Sランク冒険者の実力(笑)
「虚仮にしやがって!」
怒鳴り声と共に、クロムウェルの黒いローブが浮かび上がった。
俺とサイノスのやり取りが完全にクロムウェルの理性を飛ばしてしまったらしい。
攻撃魔術の詠唱を始めたクロムウェルに、近くに立っていたロモントと護衛の二人は慌てて距離を取り出した。
「ま、待て! こ、殺してしまわないように手加減を…!」
ロモントは何か叫びながら俺達から離れて行ったが、クロムウェルの顔を見て手加減するように言っていた気がする。
やはり、実績を知っている分、クロムウェルの方が俺達よりも遥かに強いと思っているらしい。
だが、こんなに長々と詠唱しているようでは話にならない。
俺は険しい顔つきで詠唱しているクロムウェルを見ながら、サニーに声をかけた。
「サニー、相殺しろ」
「相殺? 何で?」
俺が指示を出すと、サニーは不満そうにそう返した。
「今回は実力を見たいらしいからな。瞬殺すると何が何だか分からないだろう?」
俺がそう口にすると、何でも力で解決したがるサニーは渋々頷いた。
「馬鹿にしやがって! 今更詠唱なんて間に合うか! インテリペリ!」
一人で盛り上がっているクロムウェルは高揚した声でそう叫ぶと、両手を俺達に向けた。
クロムウェルの両手の指にはめられた四つのリングが淡く発光し、クロムウェルを中心に地面を抉りながら数十を超える無数の風の刃が俺達に飛来する。範囲が意外に広く、このままだと俺達を含めて100メートル以上の範囲を吹き飛ばし、斬り刻むだろう。
俺は今の間に結界を張ったが。
「風の刃…なら、テンペスト」
が、サニーがクロムウェルの魔術を見て一言呟き、一瞬で暴風を生み出した。
爆発するような勢いで風が吹き荒れ、クロムウェルの風の刃を掻き消してクロムウェル本人も数メートル吹き飛ばしてしまった。
まるでサッカーボールのように地面を転がったクロムウェルをしばらく眺め、倒れたまま起き上がる気配が無いことを確認し、サニーは俺を見た。
「…相殺した」
「どこがだ」
俺が文句を言うと、サニーは頬を膨らませて顎を引いた。
「ごめんなさい。でも、あれが弱過ぎた。風の刃の本数が少ないから密度を上げて貫通力を高めたのかと思ったのに」
サニーはそう言って恨めしそうに倒れたままのクロムウェルを睨む。
「はぁ…まあ仕方ないな。手加減し過ぎて怪我するのも変な話だしな」
俺はそう言ってサニーの頭を軽く撫でると、途端にご機嫌になるサニーに苦笑しながら残った冒険者達を見た。
「さて、次は誰だ? 纏めてくるか?」
俺がそう尋ねると、オーウェインが大きな拳を震えるほど握り締めて前に出た。
「俺だ」
オーウェインはそれだけ言うと、盾を前面に持ってきて後ろ手にバスタードソードを構えた。
「ふむ、サイノス。ダンは勝てるか?」
俺がそう尋ねると、サイノスは笑いながら頷いた。
「やり過ぎないように言っておきましょう」
サイノスがそう言うと、ダンは顎を引いて前に出た。
表情は見えないが、そのミスリルのフルプレートメイルの背中から気合いのオーラが立ち昇っている気がする。
ダンは盾と剣を構えると、腰を落として相手を見た。
「…かかって来い」
すると、オーウェインは低い声でそう口にした。
「…参る」
それに、ダンは短く答える。
武士か、お前ら。
2人が動き出そうとするのを眺めて俺はそんなことを思ったが、ふと、俺はあることに気が付いた。
「ちょっと待て」
俺がそう言うと、2人は動きを止めてこちらを見る。
「ダン、武器が少し有利過ぎる。黒鉄のロングソードだ。使え」
俺はそう言ってアイテムボックスからただのレアドロップアイテムのロングソードを投げた。
アイテムボックスを見てオーウェインは片方の眉を上げていたが、ダンの前の地面に突き刺さったロングソードを見て呻いた。
「なんという業物…」
ダンは感嘆の声を洩らすオーウェインを無視してミスリルの剣を地面に突き刺しているが、俺はきちんとオーウェインの呟きに反応してやる。
「ダンに勝てたらやろうか」
