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第15話 スプーン勇者、回復する(させられる)



 村の広場は、朝から妙に騒がしかった。


 人が多い。いや、多すぎる。

 普段なら数人が行き交う程度の場所に、今日は人だかりができていた。


「……なんでこんな集まってんだ?」


 俺は少し離れた場所から様子を眺めながら、ぽつりと呟く。


「先日の件だろうな」


 隣でエルミナが淡々と答える。


「先日?」

「お前がゴーレムを倒した」

「あー……」


 それか。

 いや、まあ、そりゃそうか。

 倒したけど。


「スプーンでな」

「言うな」


 即答した。

 そこ強調しなくていいから。


「でも事実ですし!」


 カイルが元気よく割り込んでくる。


「やめろって言ってるだろ!!!」


 ほんとにやめてほしい。

 ただでさえ目立ってるのに。


 そのとき、人混みの中から、一人の女性が駆け寄ってきた。


「あ、あの……勇者様、ですよね!?」

「いや、えっと、その……」


 違うとは言い切れないのがつらい。

 勇者は勇者でも、武器がスプーンの勇者だし、全くもって嬉しくない。


 女性は必死な様子で、俺の手を取る。


「お願いです!この子を……!」


 そう言って振り返ると、小さな男の子がぐったりと座り込んでいた。

 顔色が悪い。呼吸も浅い。


「……怪我?」

「いえ、熱が下がらなくて……薬も効かなくて……」


 震える声。

 周囲の視線が、一斉にこちらへ集まる。


 ――嫌な予感しかしない。


「……医者は?」

「もう診てもらいました。でも……」


 言葉が続かない。

 エルミナが小さく息を吐いた。


「健太」

「いやちょっと待て」


 嫌な流れだ。


「これは戦闘じゃない」

「わかってる!!!」


 だから困ってるんだよ!!!


 でも。

 視線が痛い。

 全員が、期待してる。


 ……いや、なんでだよ。

 なんで俺じゃなくてスプーンなんだよ。


「……」


 男の子を見る。

 苦しそうだ。

 汗で髪が額に張り付いている。


 ……まあ。


「……やるだけやる」


 小さく呟く。


「ありがとうございます!!」


 女性の顔がぱっと明るくなる。


「いやまだ何もしてないからな!?」


 期待値上げるな!!!


 俺はゆっくりと近づき、しゃがみ込む。

 手に持っているのは――


 スプーン。


「……」


 小さな男の子の前で掲げたスプーン。

 

 毎度おなじみ、どこからどう見てもお食事スタイル。

 これでいいのか?

 いや、今さらか。


「……えーっと」


 何をすればいい。

 攻撃じゃない。

 倒すわけでもない。


 でも、これまでの感じからすると――


「……悪いとこ、掬えばいいのか?」


 自分で言ってて意味がわからん。

 だが、なんとなくそんな気がした。


 スプーンを、そっと近づける。

 触れるか触れないか、そのくらいの距離で――


 すくうように、動かす。


 軽く。

 ほんの軽く。


「……?」


 何も起きない。やっぱ無理か?

 そう思った瞬間。


「……あれ?」


 誰かの声がした。

 男の子の呼吸が、少し落ち着いている。

 さっきより、浅さが消えている。


「もう一回」


 エルミナが短く言う。


「いや指示すんな」


 とりあえず、やる。

 同じようにすくう。


 今度は、少しだけ“取り出す”イメージを強くする。


 その瞬間。


 指先に、何かが触れた気がした。

 重さではない。

 でも、確かに“ある”何か。


「……うわ、なんか嫌な感触」


 思わず顔をしかめる。

 ぬるいような、重いような、よくわからない違和感。


 それを――すくう。

 引き抜く。


「……っ」


 手の中が、少しだけ重くなる気がした。

 だが、それはすぐに消えた。


 次の瞬間。


「……あれ?」


 男の子が、目を開けた。

 ゆっくりと、周囲を見回す。


「……おかあさん?」

「……っ!」


 女性が、息を呑む。


「熱……」


 手を当てる。


「下がってる……!」


 震える声。

 次の瞬間。


「ありがとうございます!!!」

「いや待て待て待て待て!!!」


 勢いがすごい!!!

 周囲が一斉にざわめく。


「今の見たか!?」

「触れただけで……」

「奇跡だ……!」


「違う!!!違うから!!!」


 全力で否定する。

 そんな大層なもんじゃない!!!


「……」


 エルミナがじっと俺の手を見る。


「何をした?」

「知らねぇよ!!!」


 本当に!!!


「でもすごいです!!!」

「だからやめろって!!!」


 カイルがキラキラしてる。

 やめろ、その目。

 嫌な予感しかしない。


「勇者様!」


 別の人が前に出てくる。


「うちの父も……!」

「ちょっと待て!!!」


 手を振る。


「順番とかそういう問題じゃねぇから!!!」


 なんか列できてるんだけど!?


「……終わったな」


 エルミナがぽつりと呟く。


「何が!?」

「お前はもう逃げられない」

「やめろ!!!!!」


 そんな宣言いらない!!!

 視線が、全部こっちに向いている。

 期待と、希望と、勘違いが混ざった目。


「……」


 手の中のスプーンを見る。

 いつもと同じ、ただのスプーン。

 なのに。


「いや、怖っ……なんでこれで治るんだよ……」


 ぽつりと呟く。

 誰も、その答えは知らない。


 ただ一つ。

 確かなのは――


 もう、後戻りはできないということだけだった。



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