メーアス代表、ロモント
メーアスの代表でありフィンクルの父、ロモント。
その男が今、席を立ってダンを見て頭を下げた。
「メーアスの代表をしております。ロモントです。フィンクルがお世話になっているようで」
ロモントにそう言われ、ダンは鎧兜越しに俺を見た。表情は見えないが、確実に困っている。
面白いのでこのままダンを竜騎士に仕立て上げようか。
俺がそんなことを考えていると、フィンクルが口を開いた。
「父上、彼は竜騎士様の部下の1人です。竜騎士様であり、新たなる国、エインヘリアルのレン国王陛下はこの方で…」
フィンクルはばつが悪そうに俺に手のひらを上向きにして向けてきた。
ロモントはフィンクルの言葉に素直に驚き、ダンと俺を見比べて口を開く。
「なんと、そうでしたか。いや、あまりにも見事な出で立ちに思わず…失礼しました。レン国王陛下。私がロモントです」
ロモントは改めてそう挨拶すると、頭を下げた。
「ああ、気にするな」
俺はそれだけ言って、フィンクルに目をやった。
すると、フィンクルが嫌な顔をして溜め息を吐く。
「…父上。今日は少し大きな話を持ってきました。お時間を」
フィンクルにそう言われ、顔を上げたロモントは眉根を寄せて頷き、左右の女に声を掛けた。
「予定をキャンセルしろ。後、椅子を三つ持ってこい」
ロモントに指示を出された2人の女は顔を見合わせて、俺から見て左側の女が部屋を出て行った。
「すみません。部下の方々の椅子を持って来させておりますので、一先ずレン国王陛下、こちらへ」
ロモントはそう言うと、大きめのソファーへ俺を案内した。
ソファーは三つ。
三人掛け程のソファーが対面するように二つ。そして、二つのソファーの間の奥には1人掛けのソファーが一つあった。
テーブルは見当たらない。
全員座れそうだが、俺1人でこの三人掛けソファーに座るのか。
俺はそんなことを思いながらソファーの真ん中に深々と腰掛けた。
柔らかく沈み込むような座り心地だ。
俺がソファーを堪能していると、俺の正面にはフィンクルが座った。
え、お前がそこなのか。
俺がそんな目で見ていると、ロモントは奥の1人掛けのソファーに座って俺とフィンクルを見た。
「さて、早速で申し訳ありませんが、始めましょう」
ロモントがそう切り出し、エインヘリアル国王とメーアス代表の会談が始まった。
まずは情報を整理することになり、フィンクルからロモントへの情報の供与を行った。
ガラン皇国のレンブラント王国辺境領侵攻に始まり、ガラン皇国軍の壊滅。
次に竜騎士の国エインヘリアルを建国し、レンブラント王国から辺境領が独立後エインヘリアル傘下に入ったこと。
更に、今はレンブラント王国とエインヘリアルが同盟を結んだこと。
聞いていて、ほぼ1ヶ月でこんなにイベント目白押しだったのかと俺も吃驚した。
それらを聞いたロモントだったが、一番驚いたのはフィンクルがドラゴンに乗ったことだった。
「…まさか、私の息子がドラゴンに乗る日が来るとは」
ロモントは小さな声でそう呟いた。
意外と話を聞く男である。
フィンクルの説明は事実だが、やはり普通に考えるならば荒唐無稽に過ぎる。
だが、ロモントはその話を信じているかは別にして、きちんと耳に入れて吟味している。
「父上、ガラン皇国の状況は…」
フィンクルがそんな父親にそう質問をした。
ロモントは一瞬俺を横目に見たが、どこか諦めたような顔になってフィンクルを見た。
「…普通ならば、五大国の一つと新興国など、比べるまでも無いことです。ガラン皇国の情報を勝手に他所の国に話すなどあり得ない」
ロモントはそう口にすると、溜め息を吐いて今度は俺に顔を向けた。
「しかし、私はこのフィンクルを息子として、そしてメーアスの忠臣として信頼しています。お話しましょう」
ロモントはそう口にしてからガラン皇国とメーアスの関係について話し始めた。
「ガラン皇国は、竜騎士様を騙る輩がレンブラント王国の辺境を征圧し、ガラン皇国との国境まで侵犯したと公表しております。もちろん、公表相手はガラン皇国内の一部と我がメーアスに対してだけです」
ロモントがそう言うと、フィンクルが低く唸った。
「…つまり、ガラン皇国側は公表したということにして、奇襲に近い形でエインヘリアルかレンブラント王国へ攻め入るつもりで…」
フィンクルがそう補足するように口にすると、ロモントは頷いた。
