他人の家は長居しづらい
またもや、短いデス。
それでは、どうじょ(/・ω・)/
青年と愉快な仲間たちは母子との契約を終え、メルギネスの王都に戻って来た。
一日に一度しか使えなかった転移も新しい住人を得たことでその上限が増えていたのだ。
逆に言えば契約が結べなければ日付を跨がない限り青年はメルギネスに戻れなかったということでもある。
青年がそのことをカンリに尋ねると
「問題ありません、もし、サリー様が渋るようでしたら、懐柔から強迫まで幾つかプランがありましたので」
「きょうはく」を脅迫に変換した青年はこの娘は怒らせてはいけないと勝手に勘違いするのだが、それを指摘できる者は残念ながら彼らの中にはいなかった。
一行は歩いてアーデウスの屋敷まで戻った。
もちろん屋台に寄り道しながら。
屋敷に着くまで素行不良な方々に絡まれたりしそうになるものの、ネム助、軍鶏助が愛らしさを武器に周囲(主に子どもや女性)を味方につけ、揉め事を起こさずに済んだ。兄弟様様である。
そんな彼らと言えば、屋台の主人たちにもらった食べ物にご満悦の様子。
そしてタダで物をもらうことに慣れていない青年は自分の分をお金を払って買うので、お腹がパンパンになっていた。
「ネム助、軍鶏助、少しは自重してくれよ~」
「にゃ」
「ぴぃぴぃ!」
とても良い返事だが、果たしてちゃんと分かっているのか非常に怪しい。
青年は溜息を吐くと屋敷の門へ歩いて行くのであった。
◇◇◇
「クロス殿、如何であったかな?」
「あ、はい、冒険者登録もしましたし、街もそれなりに楽しめました」
老人は「それは良かった」と頷いているが、青年としては生きた気がしない。
その理由は同室する老人の護衛にあった。
基本無表情、そして無言、しかし、立派な体躯は威圧感、存在感ともに申し分なしときている。
そして、これが一番重要なのだが、時折青年に向ける視線がどうにも落ち着かない。
まるで異物を見るかのような目付き。
異世界人である青年は確かにこの世界からすれば異物に違いないのだが、流石にこの緊張感の中そんな目で見られるのは精神衛生上非常に好ましくない。
そして、これは護衛だけに止まらない。
執事、侍女、屋敷内の幾人からも青年は同様の視線を浴びている。
アーデウスやマレリーンからの歓迎がなければ、もしかすると直接的な手段で青年は屋敷から追い出されていたかもしれない。
「それでですね、アーデウス様、稼ぎの方の目途も立ちましたので自分は宿の方に移ろうかと思うのですが」
「そうか・・・お主らにはマリーも気を許しておるし、いくらでもいてもらって構わんのだがな」
「いえ、そう言ってもらえるだけで十分です。それに甘えすぎるのも問題ですから」
アーデウスの顔を立てながら、何とか護衛を刺激しないように話を持って行く青年。
彼の胃はキリキリ締め付けられるも、それに負けた場合更に屋敷で御厄介にならねばならなくなるので青年はひたすら耐えた。
「そうだな、主にも行くべき所がある。縛りつけるのも悪いか。いや、済まなかったな」
そう言って謝るアーデウスに「とんでもない」と頭を下げる青年。
「とは言ってもすぐには出て行かんのだろう?儂もマリーに話さねばならんしな」
暗にまだ行ってくれるなと請われ、青年は力なく頷くしかなかった。
そんな一家の長を長男、次男は「大丈夫?」とばかりに見つめていた。
□■□■
「まさかとは思うが、主ら客人に粗相をしでかしたりしておらぬであろうな?」
その老人の言葉には一切の熱がなく、冷たく、かつ聞いた者の腹の底に響く重みがあった。
「いえ、私が知る限りはその様な話は聞いておりませんが」
兵士のまとめ役である壮年の男は無表情のまま、間を置かず返事をする。
「決してしていない」と答えない時点でこの男が客人に対して少なからず反感を持っていることが窺える。しかし、老人としてはこの男が自分の身を慮っての言動であると分かっているため、それを頭ごなしに叱ることができない。その思考の根底に「身分差」というどうしようもないものが根付いていたとしても。
「私めの方も特には」
そう言って頭を下げる侍従の長も表情を一切変えることなく、返事をする。
この者たちにとってアーデウスは至高の存在である。
そんな彼らが尊敬し、忠誠を誓う老人が身元のはっきりしない”流れ人”に気を遣うこと自体あってはならないことだった。
「・・・そなたらの言葉を信じよう。くれぐれも彼の客人に無礼な振る舞いをすることのないよう徹底させよ。よいな?」
最後の問いには明らかに強制であった。
老人に仕える二人の男たちは頭を下げ、それを受け入れたのだった。
果たして承服していたのかどうか、それは本人たちしか知り得ないことであった。
□■□■
「えっ?」
大好きな祖父から告げられた言葉に少女は大きく目を見開く。
しかし、どうしてもすぐには受け入れられない。
「お爺様、もっと居てもらいましょう?私ネムスケちゃんやシャモスケちゃんともっと仲良くしたいの!」
どうやら青年のことは眼中にないらしい。
青年、哀れなり。
「マリー、無理を言ってはならん。クロス殿たちにも都合があるのだ」
祖父はなるべく優しい口調を心掛けて大事な孫娘に理解を促す。
「うぅ~」
どうしても諦めがつかないマリー。
珍しく我が儘を言う孫娘にアーデウスとしても答えてやりたくは思う。
しかし、
(縛ろうとすれば間違いなくあの者は姿を消そうよな)
青年に密かに付けていた者より一時彼らを見失ったという報告を受けている。
奴隷商館で彼が買ったであろう母子の行方が知れぬことも。
(それに、の)
青年の傍にいつもいる”ネムスケ”という猫。
その力の一端をアーデウスは理解しているつもりだ。
あの愛らしい姿に不釣り合いな不条理とも言えるほどの戦闘能力。
老人が慇懃無礼な部下たちに統制を徹底させたのも飼い主である青年を粗雑に扱うことで猫の機嫌を悪くすることを恐れたからである。
(やはり、下手な手出しは避けるべきであろうな)
この判断から判るようにこの老人、伊達に歳をとっていない。
こうして一先ず一匹の猫によって屋敷が灰塵と化すことは避けられたのであった。
スローテンポで申し訳ない。
流れが浮かばんのです(´;ω;`)




