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盗賊団という刺客

 朝、ツァル子はエースケが使うはずのベッドで目を覚ました。


「……あれ……ここエースケのベッドだ! ……またやっちゃったぁ、ぅぅぅ」


 しかし部屋にエースケはいない。一応、ベッドの下を覗くが見当たらず、外へ出たツァル子は竜車で寝ているエースケを発見した。

 寝心地の悪い竜車で体を丸めて、いかにも不機嫌な表情をしている。


「あ、そのぉ、エースケぇ?」


「……なに」


「……ごめん」


「ごめん、じゃなぁい!! なんで俺がここで寝てるか分かるか!?」


 エースケが飛び起きる。


「昨日ちょっと外出て、そんで部屋戻ったら! ツァル子が俺のベッドで寝てて! だから俺はツァル子のベッドで寝ようとしたんだよ! そしたらツァル子が移動してきて! 俺はまた移動! そしたらツァル子も移動! その繰り返しだよ! いたちごっこだよ! 怖かったよ!」


 エースケは半泣きで叫んでいる。

 よほど寝心地が悪かったのだろう。


「なので、今日から寝る時はあなたをベッドに縛りつけます」


「いやよ!」


「拒否権など無いわ!」


「そんなことしたらエースケが私に変なことするに決まってる! 嫌! 絶対に嫌! 縛られて、あんなことやそんなことされるなんて絶対いや!」


「自分の寝相の悪さを恨むんだな! ……大丈夫、絶対に痛く縛んないから。高手小手、下手小手、諸手上げ、菱縄、亀甲、色々あるけどどれにする? やっぱ亀甲?」


 エースケは縄をピーンと引き伸ばしながら、ツァル子の全身を舐め回すように見ている。

 ツァル子は今までに感じたことのない悪寒で震え上がった。


「よく分かんないけど全部だめ!」


「んでだよ!じゃないと俺がぐっすり眠れないんだよ!」

 

「エースケを縛ればいいじゃない!」


「なんの意味もない! なんの需要もない!」


「需要ってなによ!!」


 朝から騒がしい二人によってトリケラも目を覚まし、縛る縛らない論争が終わらないまま出発した。



 ******************


  

 エースケたちが越えようとしている山。その頂上付近に廃屋になりかけた山小屋が建っている。

 山小屋の屋根の上に大男が座っていて、遠くのなにかを眺めている。


「なぁなぁなぁなぁトロン兄ぃ、やっぱぶっ殺しに行こうぜ」


「あぁ? おいおいおいおい、それでみんな返り討ちにされて死んだんだろうが。忘れたとは言わせねぇぞ、オドン」


「でも頭《かしら》は必ず殺すって。なぁなぁなぁな、そうだよな頭《かしら》」


 弟のオドンの一本だけ鋭く発達した右の犬歯がギラリと光る。

 兄のトロンの一本だけ鋭く発達した左の犬歯がギラリと光る。


「おいおいおいおい。それは頭《かしら》がてめぇの面子保つために言ったハッタリだよ。そうだろ? 頭《かしら》」


「じゃあじゃあじゃあじゃあ、頭《かしら》でもあんな化け物は倒せねぇってことか? そうだろ? 頭《かしら》」


 薄暗い部屋、シミだらけの床と壁、古い照明には虫が集まっている。

 かび臭い木製テーブルの上には血塗られたナイフや汚い部屋に似つかわしくない宝石、金の指輪などの装飾品が乱雑に置かれていた。

 両目をぱっくりと開けているアホのオドンと、つり目のトロンが見つめる一人の男。

 整えたオールバックの黒髪と顔面に刻まれた解読不可能の文字列が特徴的で、両足をテーブルに乗せて、無気力な目で汚れた天井を見上げている。


「……ぐうの音も出ねぇなぁ。でもよトロン、オドン……てめぇらにぐうパンは出せるぞ。あんま俺をイラつかせんなや」


 頭《かしら》と呼ばれる若い男の言葉に部屋が静まり返った。

 

「あ、そーだ。なぁオドン、さっきてめぇにナイフ手入れしとけって言ったよな?」

 

