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女子高校生の恋愛事情  作者: 斯波@人質聖女コミック②発売中
打ち上げ花火は夜空で弾ける
16/24

4.

 当日の天気予報では降水確率40パーセントなんて中途半端な数字を示していたけど、空を見るかぎりは多少雲があるだけで雨の心配はなさそうだ。


 日が暮れてからは沙織と二人で浴衣を来て、早く約束の時間にならないかとはしゃいだ。カチコチとゆっくりと進む時計のハリが妬ましく、けれど止まってしまえばいいとさえ思ってしまう。


 沙織の幸せとわたしの可能性、その両方を片方の受け皿に乗せて天秤にかけた。もちろんあの洗濯は間違ってなかったはずだ。だが今さらになって胸が騒めく。


「初香ちゃん、そろそろ行こうよ」

「うん、そうだね」

 止まれ、止まれ。

 大きくなる騒めきを必死でおさえながら沙織と手をつなぐ。

 小学校で出会った時からずっといっしょだった沙織。わたしがその手を握るのはきっと今日で最後になる。だってこの場所は真田のものになるから。


 待ち合わせは神社の鳥居の下にある石段。そこにはすでに真田と秋庭の姿があった。二人のリアクションは真逆で、沙織の浴衣姿に見惚れる真田と、わたしがこの場にいることが信じられないとイヤな顔を隠そうともしない秋庭。もちろん口を開いて出た言葉も違う。


「カワイイ……」

 簡潔に、けれども嬉しい言葉を書けたのは真田。

「なんでいるんだ……!」

 わたしの手を引き、口を耳元によせて話すのが秋庭だ。


 秋庭の顔は歪んでいて、今までで見た中で一番を記録するほどの嫌そうな顔だった。

 それはもうここに来たことを軽く後悔する程度には。



「別にいいでしょ……」

 そう返す言葉も弱くなる。

 浴衣を着てオシャレして、カワイイって言ってくれるかななんて少しだけ期待していた分、テンションは急降下する。


 普通に考えれば秋庭がわたしの浴衣姿を褒めるわけなどないんだけどさ……。でもこんなに嫌がられるとは露ほどにも思わなかった。


「花火の打ち上げまで時間あるから適当に回ろうか」

 不機嫌な秋庭とテンションだだ下がりのわたしとは対極に、沙織の浴衣姿を拝めた真田は試合で点数を取った時よりはしゃいでいた。


「そうだね。あ、初香ちゃん、わたあめ、わたあめあるよ!」

 そして沙織は初めての屋台に子どものように目を輝かせていた。


「沙織、わたし買っ「俺が買ってくるから待ってて」

 いつものように買ってくるから待っていてくれとわたしが言うよりも早く真田が沙織を制して店へと向かう。


 ああ、そうだ。今日は真田がいるんだ。


「はい、沙織ちゃん」

「ありがとう」


 その姿は沙織の恋人候補の行動としては褒められるべき行動なのに、役目を取られてしまったことに苛立ちと悲しさを覚える。


「はい、初香ちゃんも」

「あ、ありがとう」

 けれど真田はそんなことも知らずに協力者のわたしにまでわたあめを渡してくる。これは好意と取るべきかはたまた協力を承諾したお礼と取るべきか……。


 真田と沙織が二人きりになる代わりにわたしと秋庭も二人きりになる、というのは秋庭の態度からしてムリそうだけど、何とか決行しなければならなさそうだ。

 どうやって秋庭をこの場から引きはがそうかと悩んでいるうちに花火の打ち上げ時間は刻一刻こくいっこくと近づいてきた。それに伴っていい場所を確保しようと人々がたくさん押し寄せる。初めは何とか他の三人について行くことが出来ていた。けれど浴衣だからと慣れないゲタを履いているせいか思うようには進めない。



「すいません、すいません」

 人を避けて進んで行くと目の前にはもう三人の姿はなかった。


「沙織! 沙織―」

 どこにいるの? と叫ぶと遠くで「初香ちゃん、初香ちゃん」と沙織がわたしを呼ぶ声がした。けれどそれはあまりにも遠く、いつの間にか聞こえなくなってしまった。


「わ、あ、すいません」

 人ごみの中に紛れて一人、流れに背いて人探しをするわたしはとても邪魔だ。よくぶつかるわ、舌打ちされるわで散々だ。


「何してんだろ……」

 はあっと深いため息が自然とこぼれた。

 疲れたなぁ……。

 脇道に避けると屋台の裏手に石段を見つけた。

 普段はあまり来ないから気づけなかったが、近隣住民にはちょうどいい休憩スポットとして知られているのだろう、ちょくちょくとそこに腰かけている人たちが目に入る。わたしもそこに座り、足をふらつかせる。そして巾着から取り出したスマートフォン片手に悩んだ。


 連絡を取るべきか否か。

 わたし一人ではあるが『打ち上げ花火の少し前に分かれよう』と真田と打ち合わせした通りにはなっている。今さら連絡したところで、最悪沙織たちは打ち上げ花火を見れずに終わってしまう。だからといって二人きりと三人じゃムードも何もが変わってしまう。不測の事態だったとはいえ最悪のタイミングで分かれたものだと我ながら呆れてしまう。


 せっかくの花火大会なのに……。

「はぁ……」

 下を向いて吐き出したため息は石畳に吸い込まれて行った。



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