第十一章 日常を崩す騒乱の調べ
「ん? これは……」
「どうかしたカモ?」
「世界の記憶ちゃんを読み取るスキルちゃんは知っているよね。今を含む全時間軸ちゃんでの記憶が刻まれし『世界の傷』ちゃんを読み取っていたヤツちゃん。そのスキルで読み込んでいる情報に違和感ちゃんがあるちゃん」
「つまりどういうことカモ?」
「誰かが小細工ちゃん仕込んでいるのかもしれないちゃん」
「全知全能持っているくせに不確定カモ?」
「あくまで全なりし『知識』ちゃんと全なりし『能力』ちゃんだからね。『知識』ちゃんとして知っているちゃんなだけで、別にありとあらゆる事象ちゃんを瞬間瞬間に知り得るちゃんってわけじゃないわよ。今やっている全時間軸の把握ちゃんだって、『能力』ちゃんの一つで世界の記憶ちゃん読んでいるだけちゃん」
「案外使えないカモ」
「失礼な奴ちゃん」
「失礼な評価のままで終わりたくないならさっさと違和感の正体を暴くカモ」
「もちろんちゃん。あたしには全なりし『能力』ちゃんがあるちゃん。違和感を精査ちゃんするのは容易いちゃん」
ーーー☆ーーー
翌日。
目を覚ましたレイ=レッドスプラッシュは腕の中でスヤスヤ眠っているピーチファルナの頬を軽く撫でる。
結局、何も言えなかった。
最悪ピーチファルナには黙って、使える人員だけを引き込んで、利用するのもアリなのかもしれない。
そうやって逃げるような奴にこれまで良いように全てを操ってきた真なる黒幕に勝てるとは思えないが。
「むにゃにゃむ……レイ、ひゃん」
「ピーチファルナちゃん、大好きでごぜーます」
できることなら、こうしてずっと二人で寄り添っていたい。辛い現実から目を背けて、心地よい微睡みに沈んで、甘く甘く落ちていきたい。
だけど、それでは駄目なのだ。
ピーチファルナを救うためには立ち向かわないといけないのだ。
ならばどうする?
あくまでピーチファルナには黙って他の人員をピーチファルナを救うためにと引き込むか、それともピーチファルナと向かい合うか。
その時。
脳裏に浮かんだのは夜空の下でかけてもらった言葉だった。
『これは単なる勘なんだけど、もしもその悩みがうちの馬鹿娘に関係することなら本人に素直に言っちゃいな。あれは本当に馬鹿だからね。案外簡単に済むかもよ』
「本当で、ごぜーますか? この悩みが、簡単に済んでしまうのでごぜーますか?」
そして。
そして。
そして。
ゴッバァンッッッ!!!! と。
街中に響く轟音が炸裂した。
「ふにゃあ!? なん、なに、なんかすっごい音したんだけど!?」
びっくん! と腕の中のピーチファルナが目を覚ます。わたわたと身体を動かそうとして、ぎゅうっとその身を抱きしめる両の腕に絡み取られる。
つまりはレイ=レッドスプラッシュの腕に。
まるで縋るように。
「あ、レイさんっ。あの、さっき、なんか凄い音がしたよねっ」
「そうで、ごぜーますね」
「なんか大変なこと起きちゃってるのかな? 大丈夫かな???」
「少なくとも『新世代』とかいう連中ではなさそうでごぜーますね。新『魔の極致』を名乗るに足るほどの力は感じられないでごぜーますから」
「ええと……?」
と。
家の外から響く悲鳴のような叫びがあった。
『おい、くそっ! セレリーン伯爵家の方々が住まう屋敷から火が出てるぞ!!』
『さっきの光って魔法のだよな!? もしかして襲撃受けてるんじゃねえか!?』
セレリーン伯爵家。
そう、確かにそう言ったのだ。
シンシヴィニア=セレリーン。友達の家から火の手があがるほどの何かが起きたからこその轟音であったのだ。
「ッ!!」
それだけ分かれば十分だった。