「うんうんうんうん、手入れしとけって言ってた。でも面倒だからレオンに頼んだよ。な、そうだよなレオン。俺、ちゃんとお前に頼んだよな」


 汚れた床を拭いている白髪の少年が驚いて顔を上げた。


「あ、いや、その」


 頼まれた覚えはない。

 それでも即座に、はい、と一言で受け入れるべきだった。


「頼んだよなぁ? なんだよその反応はぁ、まるで俺が嘘ついたみたいじゃんかよぉ!」


 乱暴に白髪を掴まれ、顔を持ち上げられる。

 こうなると分かっていたのに、レオンは自分のミスに後悔した。


「ご、ごめんなさい。頼まれました。今からやります」


 声を荒げていたオドンだったが、コロッと笑顔に変わり、


「だよなぁ、そうだよなぁ、俺は嘘ついてないよなぁ」


 雑に手を離してレオンが倒れ、オドンの笑い声が部屋に響いた。

 レオンの年齢は十二歳。といっても見た目は幼く、オドンの遊び相手として嫌がらせや暴力を受けていた。


「おいおいおいおい、トロンよぉ雑に扱ってんじゃねぇよ。レオンは特別なんだから、もっと丁寧にいじめてやれ」


 汚れたナイフを拭き始めたレオンの目には涙が浮かんでいた。レオンは必死に泣くのを堪えている。

 三日前、冒険者登録のために集会場ティルルへと向かう途中で盗賊団に襲われ、レオンは雑用として監禁されていた。


「小僧、次の仕事はてめぇも参加だ。売らずに生かしてやってる理由を忘れないこと、自分の命は自分で守ること、いいな……オドン、トロン、てめぇらも次アレに襲われたら自力で生き延びろよ」


 頭《かしら》の言うアレ。

 レオンが拉致された帰り道、頭《かしら》率いる盗賊団は”巨大生物”によって壊滅に追い込まれた。

 二十名以上いた盗賊団はたった四人に減ってしまっている。

 

「おいおいおいおい、あんたと俺、オドンとキチパチの四人だけでなにが仕事だよ。遠路はるばる強盗の旅、たらふく奪ったは良いが、最後にゃバケモンに襲われて、手元に残ったのはこれっぽっちのガラクタとガキだけだ。報酬も未払い、割に合ってねぇじゃ済まねぇぞ」


「責任取れってか? トロン、てめぇだけは、こぉんな弱小貧乏盗賊団に落ちても残ってくれると思ってたんだけどなぁ。……ま、好きにしろ。盗賊団を降りるのも山を下りるのも、てめぇの勝手だ。なにも後ろから刺しゃしねぇよ」

 

 険悪な空気の中、部屋に一人の大男が入ってきた。

 目が小さく、何を考えているか分からない表情の不気味な大男は、レオンが頭《かしら》よりも怖いと思っている人物だ。


「りゅうしゃキタ、いちダイ、よわソウ」


 山道を進む竜車が一台。トリケラトプスと男女が一人ずつ。

 エースケたちはキチパチに発見されてしまった。


「おらてめぇら、仕事だ……行くぞ」


「ねぇねぇねぇねぇ、全員で行くのは大袈裟すぎだと思う! 俺が殺してくるよ!」


「ティラノサウルスは子どものトリケラトプスを狩る時も全力を尽くすって言うだろ。絶対に仕留めるための保険だ、保険」


「かしラ、うそツキ、ほんとハ、ねらイ、あいつラ、じゃなイ」


「お、さすがキチパチ、鈍そうな顔して察しがいいねぇ。オドンとは大違いだ」


「なに! さっぱり分かんない!」


「さっさと竜車奪って、さっさとこんなかび臭ぇ場所からおさらばすんだよ。心機一転、新しいアジトを探す旅に出ようじゃねぇか」



 ********************



 一方のエースケたちは盗賊団に狙われていることも知らずに、見つかりませんようにと祈りながら山道を進んでいた。


「どーか! どーか! 無事に山を越えられますように!」


「ねぇ、もし見つかった時の策は? エースケとトリケラで戦うの?」


「一応考えてあるけど聞きたい?」


 エースケはチラッとトリケラを見ると、ツァル子の耳元で囁いた。


「ツァル子が俺を抱えて、飛んで逃げる」


「トリケラ置いてく気!? 一番活躍してるトリケラのことなんだと思ってんのよ!」


「しょーがないだろ! ほかに方法浮かばないんだもん! あ、ちなみにアルーゼ助ける時もそうだから。ツァル子がアルーゼを回収して、俺とトリケラは陸路で全力で逃げるから」


