第3話 文字の違い
今回は文字についてです。
作中で説明しますがご都合主義ありまくりです。
「やぁ、ユウ。久方ぶりだね。」
にこやかな笑顔でやって来た来客に僕もにこやかな笑みで返すと暇つぶしに読んでいた本に栞を挟んでテーブルに置いてお冷を一杯、彼女の前に差し出す。
白磁のような白い肌に蜂蜜を溶かした様な金髪に空のように青い瞳。
街を歩けば10人の中9人は振り向くであろう美人の女性はある種族特有の耳をしている。
そう、所謂エルフという奴だ。名前はフィリアさん。
彼女達はその美貌と魔力の高さから少し…いややかなり選民思想な人が多く、大概は他種族を嫌って森で生活している。
その中で選民思想の無い変わり者のエルフ達は街に住んで冒険者や魔術師として生活する者達が多い。
フィリアさんは後者で良く銀子さんと組む事が多く、来た初めの頃はその美貌に見惚れてよくからかわれた。
「ユウ、ランチセットを一つ…と、また君はそんな物を読んでいるのかい?勉強熱心な事だ。」
「ははは、僕にとっては興味深い事ばかりなんですがね?」
苦笑を返しながら置いていた本を仕舞って調理場に移る。
調理中に話しかけてくる事も無く、静かに本を読むフィリアさんを横目に何のタイトルを見ているのか気になった。
魔道書など、古代言語が書かれている品物は出回ることが少なく、迷宮でしか見つけられない事もあり、大体がこの街の王宮研究室に保管されている。
稀に隠し持って帰ってくる冒険者がいるが、古代言語が読めずに結局手放すと言う事も多い。
一度だけ銀子さんに見せて貰った事があるが思いっきり日本語だった事に吹いた。
銀子さんは苦笑しながら『読める事は秘密にしとかないと面倒な事になるから秘密にしときなさい。』と言われてからこの国の共通語を教えてもらった。
この世界は一つの大陸であり、神が作り上げた平面図に大陸があって総ての国が一つの大陸の中に詰まっていると言われている。
それ故に地図もこの大陸しかなく様々な種族が暮らしているが故に共通語を作ることにしたのだ。
エルフ、ドワーフ、ホビット等、人間に近い格好をしている亜人族。
ワーウルフ、ワーキャット、ドラゴニアス等、人間とは違った顔付きの獣人族。
そして人間族。
大別して3種類に別けられるのだが、その中で最も多い人間族の文字、言語を共通語とすることにしたのだ。
亜人たちの使う言語は僕達の元の世界で言う英語に近いものがあり、獣人が使う言語は中国語に近いものがある。
人間たちが使う言語は日本語に近いものがあるが、文字は全く違うものでローマ字になっているのだ。
本にすると読みにくい事この上ないが慣れればどうと言うことは無く、銀子さんから借りた歴史書や魔道書を読む事が僕の趣味の一つと言ってもいい。
それぞれ方言みたいなのもあるがここは割愛させていただく。
出来上がった料理をフィリアさんの前に置くと、彼女は読んでいた本を肩掛けかばんに直すとエルフ独特の食前の祈りを捧げてフォークを手に食べ始める。
つくづくお金の価値や文字や言語を考えるとおかしな世界だなと思いながら僕は洗い物を片付ける事にした。
チリンと鈴の音が鳴った。
フィリアさんと少し世間話をして彼女が店を出てから数分後にそんな音が聞こえた。
ふとドアを見るが来客ではなく、僕は首をかしげる。
チリンと再び僕の足元で音が鳴り、足元に視線を向ける。
「にゃー。」
そこには小さな白猫が手紙を咥えて座っていた。
僕はしゃがみ込んで猫と視線を合わせると猫は手紙を僕に押し付けて消える様に何処かへと去っていった。
「…ふむ?」
押し付けられた手紙には宛名も無く、可愛らしい薄ピンクの封筒の裏側の文字を見て僕は頭を抱えた。
続きます。