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Episode 20 愛していないと告げる、嘘を。


いつもと変わらない朝だった。


少なくとも、目を覚ますまでは。


ジウは、ひっきりなしに鳴り続ける電話とメッセージの音で目を覚ました。


短く途切れては、また鳴り始める振動音。


一本の電話が終わる前に、次の着信が続いた。


枕元を手探りしてスマートフォンをつかんだジウは、

まだ眠気の残る顔で目をこすった。


『朝から、どうしてこんなに騒がしいんだろう?』


画面をつけた瞬間。


ジウの顔から血の気が引いた。


ロック画面を埋め尽くしていたのは、

不在着信やメッセージではなかった。


今日の話題のニュース。


その下に表示されていた、記事の見出しだった。


《ドラマの中のジウではなく「本物のジウ」と熱愛? ハン・ソジュン、原作者イ・ジウと深夜デート》


指先がこわばった。


ジウは震える指で、

記事の通知を押した。


真っ先に目に飛び込んできたのは、

夜遅く、ソジュンがジウの家の前に立っている写真だった。


帽子を目深にかぶっていたが、

ハン・ソジュンだとわかるには十分だった。


その下には、別の写真もあった。


撮影現場の片隅で、

並んで座り、コーヒーを飲んでいる二人。


ソジュンはジウのほうへ身体を傾けながら笑っていた。


写真の中のジウも、

彼を見つめて笑っていた。


二人の距離は近かった。


何も知らない人が見ても、

特別な関係だと思うほどに。


ジウの唇が、かすかに震えた。


心臓が、どうしようもないほど激しく打ち始めた。


記事には、二人は撮影が始まる前から親しい関係にあり、

原作者であるジウがソジュンのキャスティングにも影響を与えた可能性があると書かれていた。


ジウはまともに息もできないまま、

画面を下へスクロールした。


コメントが、果てしなく続いていた。


――作家が私情で主演俳優をキャスティングしたんじゃないの?


――自分の作品の主演俳優に、わざと近づいたんじゃない?