ピーチファルナはレイ=レッドスプラッシュの腕の中から飛び出す。可愛らしいピンクの寝巻き姿のまま、とにかくがむしゃらに突き進む。
「シンシヴィニアちゃんっ!」
「待つでごぜーます! ピーチファルナちゃんが行ったって何もできないでごぜーます!! だから!!」
「それでも! 黙って見捨てるなんてできるわけない!! 今この瞬間にもシンシヴィニアちゃんが大変な目にあっているかもしれないなら、駆けつけるのが友達だよ!!」
そうなのだ、そういう少女なのだ。
誰かのためならどんな無茶にも挑戦するのがピーチファルナという魂なのだ。
無茶と分かっていても、挑戦することを諦めたりはしない。やる前から仕方がないで済ませるほど器用ではない。
だから。
それでいて。
「早くケファミアやオリミアと合流しないと! あ、レイさんって公爵家の人なんだよね、なんか、こう、良い感じに強い人とか呼んだりできないかな!?」
「……あ」
迷いなんてどこにもなかった。
頼るのなんて当然という顔だった。
おそらくピーチファルナは一人でも誰かのために行動する。というか行動してしまうからこそ、何度も何度も死んできたのだ。
だからといって、何でも一人で抱えない。自分が弱いことなんて誰よりも知っているからこそ、強い者に頼る。
誰も彼も巻き込んで、頼って、自分だけではできないことでも手繰り寄せたならば、それがハッピーエンドというやつではないか。
みっともなく、情けなく、だからどうした。格好つけて、自分だけで抱え込んで、結果として状況を悪化させては元も子もない。
教えてもらったではないか。
『前』、最後の最後にピーチファルナが伝えたかったのはそういうことだったではないか。
無知でも周回遅れでも、ピーチファルナはいつだってレイ=レッドスプラッシュに不足しているものを与えてくれる。
ならばどうするか。
そんなの決まっている。
例え嫌われようとも、全てを頼れ。弱いとか何だとか、レイ程度の判断で決めつけて、仕分けするな。
レイ=レッドスプラッシュでは何も変えられなかったではないか。黒幕気取って、奪うことが最善だと騙されていたクソ野郎であることは証明されている。レイが主導していたから、ああなった。レイが判断すれば同じことの繰り返しだ。
主導権は他の誰かが握るべきだ。
ならば、それはピーチファルナであるべきだ。
無知だろうが周回遅れだろうが、真理にして最善を的確に選ぶ彼女であればレイが手繰り寄せられなかった結末に到達できるはずだ。
この平穏な幸せに騒乱を呼び込むことに忌避感がないかと言えば嘘になるが、それ以上にピーチファルナが救われるほうが大事に決まっている。
ゆえに『出し惜しみ』はなしだ。
嫌われることを恐れて情報を出し渋った結果、最後の最後に情報不足で遅れをとるなんてことになっては目も当てられないのだから。
──その先に、未来に、レイ=レッドスプラッシュという怪物の居場所がなくなるとしても、だ。
(本当はわかっていたでごぜーます。ほんの少し、ちょっとだけ、勇気が出なかっただけでごぜーます。だから、うん、もう大丈夫でごぜーます。困った時どうするべきかは見せてもらったでごぜーますから)
「私が何とかするでごぜーます。どんな敵が出てこようとも粉砕してみせるでごぜーます。だから、その、この騒動を終わらせたら……私の悩み、聞いて欲しいのでごぜーます。ゼリシア=キラーゾーン、新『魔の極致』第二席に立ち向かうために」
「もちろんいいよ! あ、でもレイさんって強いのかな?」
「愚問でごぜーますね」
くるくると。
レイの手の中で回る棒状の道具が一つ。
「これでも『魔の極致』第七席を名乗るだけの力はあるでごぜーますよ」




