理想郷とは皮肉かね
おさらい
身分の高そうな爺さんと孫娘と一緒に街へ
冒険者にもなったし、目的を果たすべし。
こんな感じだったかと。
それでは、どうじょ(/・ω・)/
「ここかぁ」
青年が冒険者ギルドから向かったのは奴隷商館。
因みにここまで凡そ歩いて1時間。
普通ならギルドから歩いて30分程で着くのだが、土地勘のない青年があっちへぶらぶらこっちへぶらぶらしているうちに倍の時間が掛かってしまったという訳である。
「はぁ、行きますか」
気乗りしない青年は溜息をつきながらその建物へ入って行く。
店内は一見普通の内装であった。
「いらっしゃいませ~、よーこそっ、パウエルの理想郷へ!」
出迎えたのはシルクハットに燕尾服のような装いで真っ白い顔色をした男性だった。
その顔は笑っているのだが何処か胡散臭く、ニコニコと言うよりニヤニヤとした笑みであった。
(何そのネーミング!?)
人を売り買いする奴隷商館に理想郷と言う一見矛盾したネーミングに青年は戸惑いを隠せない。
それに加えて話し掛けてきた人物が常人離れした雰囲気を持っている事、更にまるで道化の様なおちゃらけた口調である事も青年の動揺に拍車を掛けていた。
「おや、ご新規さんですか。吃驚させてしまいました様ですね?これは申し訳ない」
「い、いえ、大丈夫です」
その反応が大丈夫でないことを物語っているのだが、学生でしかなかった青年にそれを隠せと言うのは酷と言う物だろう。
「ふふふ、そういう質ですか。なるほどなるほど。ならばこの口調でお相手させて頂きましょうか」
青年の反応から言葉遣いを丁寧な物へと変化させる男性。
青年にはその方が良いと踏んだのだろう。
「いらっしゃいませ、お客様。私、店主のパウエルと申します。何卒お見知りおきを」
「あ、自分は黒須と言います。こちらこそお願いします」
「ふふふ、そう硬くならないで下さい。と言っても難しいかもしれませんが」
自分で言っておきながら、すぐさまその言葉を否定する。
そんなふざけた態度ではあるが、男の立ち姿は堂に入っており、それが余計に男の不気味さを増長させていた。
「は、はい。それでですね、奴隷を見に来たのですが、今大丈夫でしょうか?」
青年は恐る恐る尋ねる。
理由は当然男が不気味だから、これに尽きる。
「大丈夫ですよ、それにしても貴方様、いやクロス様の様な方が奴隷を欲するとは」
そう言って男は青年をじっと見つめる。
品定めの目線に青年は少し居心地が悪いのだが、決してそれは言わない。
謙遜、我慢が習慣として根付いている日本人らしいと言えばらしいのだが。
「おっと余計な詮索でしたね。失礼致しました。立ったままでは申し訳ありませんので、どうぞこちらへ」
そして店の入り口から少し奥に入ったソファーがある所まで誘導される。
席に着くと早速話が始まった。
「ではクロス様、ご要望されるのはどの様な奴隷でしょうか」
「はい、えっと~、夫婦若しくは子連れの人を紹介して欲しいのですが」
紹介と言う辺り、まだ奴隷という制度に馴染めないでいる青年の心の内が読めなくもない。
「ほう、夫婦か子連れですか」
パウエルは青年の言葉を吟味している様であった。
通常、奴隷商売とは奴隷の労働力、戦闘力、美しさ、の三点の需要から成り立っている。
青年の注文は労働力を求めてとも取れなくはないが、子連れと言うのは些かその点には当て嵌まらない様に見える。
言ってしまえば、注文の意図が見えないのだ。
今迄、数百もの奴隷を売って来たパウエルから見れば、大抵の場合、買い手の要望からおおよその目的は読むことが出来た。と言うよりも買い手は失敗がないよう勝手に内情を男に漏らすことさえ多々あった。
しかし、目の前の青年は夫婦か子連れと言うだけである。
奴隷商は目の前の人物に興味を抱いた。
変わった服装にしてもそうだが、彼の持つ雰囲気それが何処か自分とは隔絶された場所にいる、そんな途方もない漠然とした考えが頭の隅で存在を主張する。
「因みに数の方は」
「えっと、とりあえず3人まででお願いします」
(一体何故、家族で求めるのでしょうか、気になりますね)
青年の言葉にまた意図を探るパウエルだが、言った本人は何も考えていない。
全ては長女様の言う通りなのだ。
カンリ曰く、