――ハン・ソジュンにはがっかり。


――正直、ソ・ヨヌとのほうが見た目からしてずっとお似合い。


指が止まった。


その下には、

まったく違う反応もあった。


――私は二人を応援する。写真の雰囲気、すごくいい。


――ハン・ソジュンが作家を見る目、本気じゃない? あんな表情、初めて見た。


――俳優と作家のロマンスなんて、ドラマよりドラマみたい。


二人を応援する言葉も、

確かにあった。


けれど不思議なことに、

ジウの目には、とげのある言葉ばかりが鮮明に映った。


一行。


また一行。


見ず知らずの人たちの言葉が、

まるでずっと昔から自分を知っていたかのように、

心の奥深くを刺してきた。


『作家が私情で近づいた。』


『キャスティングにも影響を与えたはずだ。』


ジウの視界が、

ゆっくりとぼやけていった。


まだ名前さえつけられない関係だった。


ソジュンは自分の気持ちをはっきりと伝えてくれたけれど、

ジウはまだ何一つ答えられずにいた。


それなのに、世間はすでに二人の関係を勝手に決めつけていた。


そのせいで、ドラマが傷ついていた。


ソジュンが傷ついていた。


自分のせいで。


涙が頬を伝って流れ落ちた。


そのとき、

また電話が鳴った。


驚いたジウは、

スマートフォンを取り落とした。


ベッドの上に落ちた画面には、

「スジン」という名前が表示されていた。


ジウはしばらく画面だけを見つめていたが、

ようやく通話ボタンを押した。


「もしもし。」


声がうまく出なかった。


スジンはジウの声を聞くなり尋ねた。


「お姉ちゃん、記事見た?」


ジウは答えられなかった。


その短い沈黙だけで、

スジンにはすべてがわかったようだった。


「お姉ちゃん、家にいるよね?」


「……うん。」


「何もしないで待ってて。」


「スジン。」


「今から行くから。」


通話が切れた。


───


それから間もなく、

玄関のドアが開いた。


スジンは靴もろくに脱がないまま、

部屋へ入ってきた。


ベッドの端に座り、

スマートフォンばかり見つめているジウを見つけると、

すぐにその前にしゃがみ込んだ。


「お姉ちゃん。」


ジウがゆっくりと顔を上げた。


「大丈夫?」


ジウはぼんやりした顔で頷いた。


「……うん。」


けれど、

大丈夫だと言う人の顔ではなかった。


目元は赤く腫れ、

指先はまだかすかに震えていた。


スジンはベッドの上に置かれたスマートフォンを手に取り、

画面を消した。


「どうしてコメントなんか見たの。」


「見なきゃよかったのに。」


ジウはしばらく何も言わなかった。


やがて、無理に口元を動かした。


「私は大丈夫。」


「お姉ちゃん。」


「本当だよ。」


ジウは乾いた唇を一度湿らせた。


「私より、俳優さんのことが心配なの。」


スジンの表情がこわばった。


「このことで、俳優さんが今まで積み上げてきたものが崩れてしまったら、どうしよう。」


「ドラマにも迷惑がかかるかもしれないし。」


「みんなが俳優さんのことより、熱愛報道の話ばかりするようになったら……。」


ジウの声が、

次第に小さくなっていった。


自分のせいで、

ソジュンの努力も作品も陰に隠れてしまうかもしれない。


そう思うと、

耐えられなかった。


ソジュンは長い時間を耐え抜いて、

ここまで来た。


数えきれないほどのオーディションに落ちても、

何度も立ち上がった。


自分を待ち続けてくれたファンたちの想いに支えられながら、

ここまで歩いてきた。


そのすべてが、

自分のせいで揺らいではいけなかった。


ジウは目元を拭い、

立ち上がった。


スジンも続いて立ち上がった。


「お姉ちゃん、どこ行くの?」


「ちゃんと説明しなきゃ。」


「え?」


「事実じゃないって、言わなきゃいけない。」


ジウは再びスマートフォンを手に取った。


「そうすれば、俳優さんにも。」


「ドラマにも、迷惑がかからないはずだから。」


「お姉ちゃんが自分で説明するつもり?」


ジウは答えなかった。


連絡先をスクロールしていた指が、

ある名前のところで止まった。


以前、作品のインタビューを受けたときに知り合った記者だった。


ジウは少しためらってから、

通話ボタンを押した。


───


人目を避けられる、静かなカフェだった。


ジウは記者と向かい合って座っていた。


テーブルの上のコーヒーには、

一口も手をつけられずにいた。


記者は録音機のスイッチを入れる前に、

ジウにもう一度尋ねた。


「本当に、ご自身でお話しされて大丈夫ですか?」


ジウは膝の上で両手を組んだ。


指先に力がこもった。


「はい。」


「ハン・ソジュンさんの事務所とは、先に相談されたんですか?」


ジウの瞳が一瞬揺れた。


「……いいえ。」


「それでも、私からお話ししたほうがいいと思ったので。」


記者はしばらくジウの顔を見つめた。


それから慎重に、

録音機のスイッチを入れた。


「お二人が交際しているという記事は、事実ではないんですね?」


「はい。」


ジウは少し息を整えた。


「事実ではありません。」


その言葉を口にした瞬間、

胸の片隅がずきりと痛んだ。


けれど、止まるわけにはいかなかった。


「ソジュンさんは、ずっと以前から私の原作を好きでいてくださった読者なんです。」


「今回の作品をご一緒することになって、自然と親しくなりました。」


記者は次の言葉を待った。


ジウは組んだ手に、

さらに少し力を込めた。


「私たちは、仲のいい姉と弟のような関係です。」


喉が詰まった。


ジウは何でもない顔をして、

言葉を続けた。


「それ以上でも。」


「それ以下でもありません。」


その言葉が記事になれば、

すべてが静かになるはずだった。