 大雑把な作戦にツァル子は言葉を失った。


「いやぁ、ちゃんと考えたよ? 寝る前とかにじっくり考えたんだけどね? まぁじでゼアルに勝てる未来が見えなかったのよ。……だからツァル子! 作戦の核はお前なんだ!」


「私に丸投げじゃない!」


 言い合っていると、急にトリケラが止まってしまった。

 てっきりトリケラが作戦に怒ったのかと思ったが、直後、エースケもトリケラと同様に遠くからの音に気づいた。


「なぁ、なんか聞こえね?」


「え、やめてよ、急に怖いこと言わないでよ」


 ズゥンと地響きのような、ミシッと樹が折れているような、音の詳細は分からないが音自体が大きくなっているのは分かる。つまり、”近づいてきている”。

 じわじわと込み上げてくる嫌な予感が言葉になって放たれた。


「トリケラ! 走れ!」


 縄を大きく揺らし、危険を察したトリケラが全速力で山道を登っていく。

 

 バァァアアォオォオオォオンンン!!!!!!!!


 突如、山中で雷鳴のように響いた恐竜の咆哮とも違う轟音。馬鹿でかい金管楽器を乱雑に吹いたような、けたたましい”鳴き声”がエースケとツァル子の鼓膜に衝撃を与えた。

 トリケラはさらにスピードを上げ、その加速はエースケたちに緊急事態を伝えていた。

 

「なに……今の」


 ツァル子が小さく弱々しい声でエースケに聞いた。

 謎の轟音。次第に地響きと木々がへし折れる破壊音も迫ってくる。指先まで冷たくなる恐怖感、しかしエースケはその鳴き声に聞き覚えがあった。

 記憶を探り、恐竜界という前提で考えた予想。恐竜界に恐竜以外の古代生物がいるのなら……。



 ****************



 集会場ティルルにて。


「ベロニカさん、なに見てるんですか?」


 一人のモブ男が、捕獲レポートをじっと見ている受付嬢ベロニカに声をかけた。

 しかしベロニカにモブ男の声は届かず、彼女は急いで地図を広げ、その捕獲レポートの内容と見比べる。

 『巨大マンモスを捕獲 報酬五十万ディノル』


「エースケ様が山を迂回せずに盗賊団の縄張りを突っ切っていたら……それにマンモスの目撃場所もかなり近い。私としたことが、盗賊団より危険な存在を見落とすなんて……!」


「あ、あのー、ベロニカさん?」


「早く騎士団に連絡しなくては!」


 モブ男は完全に無視され、寂しさのあまり灰になった。

 一刻を争う事態にベロニカは急いで伝達の水晶を起動した。



 ******************



 木々が豪快にへし折られる破壊音が響き、聞き覚えのある轟音から十数秒後、声の主はついに姿を現す。

 エースケの予想は見事に当たっていた。


「マンモスだ!!」


 エースケとツァル子はあまりの巨体に絶句した。

 ゼアルを見ているとはいえ、巨人とは異なる圧倒的な存在感と威圧感はいかに我々が弱い生物なのかを嫌でも気づかされる。


 バァァアオオオオオォォゥウンンンッッッ!!!!!

