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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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メーアス変革の日

「陛下、ドラゴンをお願いできますか?」


「あん?」


街中に出た俺達に、フィンクルは開口一番にそう言った。


折角目立たないようにラグレイトには街から離れた場所で待機してもらっていたのに。


俺が不服そうな顔をしていることを理解したのか、フィンクルは困ったように笑った。


「いや、当主にはなりましたが、他の王家から見れば単なる若輩者です。まず相手にされないでしょう。ならば、申し訳ありませんが、陛下の威光を分かりやすく知らしめようかと」


フィンクルはそう言うと、期待の籠った目で俺を見た。


いやいや、俺が気軽に遊びに行ける街がどんどん減るじゃないか。


そのうえ、よりにもよって様々な国と繋がるメーアスの首都!


気分は全国指名手配である。


「…他にも方法はあるぞ。サニーが目の前であの辺りの山を消し飛ばすとか」


「…巫山戯ないでくださいね?」


俺が別の案を授けようと提案すると、フィンクルが怒りを無理矢理抑えたような顔で笑った。


まあ、実際に山を消し飛ばすのは無理だが。


精々が山の形を変えたり燃やし尽くすくらいだろうか。


それでも、この世界の人間からすれば十分に恐怖の対象だろう。


「それで、陛下。奴隷を労働力に欲しておられるなら、出来るだけ早い決断をお願いします」


「…ぐぬ。分かった。呼んでこよう」


俺はそう言って後ろを振り返った。


サイノスに言付けようかと思ったが、サイノスは背中にあの奴隷の少女を背負っている。


サニーは迷子になりそうだ。


「…ダン。ちょっと行ってきてくれるか」


俺がそう言うと、ダンは深く頷いて踵を返し、猛ダッシュで走り出した。


その輝く白銀の後ろ姿を見て、俺は先に結果を確信した。





「りゅ、竜騎士様だ!」


「う、噂は本当だったのか!」


「なんという神々しいお姿!」


ドラゴンの姿をしたラグレイトが街中に降り立つと、街は恐ろしいまでの喧騒に溢れた。


今まで見た中でも最も賑わっていた街だからそうもなるだろう。


そして、ドラゴンの上に跨る総ミスリルのフルプレートメイルの男に注目がいくのも頷ける。


やはり、ダンが竜騎士と間違われたか。


俺は何とも言えない気持ちでドラゴンの上で騒がれて戸惑うダンを見上げていた。


目立ってしまって気楽に来れなくなるのは嫌だが、目の前に本人がいるのにダンが竜騎士と思われるのも、まるでオーラが足りなくて悩む芸能人のような気持ちになる。


なんてどうでも良い葛藤だ。


ダンは大歓声を浴びながらドラゴンから颯爽と舞い降りた。


何故、一捻り加えて降りたのか。


俺は小一時間問い詰めたい気持ちを抑えつつ、近づいてくるダンに口を開いた。


「よし、これで竜騎士が実在する証拠にはなっただろう。あとはフィンクルがこちらに他の代表が来るのを待つか」


俺はそう言って周囲を見回した。


辺りには既に見物客の壁が出来上がっている。


既に舞台は整ったのだが、フィンクルがまだ来ていない。


普通は逆だろうに。


俺は演出に一言口を出すべきか考えていたが、急に人垣が割れて左右に別れた。


その空いた道を、フィンクルを先頭にして複数の人間が歩いてくる。


妙に険しい顔のフィンクルと、ローブ姿の中年の男、初老の女だ。そして、その3人を挟むように何十人という兵士の姿もあった。


その物々しい団体は俺達の下まで来ると、フィンクルと兵士達だけが跪いた。


立ったままの中年の男と初老の女は、跪いたフィンクルよりも前に出てこちらへ歩み寄った。


「貴方が竜騎士様ね。私はこの国の代表を務めている一人、クレイン王家の当主、カレディアという者です」


カレディアと名乗った初老の女はそう言って頭を下げた。


「…俄かには信じられんが、本物のようだな。偽物でもドラゴンを操るなどSランクの冒険者でも無理なこと。私がマイスティス王家の当主、ジロモーラだ」


次にジロモーラと名乗る男が自己紹介をし、片手の掌を差し出した。


勿論、ダンにである。


「…俺は違うぞ」


ダンが二人に困惑した声音でそう言うと、カレディアとジロモーラは目を剥いて驚いた。


「え…では、その見事なミスリルの鎧は…?」


カレディアがそう口にすると、ジロモーラも何度も頷く。


ダンは困ったように俺を振り返ってきたので、仕方なく俺が前に出た。


「…俺が本物だ。言っておくが、ミスリルなんぞ足元にも及ばん鎧だからな、これは」


俺はそう言いながら龍の鱗と皮の軽鎧を右手で叩いた。


俺がそう言うと、カレディアとジロモーラは懐疑的な目で俺の鎧を見ながら頭を下げた。


「それは申し訳ないことをした」


「…大変失礼致しましたわ、竜騎士様。しかし、ミスリルよりも良い鎧とは…実に興味を惹かれましたが」


