城下町建設
アースドラゴン、イシュムガルドとの会話を終えた俺は、グラード村へ向かった。
今回の護衛は前回と同じく、龍人のラグレイト、ハイエルフのサニー、妖精族のイオのお子様トリオである。
グラード村へ着いた俺たちは、村長を探した。
「お、おお! 代行者様! なにやら村が壁に覆われておりまして…この見事な壁は代行者様の御業ですかな?」
村長は俺に会うなり、グラード村を大回りに丸く囲う城壁を見てそう聞いてきた。
俺は村長の疑問に頷いて肯定する。
「ああ。かなり出来上がってきたからな。そろそろグラード村の皆の住むところを作りたいのだが、住居の建設を許してもらえるか?」
俺がそう聞くと、村長は慌てて声を上げた。
「な、何をおっしゃいます! 代行者様がなさることに文句なぞありません! 私達も全力で…え? 私達の家ですか?」
村長の途中までの勢いは混乱によって萎んでいった。
キョトンと目を瞬かせる村長に、俺は笑いながら口を開いた。
「まあ、とりあえず今のグラード村の隣に試しの住居を数種類建設しよう。それを見てから決めてくれ」
「は、はあ…我々の家を建てて頂くのにそんな至れり尽くせりで良いのでしょうか…」
困惑する村長に適当な返事を返し、俺はヴァル・ヴァルハラ城へ向かった。
玉座の間に行くと、カルタスとローザが待っていた。
「おお、殿! 御早い御着きですな!」
「おはようございます、ボス」
「ああ、おはよう。今日の昼から城下町を作るぞ。カルタスとローザは勿論だが、ラグレイト、サニー、イオ、お前達も少し手伝え」
俺は挨拶もそこそこに皆を順番に見つつ、そう言った。
すると、カルタスが代表して口を開いた。
「手伝いですと? 何をすれば良いのですかな?」
「建てる家の間取りだ。昨日のペースなら家など直ぐに建つ。だから、複数の住宅を並べて良いのを選ぶつもりだ。さあ、お前らも昼までに一つは案を出せ。ちなみに俺は5つは出せるぞ」
俺がそう言って笑うと、カルタスとローザが顔を見合わせて頷いた。
「ローザ、紙だ!」
「あいよ」
カルタスが号令を発すると、ローザはまるで霞のようにその場から姿を消した。
「家の間取りとか考えたことないよ」
「家…楽しい。私は木の中を空洞にして家にする」
「ぼ、僕は魔術研究様に実験場つきの家が…」
護衛達はそれぞれ反応は違うが、もう頭を捻り出した。
良いものも出るかもしれないな。
そう思った俺は皆を眺めて微笑んでいた。
その時だけは。
「ダメ。ボツ。ダメ。使えない。ダメ。問題外」
「あぁ? なんだよ、ディグニティ…僕が真面目に考えたってのに」
「実験場…」
「木の家は作れる。作れ、ディグニティ」
「あ、アタシの忍者屋敷…」
「わ、ワシの武家屋敷…」
ものの見事に俺以外の設計は却下されてしまった。
かく言う俺も許可が出たのは3件だ。
ディグニティは大袈裟に肩を竦めると、深い溜め息を吐いて首を左右に振った。
「どんな街並みにする気よ。家についてはボスの出した二階建ての案でいくわ。ただ、イオの実験場付きの家は少し改造して冒険者ギルドにするわ。他は、カルタスの武家屋敷なら衛兵の詰所にすればいいかしら? ラグレイトの空中に浮かぶ家は論外よ」
ディグニティの決定に文句を言う一同を見つつ、俺はディグニティの許可がでた自分の案の3つの設計に目をやった。
よくあるコンパクト住宅だ。
一階がキッチン、トイレ、シャワー室と普通の部屋が1つずつ。二階が納屋1つと部屋3つ。
これに似た別パターンが後2つある。
間取りはこの3つと、ディグニティが考えたドア無しの間取りと、二階建てなのに間にもう1つスペースがある間取りなど、合計10種類。