 

 そり返った白く長い二本の牙、筋肉質な鼻は丸太のように太く、肉体はまさに山と言っていい。

 その巨体のせいで、距離が離れているはずのマンモスが真近にいるような錯覚に陥る。


「ツァル子! クロスボウで……!」


 ツァル子は尻餅をついたまま立ち上がれなくなっていた。

 

「トリケラ! とにかく全力で走れ!!」


 エースケは縄を離し、荷台に移ると腕にクロスボウを装着し矢を装填した。御者はいない。逃走ルートはトリケラの自己判断に任された。

 エースケは躊躇なくマンモスに照準を合わせ、カチッ、と引き金を引いた音と共に矢が発射される。

 マンモスとの距離は約二十五メートル。竜車の激しい揺れと焦燥感で、射程距離に十分余裕があったものの、矢は地面に突き刺さった。


「くそっ!」


 パニックで冷静さを欠き、エースケは急いで矢を装填する。照準はぶれぶれだが、相手の体は超巨大な的そのもので、次に撃った矢はマンモスの右前脚に刺さった。


「当たった!」


 ツァル子が声を上げたが、エースケにはこれっぽっちの喜びもない。


「止まるわけねぇよな」


 マンモスは減速する気配を一切見せず追ってくる。その迫力に恐怖と焦りが最高潮に達して過呼吸になった。


 バァァアァオォオオオオンッッッ!!!!


「ビビるな!」


 矢を装填するが上手く照準が合わない。

 いくら自分に言い聞かせても、体が恐怖に乗っ取られていた。

 

「エースケ……」


 小さな声で名前を呼ばれた。ツァル子がエースケのズボンを掴んで震えている。

 その瞬間、両眼が熱くなり、視界がよりはっきりとクリアになった。

 無意識に眼球が恐竜化していた。

 視覚が覚醒し、動体視力が跳ね上がったことにエースケ自身は気づいていない。マンモスの動き、竜車の揺れに視界がぶれず、照準が固定される。


「!!」


 放たれた矢は音を立てながら真っ直ぐに空を切り、マンモスの左眼に突き刺さった。


 バァァァアオオオオオオッッッ!!!!


 マンモスは左眼に走った激痛と視界の消失であらぬ方向へ突進し、甲高い鳴き声と破壊音が段々と遠のいていった。


「ふぁっ!」


 緊張の糸が切れて口から一気に空気が漏れる。エースケはへたりと崩れるように座り込んだ。

 その時、ツァル子はエースケの眼が恐竜化していることに気づいたが、伝える前に一瞬で解除されてしまった。


「はぁぁぁぁ……まじで怖かったぁぁ……」


 体から力が抜け、疲労から肩を落とした。


「エースケぇ!」


 ツァル子がエースケを抱きしめる。

 初めての経験にエースケは赤面して硬直した。


「ありがとぉ!」


 恐怖から解放された反動でツァル子はずびずびと号泣していた。

 

「い、いえいえ、どどどどういたしまして?」


 エースケとツァル子は完全に安堵していたが、新たな刺客はすぐ近くに迫っていた。


「あぁ、お二人さん?」


 男の声にエースケとツァル子の表情が一変する。

 既に竜車に乗っていた頭《かしら》がその場に”現れる”。

 エースケは咄嗟にツァル子の前に出たが、頭《かしら》は容赦なくエースケを蹴り飛ばした。

 

「……え」


 トリケラが停止する。

 目の前に三人の男が立ちふさがっていた。

 

「レオン、やっぱお前の能力は便利だな」


 しかし竜車のどこにもレオンの姿はない。

 鼻を鳴らして威嚇するトリケラだったが、トロンとオドンは目もくれず素通りして、地面に倒れているエースケを眺めた。

 

「おいおいおいおい、どんな猛者が乗ってるかと思ったら全然大したことねぇじゃねえか。矢が目に当たったのはやっぱり偶然だったな」


 盗賊団はついこの間、あのマンモスによって壊滅したため、息を殺して一部始終を見ていた。


「ったく、またガキか。世間を知らない少年少女を冒険者にするなんて、集会場の奴らは無責任だねぇ」


 頭《かしら》はツァル子の髪を掴んで竜車から放り投げた。

 地面にうずくまるツァル子をオドンが嬉しそうな表情で見ている。

 

