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光と影が交わる一点  作者: 柳瀬 鯨
贖罪
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第九一話 再び

昼の光は柔らかい。


街は平穏だった。


だが、少しだけ空気が違う。


理由は一人だけ黙っているからだった。


ユウが珍しく静かだった。


歩幅も少し遅い。


いつもなら何か一言返すところで何も言わない。


隣のアレンは気づいていたが、すぐには触れない。


先に口を開いたのはレオンだった。


「珍しいな」


ユウは顔を上げる。


「何が」


「黙ってる」


「眠い」


即答。


だが少し遅い。


レオンは数秒だけ見たあと、それ以上言わない。


その程度の変化なら気づく。


ただ、理由まではわからない。


王都。


その言葉に反応したことだけは確かだった。


風が吹く。


石畳の端で乾いた葉が転がる。


その音で、ユウの視界が少しだけ遠くなる。


燃えていた。


あのときも風があった。


熱風だった。


王都の中央区画。


崩れた塔。


赤い炎。


叫び声。


人が走る。


止まらない。


耳に残るのは金属音。


そして、


自分の足元に広がる影。


あまりにも広かった。


影獣が次々に街を呑み込み、石壁を砕き、塔を倒す。


その頃は止めるという感覚がなかった。


止める必要もなかった。


ただ前へ進めば壊れた。


城門も。


広場も。


兵も。


空にいた火竜が一度だけ吠えた。


黒い翼が炎を落とす。


石畳が溶ける。


そして一番奥。


王城へ続く階段の前。


膝をついていた誰か。


小さい。


まだ子どもだった。


泣いていたのか、叫んでいたのか、そこだけ音が曖昧だった。


ただ、何かを言っていた。


言葉は思い出せない。


だが視線だけは残っている。


恐怖ではなかった。


違う。


もっと強い何か。


あの視線だけが今も残る。


「ユウ」


声で戻る。


現実だった。


アレンが横を見ている。


「止まってる」


気づけば足が止まっていた。


ユウは少しだけ眉を寄せる。


「……ああ」


レオンが短く聞く。


「王都か」


今度は隠さない。


「嫌な記憶あるだけ」


レオンは首を傾ける。


「壊した時のか」


「まあ」


曖昧な返事。


だがそこで止める。


詳しく言う気はない。


レオンも深くは聞かない。


知らないことがある。


それは理解している。


「なら行かなくてもいい」


珍しくそう言った。


だがユウは首を振る。


「いや」


短く息を吐く。


「行く」


目だけは戻っていた。


「終わった場所は見た方がいい」


アレンが小さく頷く。


否定しない。


王都はもう燃えていない。


壊れたままでもない。


今は再び立ち上がろうとしている。


それを見ることは、きっと必要だった。


ただユウの頭にはまだ残っている。


炎の奥。


あのとき最後に聞こえた、小さな声。


思い出せない。


なのに消えない。

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