ʏ( 七 )ʏ 優しい手
「ね、その……とつぜんですまないけど、いまのアキユイちゃんの体……その……さわってもいいかな?」
「え?」
いきなり意外な要求が来てわたしはビクッとしてつい少し後ろのほうへ飛んできょりを取ってしまった。
「あ、ごめん。いやなら別にいいけど」
「その……べ、別にいやっていうわけではないけど、どうしていきなり?」
「それは……いまのアキユイちゃんはなんか小さくて、かわ……えーと、おニンギョウさんみたいで……」
「ニンギョウって……。マユユキくんはニンギョウが好きなの? 男の子なのに?」
わたしでニンギョウ遊びしたいの? こんな意外な一面もあるとはね。
「え? ち、ちがう。そういうことじゃなく……」
「別に好きなら好きって言ってもいいよ。趣味は人それぞれだし」
「だからちがうって! 好きなのはニンギョウではなく、アキュ……いや、やっぱりいい。何でもない」
「……?」
何か言おうとして途中でやめたようだけど、まあいいか。
「わかった。さわりたいなら別にかまわないの」
わたしだってさっきかってにマユユキくんの体の上に乗ったし。踏んだし。本人には言わないけどね。だからこれくらい別にかまわないよ。むしろマユユキくんから来るなんてやっぱりうれしいかも。それにアキネとちがって、優しくて気づかいがよいマユユキくんなら意外と平気な気がきる。
「あ、でも一応優しくしてね。いまのわたしはこんなにちっちゃいのだから」
「もちろん大事にするよ。でも本当にだいじょうぶなの?」
「うん、どんとこいよ」
いまわたしはマユユキくんの視線と同じくらいの高さに飛んでういている。マユユキくんが軽くうでをのばしてきたらすぐ届くくらいのきょりで。
「では……」
そう言ってマユユキくんの巨大な手はわたしのほうへどんどん近づいてきて、とつぜんわいてきたきょうふかんのせいか気がついたらわたしは目を閉じてしまって体がふるえている。
マユユキくんなら優しくしてくれて問題ないとは思っていたけど、自分の身長と同じくらい巨大な手がせまってきたらやっぱり心の中ではまったくこわがらずに落ち着くなんてムリだ。
「やっぱりやめよう。ごめんね」
「え?」
もう一度目を開けたらマユユキくんの手が遠くにはなれていっている。まだ全然ふれていないのに。
「なんで? わたしはだいじょうぶって言ったのに」
「でもアキユイちゃんはなんかこわがっているように見えるから」
「そ、それは……」
なるほど、わたしはこわがったせいだな。気をつかってくれたんだ。やっぱりマユユキくんって優しい。わたしのほうこそついかってにこわがって気に病ませてしまって悪かった。
「別にわたしこわくなんかないよ!」
わたしはマユユキくんの手のひらに飛びこんで、そして親指にしがみついた。
「え? アキユイちゃん!?」
「ほら。もう全然こわくはない。マユユキくんの手はこんなに暖かくてやわらかくて優しさを感じるから」
「アキユイちゃん……」
そしてマユユキくんは指先でわたしのうでやハネを軽くふれ始めた。思った通り優しくて気が利く指だ。そしてやっぱりそれ以上のことはしてこなかった。そもそもどれくらいさわっていいか言っていなかったが、マユユキはこれ以上女の子の体をさわってはいけないってことくらいわかっているはずだと信じているから。そしてこんな小さな体になってもやっぱりわたしのことを一人の人間の女の子として思ってくれているのね。
「やっぱりマユユキくんはこんなに大きくても優しいのね」
手のひらの上に乗ったわたしはマユユキくんの顔を見上げた。
「大きいって……。ただアキユイちゃんが小さいだけだろう」
「まあ、たしかにそうだね。でもこんな体になると何もかもが巨大に見えるの。わたしからすればいまのマユユキくんだって巨人みたい」
「ぼくが巨人? あはは。いや、ぼくなんか。なんかおもはゆいね」
マユユキくんははずかしそうな顔で苦笑いした。
「そうね。本来ならわたしよりちっちゃいくせに」
「うっ……。ぼくはまだ成長期だからいつかアキユイちゃんより大きくなるよ!」
マユユキくんは同い年の子の中で比較的に背が低くて、本人も気になっているようだ。でも男の子だからいつかわたしより高くなるのは当たり前だろうね。あんな成長したマユユキくんもいつか見たいから楽しみかも。まあ、いまみたいに10倍くらいの大きさということないだろうけど。




