうおなかすいたね。ありがとう」
そしてわたしはマユユキくんと一緒に2階の寝室から出て1階に下りて食事室に入ってきた。
「こんなものでいいかな?」
マユユキくんは冷蔵庫からショートケーキが乗っている皿を取り出して食卓に置いた。それを見たわたしはわくわくしてその皿のほうへ飛びこんできた。
「わー、巨大なケーキ~。本当にありがとう! こんなもの本当にもらっていいの?」
こんな巨大な食べ物なんて夢みたい。いや、これは本当に夢だし? やっぱり夢だよ。めっちゃいい夢。
「もちろんだ。これはただ普通のケーキ屋さんから買った普通の小さなケーキだから遠慮しなくていいよ」
まあそうだろうね。本当は普通にどこにでもあるようなケーキだろうけど、いまのわたしにとっておそらく一日中食べても食べきれないくらい大きいから特別に見える。
「あ、わたしつい皿に乗ってしまったけど、だいじょうぶかな?」
大きなケーキを見て喜んで近くで見たいからついケーキの皿の上に乗ってしまった。いま素足だけど、それでもやっぱり食べ物が乗っているお皿を踏むのはなんか悪いと思ってしまう。
「別に全然問題ないよ」
「いいの?」
マユユキくんがかまわないならそれでいいか。ではえんりょなく……。
ケーキのそばに置いてある巨大なスプーンを持ち上げた。巨大といっても実はおかし用の小さめなスプーンだけどね。いまのわたしにとって大きなほうきでも持っているみたいな感覚だ。持てないほどの重さではないけど、金属だからずいぶんと重い。あまり余裕であつかうことはできないみたい。
スプーンを持ったままわたしはケーキのそばで足をのばして座る。
「いまの皿の中のアキユイちゃんとケーキ、なんか絵になるね」
「そ、そこまでか……」
マユユキくんは満足そうな笑顔でじっとわたしを見つめてニコニコしている。
「でも皿に乗ったとしてもわたしのことまで『食べ物』だと思われたら困るよ。わたしなんか食べてもおいしくないと思うし」
「いや、そんなことないよ。こんなにおいしそう……あっ」
「え? はい!? それはどういう……!?」
いまのはわたしとして冗談のつもりで言ったけど、意外な返事だ。マユユキくん、もしかして本気でわたしを食べるつもり!? そう聞いてわたしは警戒して反射的に両手でカタナをふるみたいなかまえでスプーンをにぎることにした。いま思えばこれはきっとこっけいな光景だろうね……。
「あ、いや。別のそんな意味じゃ……。ただ食べちゃいたいくらいかわぃ……いや、なんでもない。その……」
また何か言いかけて途中でやめたようだけど。
「とりあえずアキユイちゃんのことを食べたりしないからそこまで警戒しなくても……」
「……本当?」
「なんでぎしんあんき!? ぼくは人間同士を食べるわけないだろう」
「いまわたしは妖精だけど」
「妖精も人間も同じでしょう」
「そ、そうだよね。もう……。本気で食べられるかと思ったよ」
まあ、マユユキくんになら食べられてもかまわないと、つい思ってしまうけど? わたしの味を気にいってくれるのかな? なんちゃってね。
「ぼくにはこれがあるしね。ではいただきます」
マユユキくんもお母さんが準備しておいたフレンチトーストを食べ始めた。
「ではわたしもいただきます」
わたしはスプーンを持ってケーキを小さく切ってスプーンの上に乗った。これだけでもずいぶんと力をしょうもうしたよね。大きなスコップで土をすくうみたいな感じ。体が小さいとケーキを食べるだけでもこんなに大変だなんて。
それに次はどうやったら? スプーンのがらを手に取ったままスプーンに乗っているケーキを自分の口に向けようとしたけど、これムリなのでは? うまく説明できないけど、これは長いカタナやほうきのがらを手に持ったままはしっこを自分の顔をさすことができないのと同じだ。わたしはどんな体勢でいけばいいかわからなくて迷っておどおどして、結局何も始まらなかった。
「やっぱりぼくは手伝おう」
わたしのようすを見ていられないせいか、マユユキくんはスプーンをうばってしまった。
「あ、ごめん。ぼくは余計なことをしてしまったかな」
スプーンをうばわれてポカーンとしたわたしを見てマユユキくんが謝ってきた。
「ううん、これでいいと思う。ありがとう。では頼むよ」
自分で食べられないのはちょっと不本意だけど、しかたないことだし。それにマユユキくんにあーんとしてもらえるのも悪くない。むしろとてもうれしいことだ!
「では……」
マユユキくんはケーキの乗っているスプーンのはしっこをわたしに近づけてきた。
「あーん!」
わたしはできるだけ大きく口を開けようとしている。もちろん、それでもこんな大きなスプーンはわたしの小さな口の中に入れられるわけがない。結局ケーキを口いっぱいかんで、ほおばって食べた。
「やっぱりスプーンはいまのアキユイちゃんには大きすぎる?」
「そうみたいね」
口いっぱいケーキが入っているせいで言おうとしたらうまく発音できない。
「何を言っているかわからない。食べ終わってから言えよ」
「うっ……」
マユユキくんに笑われた。もう……。