「攻め入る相手は、陛下の御国です。ガラン皇国の領土に抵触する地域を不法占拠している輩を討伐する為、討伐軍と銘打って軍を拡大しております」
「…討伐、ね」
ロモントの台詞に俺はそう呟く。
大義名分を掲げたいのだろうが、そんなやり方をすれば、間違い無く我がギルドメンバーが激怒するだろう。
格下相手には問題にならないかもしれないが。
俺が口にした単語が気になったのか、ロモントは咳払いを一つしてまた口を開いた。
「…ガラン皇国がレンブラント王国との国境付近に兵を集めているのは、ガラン皇国が陛下の御国を攻めている間自国が攻められないように牽制しているだけです」
「それで、ガラン皇国に協力しているメーアスが把握するガラン皇国の全貌は?」
俺がそう質問すると、ロモントは難しい顔で顎を引いた。
「…私の息子が少しでも戦闘さえ出来そうなら、出せるだけの奴隷とその奴隷の装備をガラン皇国へ売っております。皇国皇もそうですが、息子も勝てる戦と踏んでおりますので、商売の絶好の機会と捉えています」
ロモントがそう口にすると、フィンクルが後を引き継ぐように口を開いた。
「長兄は、いつもやり過ぎる所があります。今回も、集めれば集めるだけ金になると判断したのでしょう。恐らく、他国から目を付けられることも…」
「フィンクル!」
身内を批判するようなフィンクルの言葉を遮り、ロモントが大声で怒鳴った。
だが、フィンクルはロモントの怒声にも引かずに真っ直ぐにロモントを睨む。
「一箇所に留まらずに渡り歩く行商人ならば、褒められた話ではありませんが、そのやり方で荒稼ぎも何とかなるでしょう。しかし、長兄はいずれメーアスを先導していくかもしれない人です。そんな人物が、他国から反感を買うことばかりしていてはメーアスの不利益となります」
フィンクルがそう口にすると、ロモントは眉尻を下げて溜め息を吐いた。
そして、俺に顔を向ける。
「…あやつは金を稼げば良いと思っています。しかし、メーアスの国内や、北のエルフや獣人の国から奴隷を引っ張る為、随分と敵も多い。金を稼ぐだけでは国は立ち行かないということが分かってくれれば…」
ロモントは疲れた顔でそう言って、また深い溜め息を吐いた。
いや、お家の事情は分かったが、肝心の軍の規模を話せよ。
俺がそう思って仏頂面をしていると、ロモントがハッとした顔になって口を開いた。
「ああ、軍の全容でしたか。結局、陛下の御国に攻め入る予定の兵は、ガラン皇国軍正規兵が五万、傭兵が合わせて六万、奴隷兵が…現在で五万となっております」
「十六万! そんな馬鹿な!」
ロモントの台詞に、フィンクルが驚愕した。
フィンクルもかなりの情報を集めていた筈だが、何故食い違っているのか。
「…お前は十万程度と聞いているだろうな」
フィンクルの驚く様を見て、ロモントはそう呟いた。
フィンクルはその言葉に顔を上げると、信じられないものを見るような顔でロモントを見る。
「わ、私を、長兄は疑っているのか…」
フィンクルが愕然とした面持ちでそう呟き、肩を落とした。
ロモントは落ち込むフィンクルを悲しそうに見る。
「フィンクル、兄を恨むでないぞ。私にも本心を語りはしなかったが、あやつは私の跡を継ぎたいが為に情報をあまり外に出さないようにしているのだろう」
ロモントがそんなフォローにならないフォローを口にしたが、フィンクルは顔を上げなかった。
そりゃそうだろうな。
兄弟相手に情報を流さないなら、それはやはり信用していないからだ。
そうでなければ、お互いで情報交換を密にする筈である。
俺は落ち込むフィンクルを横目に、ロモントを見た。
「そういうことなら仕方ないな。無理矢理集められた奴隷くらいは助けてやろうかと思ったが」
俺がそう呟くと、ロモントは訝しむように目を細めて俺を見た。
「…陛下は、防衛ではなく、ガラン皇国軍に真っ向からぶつかるお積りですか? このままならば、もしかしたら二十万にも膨れ上がる可能性がある未曾有の大軍ですが」
ロモントの台詞に、俺は頷いた。
「前回は十万対200くらいだったが、誰一人擦り傷一つ負わずに勝ったしな。二十万なら今回はハンデとして100で相手をしようか」
俺がそう言うと、ロモントが愛想笑いを浮かべたが、俺が首を傾げる様を見て固まった。
「…本気ですか?」
暫くして、ロモントから出た言葉はそんな一言だった。
本気ですが、何か?