俺がそう言うと、オーウェインは一瞬動きを止めたが、目は縫い付けられたようにダンの手に握られる黒鉄のロングソードへ向いていた。
余程欲しいのか、オーウェインは素直に頷いてから剣を構え直す。
「仕切り直しだ」
「ああ」
2人は改めてそんなやり取りをして動き出した。
ゆっくり相手の間合いを測るように動いていた2人だったが、ダンが一度呼吸を整えると、場の空気が変わった。
2人揃って相手の隙を突くみたいな考えは無さそうだな。
「行くぞ」
「来い」
いや、馬鹿正直過ぎるだろう。
俺が呆れながら見ていると、ダンが後ろ足を蹴って一足飛びにオーウェインに向かっていった。
ダンは剣を地面と水平に構え、オーウェインはタワーシールドを持って腰を落とす。
直後、轟音と共にダンの剣がオーウェインの持つタワーシールドを真っ二つに引き裂いた。
そして、あまりの事態に動きを止めたオーウェインの横腹をダンが蹴り飛ばし、オーウェインもまたサッカーボールのように吹き飛んだ。
「…あの剣でも過剰だったか? 黒鉄は鋼より一つ上くらいだった気がするが…弱い装備のデータなんて覚えてないしな…」
俺は無言でこちらを見てくるダンに頷きながら小さな声でそんなことを呟いた。
まあ、攻撃力、体力、速度向上の指輪も装備しているし、ミスリル装備も魔術刻印入りで強化されてるからな。
「ば、馬鹿な…そんな馬鹿な!」
クロムウェルやオーウェインが続けて一瞬で倒されていく状況に、ティダルが耐えきれずに叫び声を上げた。
「…サイノス」
俺が名を呼ぶと、サイノスが鞘から刀を抜いて口を開いた。
「お任せあれ! このサイノスがあの無礼者を細かくみじん切りにしてみせましょう!」
「いや、刀は使うな」
「えぇっ! ?」
俺が一言口を出すと、サイノスはこちらを振り返ってそんな声を上げた。
文句を言いたそうな顔をするサイノスを見て、今日の夜は晩飯抜きにしてやろうと思いながら俺は口を開く。
「相手は元神官らしいからな。ハンデだ。素手でいけ」
「…はい」
俺がそう言うと、サイノスは悲しそうに尻尾と耳を垂らして返事をした。
「えぇいっ! 全てお前のせいだ! 回復魔術を使いたいなら聖騎士になれ、馬鹿野郎! 覚悟しろ!」
逆ギレしたサイノスが刀を納刀し、アイテムボックスにしまいながらそう怒鳴ると、怒気を向けられたティダルは悲鳴を上げて後ずさった。
「あ、あ、アンリ! 前に出ろ! 絶対に私に近付けるな!」
ティダルが声を裏返らせながらそう叫び、今まで一歩斜め後ろに立っていた隻眼の女が無言で頷いた。
サイノスは肩を竦めてから女を見ると、足を前後に開いて前に出した手の平を女の顔の位置まで上げた。
一方、アンリと呼ばれた女は無表情で盾と剣を構えてサイノスを見た。
サイノスはその様子を見て、口の端を上げる。
「む。構えはともかく、その冷静さには驚いた。猫獣人のようだが、武人としての資質があるな」
サイノスはそう言って無表情に盾を持ち上げたアンリを見た。
いや、そのアンリとかいう娘、心が擦り切れてるんじゃないか。
俺は何とも言えない気持ちでその姿を見ていたが、気が付けば2人の距離はもう僅かだった。
「っ!」
アンリは剣が届く距離になったサイノスに向かって、鋭く息を吐いて剣を振るった。
「躊躇いも無し! 良いぞ!」
サイノスはアンリの剣を避けながらそう言って笑った。
変態だ。
「行くぞ!」
アンリの攻撃を回避したサイノスは一瞬でアンリに接近し、鎧ごと腹を殴った。
そして、やはりアンリはサッカーボールのように吹き飛び、地面を転がった。
もはやサムライジャパンである。
フィジカルも決定力も最高だ。
俺がそんなことを考えていると、後ろで見ていたティダルが俺達に背を向けて逃げ出した。
「…サイノス」
「はっ!」
俺が名を呼ぶと、サイノスは素早く走り出し、あっという間にティダルの正面に回り込んでティダルの顔面を蹴り飛ばした。
ボレーシュートを受けたティダルは、悲鳴を上げる間も無く大空を舞った。