「あの場所は非常に異質な場所、安全ではありますが孤独な場所でもあります。ですので、単体の奴隷だと、精神を病む可能性があります。ですが、家族と言う存在が居るならばその可能性はぐっと低くなると思われます。ただ、家族連れを扱っている比較的真っ当な奴隷商に出会えるかが問題ではありますが」
とのことだった。
奴隷とは物として扱われるが、維持費が掛かる。
生きているのだから、食べなければ死ぬし、最低限手入れもしておかねば、誰も買ってはくれない。
もし、見目麗しい女性の奴隷がいたとする。
様々な人が彼女を欲しがった。だが、彼女には奴隷の子どもがおり、売られる条件には「子と共に」とあったとする。
すると、大抵の場合買い手は着かない。
女性の需要は「美しさ」にある。即ち性的な部分に男共は皆期待しているのだ。
そのような者達に子どもの面倒まで見る気は当然ありはしない。
だが、それで売れないでは奴隷商が困る。
ならばどうするのか。
簡単である。条件を消せば良いのだ。
母親と子を別売りにする、そうすれば金持ちの男達が挙って美しい女性の値を上げて買ってくれるのだから。
この様な商売方法は平等ではないと思うかもしれないが、この世界ではごく普通に行われている事なのだ。物には権利などはない。それで全てが通ってしまうのである。
「ならば、丁度3人の家族が一組居ますが如何しますか?」
しかし、このパウエルという男は少し違った。
一番に求めるのは当然利益、しかし、だからと言って先に上げた様な真似はしない。
それは、そんなことをしなくても自分はこの仕事をやって行けるという自負から来ている。
つまり仕事に限れば芯の通った人物と言える。
「あ、面接?いや顔合わせ?兎に角、会って話させてもらう事は出来ますか?」
「はい、大丈夫です。それでは、少々お待ち下さい、連れて参りますので」
パウエルは建物奥の扉に入って行ってしまった。
青年は手持無沙汰からネム助、軍鶏助と戯れることにする。
左手でネム助の丸まった背を、右手で小さな軍鶏助の頭を優しく撫でる。
外出中、極力姿を見せないようにしていた2匹はまどろんだ表情で主との短いスキンシップを満喫していた。
姿を消している長女が物欲しげな顔をして1人と2匹を見ていたことにはネム助以外誰も気付くことは無かった。
少しして、館の主は制服を着た従業員と、奴隷らしき3人を連れて戻って来た。
ネム助と軍鶏助は青年の上着の内へダイブする。
少々くすぐったかったのは青年の秘密である。
「お待たせしました、クロス様。こちらになります。お話しするのは大丈夫ですが、過度のお触りはどうか控えて頂けると助かります」
奴隷は母らしき女性1人と恐らく姉弟であろう2人であった。
「あ、分かりました」
その瞬間、女性は少しびくっとなり、娘らしき子は目をキッとさせて青年を睨み付けた。
青年としては「え、何かやらかした?」な心情だがそんな事本人達に直接聴ける筈もない。
とりあえず、気安い感じで話し掛けてみる事にする。
「は、始めまして。黒須です。えっと、まず名前聞いても良いですか?」
青年の挨拶に何やら目を大きくして驚いている奴隷の女性。
またもや何かやらかしたのかと心配する青年。
パウエルに促されハッとした表情で女性は言葉を返した。
「あ、失礼しました。私はサリーです。こちらは娘のサブリナと息子のミルコです」
「サリーさん、サブリナちゃん、ミルコくんですね。それじゃあ立ったままと言うのもアレですし、座りましょうか」
え?と言った顔のサリー。困った様子でパウエルと青年を交互に見やる。
そしてパウエルだが、何やら興味深げに青年を見ている。
(マスター、色々とやり過ぎです)
長女の呟きは当然誰にも聞こえる筈もない。
奴隷は基本所有物なので席に座らせたりはしない。
しかし、その様な風習を当然青年は知らない。
(講義してから来るべきでしたね。これは私のミス。次からは気を付けましょう)
真面目な長女は反省する。
そして青年への異世界集中講義が決定された。
「ふふふ、それでは、クロス様のお言葉に甘えて座りなさい」
「え、ですが」
何やら楽しそうな奴隷商人の説得もあって、座しながらの奴隷面談が始まるのであった。
ぼちぼちやって参りますので、気の長い方はどうぞお付き合いください。




