4:VS『犬』 その3
肉を潰す音とコンクリートを刺す音と甲高い音が台風の中、混じりながら響いている。
血が飛び散るが、それも雨で直ぐに洗い流された。
やがて、バキッという音とともにユキノが握っているナイフが壊れた。
じっ、と。
ナイフを見て、投げ捨てる。
手に力を込め、高本だったモノに振り下ろそうとした直後。
「お姉ちゃん。落ち着いて」
「・・・・・・リオ?」
「うん、よしよし。ほーら、ゆっくり深呼吸して。ほら、吸ってー、吐いてー」
妹のリオが背後から抱き締めた。
ユキノの瞳に光が戻る。
手に込めた力が抜ける。手の平に爪が食い込んだ跡が残っている。
「うぇええん。リオ~、ごめんね。わ、私、またやっちゃったよ」
「どうせまたご主人様の悪口に我慢出来なかったんでしょ?」
「う、うん。だって許せないもん」
「でもさ、・・・こんな奴がご主人様の何を知ってるって言うのよ」
「・・・そうだね。・・・うん! ごめんね~。ダメダメなお姉ちゃんで」
泣きべそをかくユキノの手を取って立ち上がらせる。
「これ、大淀の死体。それに他の『犬』の死体に車もあるよ。掃除屋には連絡したから。気分転換に死体集めしよ? ね?」
「うん」
それから少しして。
救急車と牽引車が現れた。
もちろん偽造車だ。
「よぉ、珍しいな。お前らが片付けてるなんてよ」
「気分転換よ」
「は?」
救急車に乗っていたのは救急隊員の格好をしてマスクをする大柄の男。
「掃除屋、死体は『犬』が7、ターゲットが1。確認して。細かいのも集めといたけど、再確認よろしく。車もぶっ壊れてるけど近くにあるわ」
「了解。いつもこうだとありがたいんだがな・・・」
「それはいやよ、面倒臭い」
「もう行け、あとはいつも通りやっとく。バイクもあるぞ」
掃除屋と軽口を叩く。
「あ、すみません。掃除屋さん。この先に大きいスピーカーがあるのでそれも回収してください。敵に位置を誤認させる為に使ったんです」
「それってバレないものなのか? ユキノ」
「李さんから借りました。仮にも犬なのでこの台風じゃなかったらスピーカーでの音だとバレてたと思います。タイミング次第では役に立ちますよ」
「ほーん、了解。回収しとく。李に返しとくよ。・・・あんまりあの中国人を信用すんなよ? いつ裏切るかわからん。金がすべてアルヨっていつも言ってるからな」
「あはは、大丈夫ですよ」
「どうだか」
後は彼らの出番。その場を離れる双子メイド。
バイクに2人乗りする。前がリオで後ろにユキノ。
ビチャビチャになったメイド服が肌を叩き、痛いよー、とお互いに笑い合った。
翌朝。
「「おはようございます、ご主人様」」
「おはよう、ユキノ、リオ」
すでにスーツに着替えている主人に挨拶をする双子は、仕事の完了を伝えた。
「そうか、良くやった。おいでユキノ」
「は、はい」
「ケガはしていないか? 体調が悪かったりは? 違和感はないか?」
「はい、何も問題ありません」
「・・・そうか、よかった。私のメイドに何かあったら悲しいからね」
主人はユキノを強く抱き締める。
一気に赤面したルナは目をグルグルと回した。今にも倒れそうだ。
「ありがとう、また今度も頼む。リオもありがとう。急な仕事だったのに早めに終わらせてくれたんだってね」
「お姉ちゃんのためですから。でも、・・・どういたしまして」
同じく顔を赤くするリオに、いつもの気の強さは感じられない。
本人は隠しているつもりなのか分からないが、ニヤニヤが止まっていない。
「さて、もう私も仕事の時間だ。後の事はまた連絡する」
「「はい、いってらっしゃいませ。ご主人様」」
リムジンに乗って家を後にする主人が見えなくなるまで頭を下げ続けた双子はバッと顔を上げ、走り出した。
「やばい! 急がないとメイド長に怒られる。掃除洗濯来客対応。やることはいっぱいあるよ、お姉ちゃん!」
「怒られたくないよぉ。でもそうだね、頑張ろう、リオ!」
台風は過ぎ去り、日が良く照っている。
まだまだ双子メイドの仕事は始まったばかりだ。
都内某所、深夜。
オフィスビル群の中でも一際目立つビルの1室。
薄暗い部屋の隅で荒い声を上げて、セックスをしている男女がいた。
男はネイビーのスーツを着ていて、ツーブロックの七三分けにしており、清潔感がある。短く切り揃えられたヒゲが男の整った顔に良く似合っている。
女は改造されたブレザーを着た女子高生だった。それも今は非常に乱れている。
髪をベージュに染めていて、犬柄のアートネイルをしているギャルだった。そして非常に大きな胸をしていて、男受けする瑞々しい体をしている。
その2人が荒く声を上げ、互いの腰を激しく打ち付け合う。
動きがしだいにヒートアップしていき、やがて両者が絶頂に達した。
しかし、女の様子がおかしい。
異常なほど発汗しており、瞳孔が開ききっている。
また鼻血やヨダレが止まらず、美しい顔を汚していく。
セックスでの絶頂による痙攣とは思えないほど体を震わせ、「あー、うー」と涸れた声は女が幾度も絶頂を迎えたことを理解させた。
一方、男は満足をしたのか、しわが付いたズボンを上げて鼻歌交じりに消臭剤を服にかけている。
「・・・おい、生きてるか?」
「・・・・・・あー」
「はっ、盛大にイッてやがるぜ。・・・あー、くっせぇ」
女の顔をパチパチとはたく。
そのまま場を立ち去ろうとしたが、大きく実った胸や下品に開かれた股を見て、再び股間に血が巡るのを感じた男は再度ズボンを脱ぎ腰を動かし始めた。
「ふッ、ッたく、『犬』様々だぜ。こん・・・な都合のいいッ女をッ、用意してくれる・・・とはな。おい、・・・計画・・・進めとけよ」
女は口から泡を吹き出し、さらに激しく痙攣していて返事はなかった。
拳を固く握り、女の顔や胸、腹を何度も殴る。
女が苦悶の声を上げるが、それとは正反対に恍惚の表情を浮かべていた。
大淀モーターズ社長、大淀俊彰が殺される数ヶ月前の出来事であった。




