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婚約破棄された加護なし令嬢、王子が「誰かこいつをくれてやる!」と叫んだら救国の英雄が手を挙げた  作者: 杓子ねこ


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1.婚約破棄と挙手(前編)

「婚約破棄だ、サーラ! 俺はレティアと真実の愛を見つけた!」

「ごめんなさい、お姉様……でも私、もう自分の気持ちに嘘がつけないの!」

 

 突然の宣言は、第二王子であり私の婚約者であるダレル・シャムロック殿下の誕生日を祝うパーティでもたらされた。

 

 壇上で寄り添うのはダレル殿下と、私の妹レティア・マイリット。マイリット侯爵家の次女で、見た目こそ私に似て、銀髪に青い瞳だけれども、性格はまったく真逆と言っていい。

 

 本来ならば、私は驚きに目を見開き、泣き崩れるとか、怒鳴り散らすとか、そうした反応をするべきなのかもしれない。

 

 けれど、朝のうちに「今日はお前のエスコートをしない」と告げられていた私は、パーティの始まるギリギリの時間まで仕事をしていた。

 昨夜もほとんど徹夜で仕事をしていた。

 おかげでまだ頭の中を、予算の調整や外交文書の草案、貴族たちが領境を争う訴状、貿易関税品目一覧などなどがぐるぐるとまわっている状態だ。

 

 目の前のダレル殿下がサボるおかげで、婚約者の私に皺寄せがきて、常に仕事があふれているのだ。

 

(ええと……シャデリア王国へ王妃殿下のお見舞いの品を……じゃなかった、真実の愛……?)

 

「だいたいお前はいつも陰気くさい顔で、俺といても家庭教師のように勉強をしろと言うばかり。俺を楽しませようという心がない。そんな女を愛せるわけがないだろう。その点レティアは、お前の至らなさを埋めようと俺を様々に楽しませてくれ……」

「だって、お姉様は婚約者だというのにダレル殿下をほったらかしで……申し訳なくて、私がなにかしなければと」

「やさしいな、レティアは……」

「ダレル殿下……♡」

 

「……はあ……?」

 

 目の前でイチャつき始めたふたりに、私は怪訝な声をあげてしまう。

 私がダレル殿下をほったらかしているのも、疲れて陰気くさい顔をしているのも、本来ダレル殿下の担当すべき実務まで引き受け、馬車馬のように働いてきたからだ。

 

「それにお前のような『加護なし』と違って、レティアは聖魔法を使う。聖魔法は希少な魔法で、使えるのは魔力を持つ者の中でもほんの数人。聖女とも呼ばれる存在だ」

「ええ、存じております」

 

 ダレル殿下に魔法学を教えたのは私だし、レティアは私の妹だから聖魔法が使えるのは知っている。

 平然と答えた私にダレル殿下は顔をしかめた。

 

「ならわかるだろう。俺は剣術が得意だ。剣に火炎魔法を宿しサラマンダーを退治したこともある。そんな俺にふさわしいのは『加護なし』のお前ではなくレティアだ」

 

 ダレル殿下はレティアの肩を抱き寄せた。レティアが「殿下……♡」とつぶやき、うっとりとダレル殿下を見つめる。

 

 長いわりに要点のわかりにくい話だけれど、前半部分はただの恨みと浮気の告白で、後半部分が婚約破棄をする理由。

 そして、結論はやっぱり婚約破棄でいいようだ。

 疲れた頭に、じわじわとその事実が染み渡る。

 

 婚約破棄。

 

(えっ、じゃあもう働かなくていいんですか!?)

 

 婚約者でなくなるなら、私がダレル殿下の仕事を肩代わりする必要もない。

 

「かしこまりました。婚約破棄をお受けします」

 

 私はドレスのスカートを持ち、頭を下げた。深く礼をする姿勢は婚約者ではなく臣下のもの。つまり赤の他人のご挨拶だ。

 疲れのせいで少々よろけたがなんとか転ばずにすむ。

 

 ダレル殿下は私がショックでよろめいていると勘違いしたのか、ふん、と満足そうな鼻息が頭上から降ってきた。

 

 私は顔をあげ、念のために、と尋ねる。

 

「このことは国王陛下もご存じなのですね?」

 

 実家マイリット家に反対の意思はないだろう。

 妹レティアは幼い頃からなんでも私のものを欲しがった。お気に入りのぬいぐるみ、ドレス、髪飾り……そのたびに「貸してあげなさい」と妹を甘やかしてきた両親だ。そして妹に貸した(・・・)ものが返ってきたことはなかった。

 

 気になるのは、私をダレル殿下の婚約者にと指名した王家の意向。とくに国王陛下。

 

「……もちろんだ」

 

 ダレル殿下が視線を逸らしながら答える。

 

(おっと、あやしいわね)

 

 これは自信がないときのダレル殿下のクセだ。

 この場に国王陛下や王妃殿下、それに第一王子のアーネスト殿下がいらっしゃらないことも気になる。


(まさか独断で?)

 

 胡乱な目になる私から顔をそむけ、ダレル殿下は広間をぐるりと見渡した。

 虚勢とわかる笑顔をはりつけ、私を指さして大声で叫ぶ。

 

「おい、誰か!! このサーラの新しい夫となる者はいないか!? こいつをくれてやる!!」

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