「そうそうそうそう! 大人に騙されて可哀想! 泣いてもいいんだよお嬢ちゃん! 弱いやつをいじめてるってビシビシ実感できるからさぁ! あぁぁ!! 興奮する!!」


「おいおいおいおい、分かってねぇなオドン。女は涙じゃねぇ、血だよ。血を流す女のほうがよっぽど綺麗に見える」


「とろン、おどン、きもちワルイ」


 頭《かしら》がツァル子の前でしゃがみ込むと髪を掴んで上を向かせた。


「へぇぇ、嬢ちゃん、可愛いじゃねぇか……よし選べ、よーく聞けよ。生きるか、死ぬか。生きるを選ぶんなら、俺たちに飼われるか、どっかの金持ちに飼われるか……ほら、さっさと答えろ」


 澄んだ瞳は真っ黒で、ツァル子の戦意を飲み込んだ。

 頭《かしら》の表情からは感情が読み取れない。弱者を人間と考えていない、たがの外れた異常者が提示した選択肢に救いはなかった。

 しかしツァル子には盗賊団に対してとは別の懸念点があった。


「……あんたたち」


 ツァル子は知っている。

 エースケの中で眠る力が目を覚ます条件は……。


「エースケから目を離していいの」


 頭《かしら》が倒れたはずのエースケに目を向ける。と同時に、オドンに黒い影が飛びついた。


「ぎゃぁあ!」


 高速の接近に反応できず、左肩に食いつかれたオドンが絶叫する。

 牙が深く突き刺さって鮮血が噴き出し、頭《かしら》とトロンの表情が変わった。

 

「おいおいおいおい! ちゃんとぶちのめしたんじゃねぇのかよ!」


「あれれぇ、本気で蹴ったんだけどな」


 一人一人を確実に仕留める戦闘方法。

 エースケの能力は、次にトロンを狙った。


 ガルラァァァ!!


 右側の歯が鋭く発達したトロンは反射的に恐竜化し、ポケットに手を入れたままエースケの速攻に対して蹴りを放った。


「おいおいおいおい、暴走してんじゃねぇか」


 蹴り飛ばされたが、エースケはすかさず空中で体勢を立て直して着地した。


「嬢ちゃんの彼氏、動けるねぇ」


 グルルラァァガァラァァ!!!


「お、今度はこっちか」


 その瞬間、ツァル子は一か八かで頭《かしら》に体当たりした。


「あ!?」


 ツァル子に油断していた頭《かしら》は強引に動けばかわせたものの、驚きも相まってエースケの本気の膝蹴りを顔面にくらった。


「がッ!!」


 今度はエースケが頭《かしら》を蹴り飛ばし、木にぶつかる衝撃音が響く。


 ガルラァォアア!!!!!


「せわしねぇやつだな!」


 再び、トロンのもとへ突進するエースケ。

 この時、エースケだけでなくツァル子も行動を起こしていた。


「いてぇいてぇいてぇいてぇ!! クソ野郎! 俺の肩を……肩をぉぉ!!」


 恐竜化したツァル子は大翼を広げて全速力で走り、跳び上がった勢いそのままに上空へと急上昇していく。

 一方のエースケはトロンと対峙し、怒涛の蹴りをぶつけ合う。

 しかしエースケは鋭い爪と尻尾を振るい、時にかみつき、手数の多い高速攻撃でトロンを追い詰めていた。


「戦い方に品がねぇなぁ!」


 両者、速度の速い一撃を繰り出し続け、一発でも与えればそこから一気に叩き込む気でいる。

 野生の本能に人間の思考能力が備わった、品性とは真逆の戦闘スタイルがトロンの反応速度を振り切り、


「ガっ……!」


 暴走エースケの放った首を狙うハイキックが防御を貫通して、トロンの脳を揺らした。

 そして、上空を飛んでいたツァル子が弟のオドンをロックオンし、一気に急降下。

 

「うわぁぁぁぁ!!!」


 オドンの右腕を掴んで、再び急上昇していった。


「私だって!」


「離せぇぇ!! 助けてぇ! 兄ちゃぁん!!」


 左肩を負傷しているため腕を上げられず、オドンはなすすべなく上空へ連れてこられた。


「戦えるのよ!」


 容赦なく手を放し、オドンが絶叫しながら真っ逆さまに落下していく。

 トロンは脳震盪を起こしていたため、その場に立ちつくしていた。そこに弟トロンが垂直落下してくる。

 兄と弟の衝突。

 鈍い音がして、兄弟は意識を失った。


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