~朝日差す丘で~
これからも私達の物語は繋がってゆく。私と言羽さんは独立して出版社を立ち上げた。
カオルさんと玲さんは四葉総合病院で忙しく働いて、沢山の命と向き合っている。優さんは、舞子さんの支援をしながら一緒に歌を広める活動を始めた。
しばらくして私達は絵本『迷子のミウ』を出版。さらに言羽さんは、私がくすぶらせていた物語をいくつも飾り付けてくれた。そして、私には子供が出来た。女の子だったので、迷わず名前は、小鳥遊 美羽と名付けた。
その後、ブーケの行方通り、加山さんと守さんが結婚。年の差十八歳というカップルが誕生した。二人の式でも美羽お姉ちゃんと死神さんに誓い合っていた。カオルさんと、玲さんは、「男なんてー!」と、自棄酒を飲んで大変だった。
そうしてあっという間に十年の歳月が流れた。
私達は今、アメリカに来ている。カオルさんと、玲さん、美羽さんの両親と共に。
「ハロー」
雑な英語で舞子さんと、優さんが私達を迎える。
「良かった、皆、来られて」
「ほら、美羽。お姉ちゃん達に挨拶」
私と言羽さんの娘。今年で8歳になる。
「始めまして。小鳥遊 美羽です。」
ペコリと頭を下げる姿が愛らしい。私は親馬鹿全開だった。
「まさか、本当に二人が結婚するとはねぇ」
舞子さんが私達をじっとり見ている。
「ふふ、まあ積もる話もあるかも知れないけれど、立ち話じゃなんだし一旦ホテルに向かいましょう。明日は早いですよ」
優さんが私達を案内してくれる。ホテルでチェックインを済ませそれぞれの荷物を置いて。昔話に花を咲かせながら観光して過ごした。
そして、午前二時。舞子さん運転の車と、優さん運転の車に分かれて私達はある場所に向かっていた。美羽はすやすや眠っている。
「晴れそうで良かったですね」
私達家族は優さんの車。
「そうね、それにしても久しぶりね。あの時は、ごめんなさいね」
優さんは突然謝罪を口にする。
「あの時?」
言羽さんが尋ねる。
「私が美羽さんの、最後の手紙を見せるのを断った時よ」
そう、私達は美羽お姉ちゃんが最後の手紙を書いた事しか知らなかったのだ。
「でも、まさか、『想像』で、あそこまで一緒だったからびっくりしちゃった」
言羽さんが想像で書いた手紙と、美羽お姉ちゃんの手紙は酷似していた。あまりにそっくりだったので後から見せてくれたのだ。
「良いんですよ。私だって自分が書いた手紙が知らないところで読まれたら嫌ですもん」
そう、昔の優さんはそう言って断った。
だけど、言羽さんは見事に美羽お姉ちゃんになりきった。
「俺も、優さんが、あの手紙を読ませてくれなかったから書けたんだと思います。人には見せたくない手紙って思ったから……」
「ふふ、本当に二人共、舞子さんの言っていた通りね」
そう言って優しく微笑む。まさしく「優」の名の通り。
「さて、ここからが本番よ」
道が森の前で途切れていた。
先行していた舞子さんの車も止まっている。
「はぁはぁ……こりゃオバサン達にはきついわ……」
玲さんがそんな悲鳴をあげる。真夜中の獣道を私達は歩いていた。
美羽は言羽さんの背中ですやすや眠っている。
「すみません。もう少しだけがんばってください」
舞子さんが美羽お姉ちゃんの両親。亜美さんと、羽衣さんをエスコートする。
「大丈夫です。あの子の夢ですから」
亜美さんが言葉にする。美羽お姉ちゃんの夢。
そうしてしばらく歩いた後、私達は小高い丘に出た。
時刻は四時半を過ぎた所。
「そろそろね」
舞子さんが携帯電話を見る。
丘から見える水平線に日が昇ってゆく
「美羽、起きて!」
美羽を起こす。美羽は眠そうに目を開けた。
「なぁに、お母さん?」
「良いから、見ていてごらん」
頭をそっと撫でる。
紫がかっていた空がオレンジに変わってゆく。
そう、迷子のミウの最後のページ。オレンジの朝焼け。元は美羽お姉ちゃんのお父さんが間違って買って来た。絵の丘。舞子さんはずっとあの絵の場所を、世界中ボランティアの旅をしながら、探していたそうだ。
「わぁ……綺麗」
そこに居る全員が、その景色に魅入っていた。
本当に天使が舞い上がりそうな風景。まるで幻想世界に紛れ込んだ様な感覚。
チリリ
鈴音に皆が現実に引き戻される。だけどそこは現実では無かったのかもしれない。
美羽の足元に黒い子猫が居た。首には真っ赤な首輪と、シルバーの鈴。
「ミャーオ」
そして一声、鳴き声をあげる。
これが奇跡なのか、必然なのか、偶然なのかは分からないけれど。
素敵な物語である事。だけは、確かだ。
おしまい。