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主婦のゲームライフ~40歳の初心者~  作者: 桜音 寿
~ルナ・ウェーブ~編
9/48

主婦 ゲーム友達ができる

 賑やかな食堂。

 今日も作業員はギルハンの話で盛り上がっている。


 その中で塩崎は、目を丸くしていた。

 目の前で、麻耶とエミルが一緒に昼の食事をしていたからである。

 人見知りで仕事以外に会話の少ない麻耶が、部署が違うエミルと盛り上がり、気軽に話している。

 きっかけはエミルが麻耶に声をかけたことだったが、聞き手役に回っていることが多い麻耶が、自らエミルに質問している。

 しかも話の内容は、塩崎の息子もハマっているゲームだった。



 初めて麻耶と出会ったのは塩崎がパートで採用され、配属されたチームに挨拶をしたときだった。

 チームリーダーである社員の麻耶に、工場内の案内と仕事内容をされている時に、大人しいがしっかりしている麻耶に好印象だった。

 しかし仕事では問題なく会話しているが休憩時間、昼食には麻耶から話かけてくることがなかった。


 ある日、麻耶が尾崎と揉めていた。

 尾崎はパートの中ではベテランだがプライドが高く、何かと嫌味な言い方をし、余計なひと言が多い。

 爆弾尾崎とあだ名が付けられるほど強烈だ

 仕事の事はよく知っていたのでどう扱ったらいいものかと、社員も手を焼いていたが、大人しい麻耶に押し付けたのだろう。

 しかし、麻耶は尾崎に落ち着いた声で言い返していた。


「手順通りにやってもらわないと、困ります」

「なによ。私はいつも通りにやっているわよ、失礼ね」

「尾崎さんのやり方は自分ルールです。後工程の部署からクレームがきています」


 尾崎は言い返そうとしたが、麻耶の顔をみて「ぐっ」と口をつぐんだ。

 ジッと尾崎の顔を見る麻耶の視線には、反論は許さないという強い意志を感じさせる。

 尾崎は静かで確固たる圧力を感じたのだ。

 あの尾崎を黙らせたのだ。


 その時から塩崎は麻耶を支えていこうと勝手に思い、年下だと知った時から妹のように接し、人見知りと知ってからはさりげなく支えてきたつもりだ。

 塩崎は出会った頃の麻耶を思い出しながら、エミルと緊張することなく会話をしている麻耶に、少しの成長を感じながら、寂しさを感じた。


 そんなことは知らず麻耶とエミルは、ギルハンで盛り上がっている。


「西野さん、どこまですすんだ?」

「ルナ・ウェーブに進んだんですが、ミニゲームにハマってしまって。クエストまで進んでないんです」

「ミニゲームは、おもしろいよね。僕もハマった」

「エミルさんは、どこまで進んでます?」

「ルナ・ウェーブの、ボス戦で止まってる。勝てないんだ」


 エミルは「はぁ〜」と息を吐き肩を落とした。


「すごいですね。ボス戦まで行けているなんて」

「でも、勝てさすぎて、チーム内で揉めてる」

「えっ、大丈夫なんですか?」


 心配そうな麻耶に、エミルは苦笑しながら肩をすくめた。


「僕は、アクションが得意じゃないから、よく怒られる」

「私も得意じゃないです。ゲームは初めてですから」

「西野さんとは、不器用ゲーム友達だね」

「わぁ、嬉しいです。ギルド仲間以外と友達ができました」


 いい大人の会話ではないが、2人でクスクスと笑いあってると、昼休憩が終わるチャイムがなった。


「ほら、2人とも早く片付けて」


 塩崎に急かされて、2人はワタワタと食器を片付けた。



 その晩。

 ルナ・ウェーブの拠点に集合していた。

 藍里は南国風の内装なのに、ソルジャーの甲冑姿に違和感を感じていた。

 ヤシの木にハンモック、パステルカラーの青色の壁紙の前に、赤い甲冑姿がキラリと光る。


(うわぁ~、画面越しだけど強烈な違和感……)


 そんな藍里の気持ちをよそに、麻耶は2人に昼間の話をしていた。

 エミルの事を嬉しそうに話している。

 ソルジャーは「そうか」と返事をしている、まるで父親だ。


(麻耶のこの適応能力には尊敬するわ)


 藍里は心の中で妙な尊敬の念を抱きながら、麻耶の話を聞いていた。


『へぇ~、ニケにゲーム友達がね~』

『はい。工場で部署は違うのですが、ドイツ出身の方です』

『えっ、ゲームで国際交流になってる。人見知りのニケがすごい!』


 藍里の笑い声がヘッドホンから聞こえてきた。

 確かにゲームで繋がった国際交流だと麻耶は思う。

 藍里に褒められ、少し嬉しくなった。


『そうですかね。あっソルジャーさんに聞きたかったのですが、ルナ・ウェーブのボスが勝てないと、 言っていました。そんなに強いのですか?』


 昼休みにエミルから聞いた話だ。

 昼からずっと気にしていた。

 麻耶はソルジャーなら知っているであろうと聞いてみたが、驚くべき答えが返ってきた。


『わしも、ここのボスには勝ててない』


 麻耶と藍里は息を飲んだ。

 このギルドで一番強いソルジャーが勝てないモンスター。


『どんな感じなの?ソルジャーでも勝てないなんて』

『怖すぎます。私は倒せる自信がないです』


 想像できないほどのモンスター。

 藍里は興味津々、麻耶は得体のしれないものに恐怖する。


『うむ。その時は違うギルドに所属していたのだが何もできず全滅してしまってな。それがきっかけでギルドは解散だ』

『『……』』


 2人は無言だ。1つのギルドが解散に追い込まれるほどとは思わなかったのだろう。

 だが、ソルジャーが驚愕の言葉を口にした。


『1度、ソロで挑んでみたが大敗したな』


 ソルジャーはチャレンジャーだった。

 2人はソルジャーがぶっ飛びすぎて、ソルジャーがわからなくなってきた。

 無言が続く拠点は、ウクレレの音が場違いな感じがしてきた。


 

『だが、このメンバーでクエストを進めていき、レベルを上げ強化していけば勝てると思うておる。特に今は遠距離攻撃と回復役のニケ殿がいるし、機動力がありコンボ技の手数が多いアテナ殿もいる。シルバーウルフの時のようにチームプレイができれば勝てると思うておる。だからギルドにいれてもらったのだ』


 ソルジャーは確信めいた感じの口調だった。

 そんなことを言われると思ってなかった2人は、じーんと感動してしまった。

 無表情のアバターだけの集まりだが、場の雰囲気が変わり、恐怖が弱まった気がする。

 ソルジャーはこのギルドで、影のリーダーなのかもしれない。


『ソルジャーさんに、そう言われたら頑張れますね!!』

『よし!!今日も頑張って、モンスターを倒すわよ』

 

 どうやら藍里も単純だったようだ。


 2人のレベルはシルバーウルフをクリアしたため、上限が解放されていた。

 特にニケは、マシンガンを手に入れるために周回プレイをしていた分、蓄積されていた経験値があったのでアテナより少し上だった。


 ーーーーーー

 ニケ Lv.30

 アテナLv.25  

 ーーーーーー


 レベル25で解放されている新モンスターは「マイジャ」だ。

 このモンスターを討伐し目指すはーールナ・ウェーブのボス。


 新たな戦いが始まる。


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