商人達の驚愕
城の外観に驚き、目を見張った商人達一行は城内に入ってまた驚愕していた。
様々な調度品、いや、窓枠の1つをとってみても、その装飾の見事さに目を剥く者ばかりだった。
「なんという見事さ、精巧さ…誰がお造りに?」
いや、それは有名な電機メーカーがデザインしたやつだから。
「これは、見事な像で…!? こ、この等身大の大きな像は、もしやミスリル製!?」
「ああ、悪趣味だろう? 今度それは鎧に変更する」
「なっ!? そ、そんな簡単に…?」
俺たちはそんな雑談混じりに廊下を歩いた。
そして、玉座の間にて正式な謁見を行い、一同は食堂にて夕食を共にする。
ギルドメンバーは一部の生産職とメイド部隊を除く15人が、商人達は護衛と奴隷を含めた合計21人が食堂に集まり席を並べた。ちなみにブリュンヒルト達も参加しているので丁度40人である。
「いや、本当に驚きました。このような見事な城は古今東西類を見ないでしょう。更に食事も食べたことのない素晴らしい美食ばかり」
「もう1つ言うなら、美女ばかり、かしら?」
クビドの台詞にヴィアンがそう付け足した。
クビドはその言葉を受けて思わず破顔する。
「はっはっは! 確かに確かに。本当に美しい方ばかりで。最初は陛下も配下の方々も皆エルフかと思ったくらいですよ」
クビドは上機嫌にそう言って蒸留酒を口に入れる。
その合間を縫って他の商人も話をしに寄ってくるが、他の商人から出る話は商売の話ばかりだ。
「へ、陛下! このお酒はどのようにして…」
「陛下、この肉は口にしたこともない旨味が溢れて…」
「へ、陛下。この燭台はまさか、み、ミスリ…」
流石に延々質問攻めは疲弊するので、そろそろ食事に集中してもらおうかと思い始めた頃、まるでタイミングを見計らっていたかのようにヴィアンが口を開いた。
「皆様? 陛下がお食事出来ないではありませんか。こういう場に来たことの無い方ばかりではないでしょう? 普通は、もう少し控え目になさるものですわ」
丁寧だが辛辣なヴィアンの台詞に、修羅場もくぐってきただろう商人達も押し黙ってしまった。
「それにしても、皆様が言うように本当に美味しい食事ですわ。ねぇ、クビドさん?」
ヴィアンがそう言うと、クビドは軽く笑って頷く。
「まさしくそうです。商売の話はまた明日にせねば、この見事な料理に失礼というもの。いや、本当に美味しい」
そう言って笑う2人は確かに、他の商人とは一線を画す人物であろう。
ならば、この2人には是非我が国で商人ギルドを運営してもらいたい。
俺はそう頭の中で考えを巡らせながら食事を続けた。
夜は大浴場と露天風呂でまた騒ぎになっていたらしい。
大浴場の広さ、内装の優美さに男の商人達は大いに感動し、湯浴みを楽しんだ。
露天風呂ではヴィアンがブリュンヒルト達と共に湯浴みをし、その設備と景色に大いに盛り上がった、らしい。
しかし、問題はそこではない。
問題は皆が寝静まった深夜のことである。
我が国始まって以来の賊が出たのだ。
行商人ナイディルの奴隷、タージ。
黒く短い髪と浅黒い肌、汚れた衣服に、穴が開いた部分を縫い合わせて形を保っているローブを羽織っていた少年だ。
レンブラント王国では基本的奴隷の扱いは良い部類に入る。
奴隷を持つ者は奴隷の衣食住を保証せねばならないし、余りにも無体な虐待をした者には処罰がある。
ただ、それは基本的なルールであり、守らない者もやはりいる。
様々な国を渡り歩く行商人の中にもそういった輩が多くいる。
五大国の中でもガラン皇国とメーアス出身の行商人が多いのがその理由である。
ガラン皇国もメーアスも奴隷の扱いはあまり良くない。
奴隷への体罰は黙認されるし、食事や寝床も最低限とする場合が殆どだ。
なので、その文化に慣れているガラン皇国やメーアスの生まれの行商人は奴隷を虐めるように働かせて金を稼ぐ。
皮肉なことに、その奴隷の利用が活発なお陰で両国は五大国でいつも1、2を争う経済大国でもある。
そして、ナイディルはガラン皇国出身の行商人だった。
ナイディルはガラン皇国よりレンブラント王国へ行商に渡り、ランブラスにて竜騎士の国の噂を聞き付け、商人の伝手を使ってグラード村を行き来していた行商人に同行した。
タージはそのナイディルと常に一緒に行動を共にしていた。
ナイディルは大浴場にて湯浴みをしていたが、タージは1人で城の中を歩き回り、廊下に置かれていた調度品を持ってナイディルの部屋に戻った。
調度品自体はミスリルで出来た置物で、傷も何も無くナイディルの鞄より発見された。
尚、タージの犯行に気が付き、捕縛したのはメイド部隊の1人であるラテというヒト族である。
夜中である為、タージは縛られて地下に造られた牢屋に留置。
ナイディルは参考人として与えられた個室に監視付きで待機してもらう運びとなった。
職業が暗殺者のメイド部隊ラテの逮捕劇の為、事件は他の商人達やブリュンヒルト達にも気付かれずに終わりを迎えたのだった。
これが、夜中に起きた事件の全容である。
そして、このことを俺が知ったのはジーアイ城にいる時だった。