ドラマも。


ソジュンも。


元いた場所へ戻れるはずだった。


そう信じたかった。


───


同じ頃。


ソジュンのスマートフォンも、

ひっきりなしに鳴り続けていた。


記者たちからの電話。


テレビ局や制作会社からの連絡。


インタビューの依頼に、

広告主からの確認の電話まで。


マネージャーは電話に対応しながら廊下を行き来し、

事務所のスタッフたちは緊急会議の準備に追われていた。


けれどソジュンは、

何も聞こえていないかのようにソファに座っていた。


テーブルの上には、

ジウと一緒に撮られた写真が表示されたスマートフォンが置かれていた。


写真の中の自分は、

ジウを見つめて笑っていた。


隠そうという気持ちなど、

少しもない顔だった。


記事に書かれた「熱愛」という言葉は、

事実ではなかった。


二人はまだ恋人同士ではなかった。


ジウは自分の告白に、

まだ答えてもいなかった。


それでもソジュンは、

その記事をすべて嘘だとは言えなかった。


自分がジウを愛していることは、

真実だったから。


たとえこんな状況になっても、

その気持ちだけは否定したくなかった。


けれど、

自分がその想いを認めたら、

ジウに何が起こるだろう。


人々の関心は、

すべてジウへと向けられるだろう。


すでに数えきれないほどのコメントが、

彼女に浴びせられていた。


また傷ついてしまったら、どうしよう。


自分がジウの閉ざされた部屋を、

無理やり世間に開け放ってしまった人間になったら、どうしよう。


そのとき、

マネージャーが慌ててソジュンに近づいてきた。


「ソジュン。」


ソジュンが顔を上げた。


マネージャーはためらうような表情で、

スマートフォンの画面を差し出した。


「イ・ジウ先生のほうから、先に訂正記事が出た。」


ソジュンはすぐにスマートフォンを受け取った。


《イ・ジウ作家、ハン・ソジュンとの熱愛報道を否定……「仲のいい姉と弟のような関係」》


見出しの下には、

ジウが自ら語った言葉がそのまま記されていた。


ソジュンは長年、

自分の原作を愛してくれた読者だったということ。


ドラマの制作を通じて、

親しくなっただけだということ。


そして。


二人は仲のいい姉と弟のような関係であり。


それ以上でも、

それ以下でもないということ。


ソジュンはしばらく、

画面から目を離せなかった。


指先に、

次第に力がこもっていった。


顔が赤く火照った。


ジウに腹を立てているわけではなかった。


自分自身に腹が立っていた。


何があっても、

ジウを守りたかった。


自分だけは絶対に、

彼女を傷つけないと思っていた。


それなのに、結局。


自分の職業が。


ハン・ソジュンという俳優を取り巻くファンや事務所、

そして数えきれないほどの利害関係が、

ジウを傷つけていた。


自分が解決するべきだった。


それなのに、

すでに一度深く傷ついた女性を、

再び戦場へ向かわせてしまった。


自分を守るために。


自分の作品を守るために。


ジウに、

自分自身の想いまでなかったことにさせてしまった。


ソジュンは勢いよく立ち上がった。


「どこへ行くつもりだ?」


代表が会議室のドアの前に立ちはだかった。


「先生に会いに行きます。」


「今からか?」


代表の声が大きくなった。


「お前があんなに軽率に、あの女の家へ駆けつけたりするから、こんな騒ぎになったんだろう。」


ソジュンの表情がこわばった。


「どいてください。」


「今お前がまた動けば、記者たちが全員ついてくるぞ。」


「あの女の家の前にもう一度姿を現したら、今度こそ言い逃れはできない。」


ソジュンは唇を固く結んだ。


代表はマネージャーが持っていたスマートフォンを取り上げ、

ソジュンの前に突き出した。


「それでも、あの作家が自分からきちんと一線を引いてくれたおかげで、報道も落ち着くだろう。」


画面には、

ジウの訂正記事が表示されていた。


代表は見出しを指先で示した。


「仲のいい姉と弟。」


そして冷たく付け加えた。


「それ以上でも、それ以下でもない関係。」


ソジュンの視線が、

画面の上で止まった。


「だからお前も、これからはその言葉どおりに行動しろ。」


「もう二度と、あの女と関わるな。」


しばらく何も言わなかったソジュンが、

ゆっくりと顔を上げた。


「嫌です。」


代表の眉がぴくりと動いた。


「何だと?」


「先生が私を守るために、自分の気持ちまでなかったことにしたのに。」


ソジュンはスマートフォンを強く握りしめた。


「私まで、その言葉の陰に隠れるつもりはありません。」


「ハン・ソジュン。」


代表が再び行く手を塞いだ。


けれどソジュンは、

今度は引き下がらなかった。


「先生が傷つくのが嫌で、ためらっていました。」


「私が本当のことを言えば、もっと深く傷つけてしまうんじゃないかと思って。」


低く沈んだ声が、

少しずつ震え始めた。


「でも、私がためらっているあいだに。」


「先生を一人で、嘘をつくしかない状況に追い込んでしまったじゃないですか。」


ソジュンは代表をまっすぐに見つめた。


「愛していないと告げる、嘘を。」


会議室の中が静まり返った。


誰も簡単には口を開けなかった。


ソジュンは手に握りしめたスマートフォンを見下ろした。


画面には今も、

ジウが世間に向けて差し出した文章が表示されていた。


それ以上でも。


それ以下でもない関係。


けれどソジュンは知っていた。


二人の関係には、

まだ名前がないのかもしれない。


それでも。


自分の想いだけは。


最初から、本物だったということを。


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