第二十二章 新旧『魔の極致』、その邂逅
それは呆気ないほど簡単な邂逅であった。
「きひひ☆ 随分とまあ分かりやすく力の波動を撒き散らしていることで。誘き寄せたつもりなわけ?」
「るんるんなんだゾっ。獲物が自分から姿を現したんだから、後はぶっ殺すだけなのだ! 楽チンなのだゾ☆」
「くっくっくっ。中々の力の波動ではないかっ。それだけの力の持ち主どもなれば我が究極絶対奥義の餌食に相応しかろうぞ!!」
鮮血のごとき長髪に赤い瞳の旧『魔の極致』第二席キアラ、ピンクのふりふりに白のもふもふを加えたドレス姿の旧『魔の極致』第五席ルルアーナ、眼帯にゴスロリなどある分野における格好いいものを片っ端から身につけた旧『魔の極致』第九席ミュウ。
レイ=レッドスプラッシュが頼った中でも破格の戦闘力を持つ実力者たちはそれこそ散歩でもするかのような軽い足取りで『そこ』にやってきていた。
ゼリシア=キラーゾーンの住まう別荘がある山の近くにある、何の変哲もない草原。障害物がなにもない広大な空間にて怪物たちは正面に視線を向ける。
──『そこ』で邂逅したのだ。
例えば黒のとんがり帽子に黒のマントの魔女っ子、殺しにこそ生きる価値を見出す新『魔の極致』第十席モルガン=フォトンフィールド。
例えば柔らかい笑みが特徴的な燕尾服姿の優男、金を稼ぐためなら善も悪も貪る新『魔の極致』第九席エクスペンタリア=ゴージャスストリーム。
例えば五メートルはある筋肉の塊みたいな体躯の大男、強大な『敵』を倒すことで英雄譚の一幕みたいな結果を導くためならわざと悲劇を誘発することも厭わない新『魔の極致』第八席ジャスティス。
例えばぴょこんと頭から薄いピンクのうさ耳を生やし、瞳は猫のようでいて、両手のひらは犬のような肉球で、小さなお尻から九本の狐の尻尾を揺らす獣人の女の子、強大な存在の影に隠れて安全のみを追求する新『魔の極致』第七席キメラガール。
例えば人形のように変化のない能面みたいなダークスーツの女、作られた目的のためだけに生きる新『魔の極致』第六席ファクティス。
例えば王冠をかぶり真紅のマントを羽織る偉丈夫、滅びた大国を復活させるためなら他の国を全て滅ぼすことだって必要経費と考えるかつての王様の成れの果てである新『魔の極致』第五席ゴーゾン=ゼクソシス=エンペラー。
そして。
サイズが合っていないのかぶらぶらと余った袖を揺らす黄色パーカー姿の女エルフ、最愛の女が目指した世界最強という夢を叶えようと足掻くことで喪失を誤魔化すためならいくらでも殺しをばら撒く新『魔の極致』第四席スフィアが口を開く。
ぶらん、と。
余った袖で正面の古き金字塔たちを指し示して、
「一人足りないカモ。わざわざ誘き寄せたワケだから、素直に全員殺されに来るべきカモ」
対して。
旧『魔の極致』第二席キアラもまたわざとらしく立ち塞がる新たな金字塔たちを指で指し示して、
「それはこっちの台詞よね。二つ、獲物が足りないわよ。まったく、『魔王』を超えるまでの退屈しのぎにして手慰めでしかないやられ役のくせに出し惜しみなんてしているんじゃないわよ。どうせ、全員、死ぬんだし」
それだけだった。
旧にしろ新にしろ、本能の部分で理解していた。
こうして出会ってしまったら、そこまで。
『旧世代』と『新世代』、どちらかが全滅するまで殺し合うのみ。
ゆえに、それは必然だった。
ゴゥッッッバァッッッ!!!! と無自覚や無意識を支配するだとか、超常を無効化するだとか、そんな特別な性質なんて何もない、純粋なエネルギーが激突したのだ。
草原を瞬く間に砂漠に変えるほどの余波を撒き散らす激突を挨拶代わりとして、真なる実力者同士による殺し合いが始まる。
ーーー☆ーーー
超常の濁流、まさしく無数と呼べる力の奔流を前に剣と剣とで鍔迫り合うシンシヴィニア=セレリーンは対応することはできなかった。
ゆえに、しかし。
ゴッバァ!! と横腹を突く形で炸裂した暴風がシンシヴィニアとピーチファルナを真横に吹き飛ばす。
超常の濁流が獲物を呑み込みそびれて、何もない空間を突き進む。その間にもゼリシア=キラーゾーンは動いている。その手に握った剣を突きつけ、新たな超常の濁流で今度こそシンシヴィニアやピーチファルナを叩き潰さんとする、その瞬間。