二人はていねいに謝りながら、その実、その眼には商魂の炎が立ち昇っていた。


メーアスが連合王国として誕生して何年経ったのか知らないが、子供のころから商売に傾倒していると王族でもこうなるのかもしれない。


だが、今はこの衆人環視の中での竜騎士様プレイを早く脱さねばならない。


「そんなことはどうでも良い。話に移れ」


俺がそう言うと、カレディアが頭を上げた。


「これは申し訳ありません。昔から商売の匂いには反応してしまうもので…話はフィンクルから聞いた内容になりますが、それはよろしいですか?」


カレディアがそう言って確認するように俺の顔を見たが、この聴衆が立ち並ぶ中で言える内容なぞ、奴隷解放後のものしか無いんじゃなかろうか。


だが、その話とは限らない。


公然と話をさせて、俺が確かに口にしたという鎖を巻くつもりなのだろうか。


その場合の話は、もし何かあった時のリスクを考えるとガラン皇国に売りつけた奴隷の件だろう。


しかし…。


「ああ、面倒だ。フィンクル、話せ」


相手の思惑を推し量りながら話すのが面倒になった俺は、跪いたままのフィンクルに話すように指示をした。


俺に命じられたフィンクルはその場で立ち上がり、俺を見て頷いた。


「話とは、ガラン皇国に売りつけた奴隷の買取と、国際同盟の件です」


「それの何に疑問がある?」


俺がフィンクルにそう聞き返すと、ジロモーラが顔を上げた。


「ここにも大勢の商人がいる。勿論、ガラン皇国にもだ。そして、今までその商人たちが長い時間を掛けて太いパイプを作ってきた。勿論、そこのバーランド王家の倅もな」


ジロモーラはそう言ってフィンクルを指差した。


どうやら、まだ当主とは認められてないみたいだな。


「それで?」


俺がジロモーラに先を促すと、ジロモーラは強い目で俺を見上げた。


「…このメーアスは小国の集まりでな。寄せ集めの軍隊もあるが、大国相手の戦争なんて勝てる気がしない。だから、王家の私でも当主になるまで行商人をして見聞を広め商売の感覚を養う」


ジロモーラはそう言うと、短く息を吐いた。


「だから商人として話をするが、商人は信用第一なんだよ。その商人が最大の顧客とも言えるガラン皇国という大国と、もしかしたら敵対するような恨みを買えって話なんだ。納得出来るだけの根拠を見せてもらいたい」


ジロモーラはそう言うと、カレディアを見た。


カレディアは浅く頷くと、厳しい目付きで俺を見る。


「竜騎士様に失礼かもしれませんが、我々にも生活があります。フィンクル殿にも話は聞かせて頂きましたが、とても我々のような商売人には信じられない話ばかりで…」


そう言って困ったように笑うカレディアに、俺は肩を竦めて口を開いた。


「それは仕方ないな。だが、一応はこっちも国王なんでな。そこのフィンクルのとこは当主が引退するくらいの責任はとったが、そっちは何をしてくれる?」


俺がそう言うと、カレディアとジロモーラは僅かに苛立ちを見せて俺を見た。


「…そっちが協力を求めてきたんじゃないのか? 竜騎士様とはいえ、国の代表ならば筋は通してもらおう」


ジロモーラはそう言って俺を見た。だが、そこはやはり無理を通させてもらおう。


何故なら、ここでメーアスから立場を下に見られるわけにはいかないのだ。


フィンクルが他の代表に認められないならば、俺が自ら認めさせるしかないだろう。


フィンクルの思い通りに動いてしまっている気がするが。


「…残念ながら、今は戦争間近でな。我が国とガラン皇国の全面戦争の予定だ。それで、メーアスはガラン皇国側に立っている。つまり今は、メーアスは我が国の敵だ」


俺がそう口にすると、周りで聞いていたメーアスの民が騒めき出した。


騒然とする場で、カレディアは目を細めて俺を見る。


「この場で敵対宣言なんて、竜騎士様は流石に度胸がお有りですね…ならば、我々が信じるに足るそれなりのものを見せて頂けるなら、我々は竜騎士様の庇護に入る為に毎年税をお支払い致します」


「ちょ、ちょっと待て、カレディア殿! それは…!」


ジロモーラはカレディアの発言に慌ててカレディアを止めようとしたが、俺は口の端を上げて声を発した。


「つまり、我が国エインヘリアルの属国になる、ということだな?」


俺がそう確認すると、カレディアは頷いた。


「な、何を勝手にそんな決め事を…!」


ジロモーラは怒りに顔を紅潮させて怒鳴りかけるが、俺は笑みを浮かべて口を開く。


「なんだ、文句があるのか。じゃあ、お前は、今のカレディアの台詞を聞いた後で、どんな提案をする気だ?」


器が知れるぞ。


俺は言外にそう含みを持たせてジロモーラを挑発した。


まさか、金を払うなんて小さなことは言えなくなった筈だ。


俺がそう思っていると、ジロモーラは地団駄を踏んで啖呵を切った。


「…っ! 分かった! カレディアの案で良い! これでいいか!」


ジロモーラがそう口にした瞬間、俺は堪えきれずに噴き出した。


後に、メーアスの変革の日と呼ばれる1日である。







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