「我が自慢の娘に何をする気だァッ!!」
轟音が炸裂した。
全知全能を司る怪物の頬を男の拳が打ち抜いた音である。
セレリーン伯爵家当主。
『貴族として』生きてきた男は、あくまで『貴族として』暴風でシンシヴィニアやピーチファルナを助けた上で真っ直ぐにゼリシア=キラーゾーンへと立ち向かう。
「どうやら理解しきれていないようだから教えてやる。シンシヴィニアは、お前が手を出したのは! セレリーン伯爵家の長き歴史の中でも最も優れた唯一の跡取りだ!! シンシヴィニアならば、才能があってなおかつ努力を惜しまない我が娘ならばセレリーン伯爵家をより一層高みへと成長させてくれるんだっ。わかるか? お前は我が娘が飛躍するための単なる踏み台に過ぎないんだ!! ああ、ああそうだ、踏み台なんだ。気の迷いなのか、判断ミスなのか、今のシンシヴィニアはちょっと暴走しているが、この状況を利用すれば踏み台を踏み台として消費することができるんだ!! 『貴族として』必ずや上に突き進んでくれる我が自慢の娘のために、お前はここで死ね!!」
そして激突があった。
セレリーン伯爵家当主。『貴族として』生きてきた男は、いつだってセレリーン伯爵家のために、そして己が支配する民のために上を目指し続ける。
ーーー☆ーーー
「相変わらず我らが当主様は典型的な貴族だよなあ。娘を助けたいって当たり前の答えをどうしてああも『貴族らしく』変換できるのやら。まあレッドスプラッシュ公爵令嬢にシンシヴィニア様の暴走を隠したりと、完全に庇い立てするくらいには想っているのはわかってたがよ」
「いかにシンシヴィニア様助けるためであり、セレリーン伯爵家のためっぽいとしても、女の子殺すっつーのは受け入れられねえがな。ったく、たまに暴走すんだよなあ、当主様。こりゃ力づくでも軌道修正しねえとな」
セレリーン伯爵家に仕えし私兵たちは呆れたように吐き捨て、
「チッ! いかに目まぐるしく状況が進んだとはいえ、ここまで致命的に出遅れるなんて情けねえったらねえぜクソが!!」
「愚痴る前に突撃だボケ!! 出遅れた分取り戻すぞコラァ!!」
治安維持部隊の面々は恥じるように吐き捨て、そして前に踏み出す。
出遅れたことは確かだ。
力不足であることも理解している。
それでも、だとしても、行動しない理由にはならない。勝ち目があるかどうかではなく、守りたいと思えるかどうかが重要なのだから。
ーーー☆ーーー
ぎぢり、と。
地面に倒れ、血だまりに沈み、それでも剣を握るその手に力が戻る。
それについていくようにドンッ! と拳が地面に叩きつけられる。
「ぁ、ばぶっ、がぶっべぶっ!! ちょっ、と……しくじったです、ね」
「ちょっと? まあ、いいさ……。これから、どうするのさ? 私としては、全員で逃げる方向に……持っていきたい、ところなんだけどさ」
その問いに対する答えは一つしかなかった。
おそらく問いかけた少女もまた知っていたことだろう。
「戦うに、決まっています……ッ!!」
無駄な問いかけをしたと言いたげなため息があった。そう、馬鹿はどこまでも馬鹿なのだ。
諦めるだの何だの、賢い選択とは無縁なのだ。どれだけ困難な状況だろうとも立ち向かうことから逃げたりはしないのだ。
ついていくだけでも命がけだ。
見捨てて一人逃げたならば生存率は遥かに上がるだろう。
そんなこと考えもしないからこそ、結局は最後までついていくことになるのだろうが。
ーーー☆ーーー
世界のどこかで女の呟きが一つ。
「真っ向勝負で勝つのは不可能、ト。マァそれならそれでやりようはあるんだケド」
ーーー☆ーーー
レモンファルナは久方ぶりに受けた戦闘での負傷に懐かしささえ感じながらも、どこか遠くを睨みつけてこう吐き捨てていた。
「あなた以外の意思が混ざっていそうね。不器用なあなたがこの状況で黙っていることなんてできないだろうし、ね」
それはまるで世界のどこかに潜む女に突きつけるようであった。もちろん彼女は世界のどこかに潜む女を知らないし、その企みもまた知らないのだが。