もちろん、ディグニティが考えた間取りは全てディグニティの権限で正式採用された。
後は外観だが、そこはディグニティに任せるとしよう。
話がまとまり、俺達が揃って食堂で昼食をしていると、城に泊まったブリュンヒルト達が現れた。
「レン様! お、おはようございます」
俺に気づいたブリュンヒルト達が俺に向かって横一列に並び、頭を深く下げた。
「おはよう。よく眠れたか?」
俺がそう尋ねると、4人は何度も首を縦に振った。
「す、凄いんですよ! ふかふかのベッドに柔らかい布団!」
「あ、あの枕もすげぇよな!」
「ドアを閉めたら音も吃驚するくらい静かだし!」
「ああ、レン様…素晴らしいお風呂もありがとうございました! 髪が艶々に…」
興奮した面持ちの4人は一斉にそんな声を上げていた。
知ってるよ、俺の城だぞ。
暫くして落ち着いた4人も交えて食事をし、話題の流れからブリュンヒルト達も城下町建設を見に来ることになった。
「じゃあ、ついでに冒険者ギルドも作るか」
「え?」
「そんなついでで出来るんですか?」
俺の台詞にブリュンヒルト達から疑問の声が上がるが、俺は口の端を上げて応じた。
「楽しみにしておけ」
俺がそれだけ言うと、4人はハッとした顔になって口を閉じた。
食事を終え、カルタスとローザを除く全員で城とグラード村を繋ぐ橋の前に立つ。
見れば橋だけじゃなく水路にも柵が出来ており、細かなディテールもきちんと作りこまれていた。
そして、橋から伸びる綺麗に作りこまれた石畳の大通り。
え。
この城に連れてきた生産職だけでこれを作ったの?
「凄い…やはり、神の御業なのですわね」
「朝も見たけど、これが1日で出来るなんて…」
ブリュンヒルト達もその光景に感嘆の声をあげて驚くばかりだ。
どうだ、信じられないだろう。
俺も信じられないからな。
俺はそんなことを思いながら足を踏み出し、石畳の上を歩く。
暫く進み、頭の中で城下町のイメージと実際の景色とを照らし合わせて行く。
「…まずは、冒険者ギルドを作って大通りに並ぶ店の大きさを決めるか」
俺がそう言うと、ディグニティが身体をくねらせた。
「了解、ボス。じゃあ、予定通り城下町の入り口付近に作りましょう。同じような形で通りの反対側には衛兵の詰所ね?」
「ああ、頼んだぞ」
俺が指示を出し終えると、生産職を率いたディグニティが城下町の入り口へ向かって飛んで行った。
唖然とするブリュンヒルト達を残し、俺達は石畳を歩いて城下町の建設予定地を巡る。
何人かのグラード村の村人と挨拶を交わしながら歩いていると、後方から正気を取り戻したブリュンヒルト達が合流してきた。
「ひ、飛翔魔術を全員がっ!」
「違う。集団飛翔魔術で飛んだんだ」
「しゅ、集団!?」
「無詠唱でっ!?」
ええい、五月蝿い。
というか、メルディアまで無詠唱に反応するなよ。流石にお前は出来るだろ。
俺は騒ぐ4人に少々疲労感を感じながら城下町の入り口まで歩いた。
すると、そこには巨大な四角い箱が1つ出来ていた。
ディグニティは俺が来たことに気が付き、箱を指差しながら口を開く。
「ボス? とりあえず、大きさはこんなものかしら?」
ディグニティにそう言われて改めて確認するが、サイズ的には二階建ての一軒家が2つ並んだような大きさだ。
ランブラスの冒険者ギルドよりも一回り大きいくらいだろうか。
「ふむ、そうだな。とりあえず、飲食のスペースは少なめにして、隣に大衆酒場か何か作れば問題ないだろう」
「分かったわ。じゃあ、とりあえず作ってみるわね?」
ディグニティはそう言うと箱に向かっていった。
「こ、これが冒険者ギルド…?」
「すごく、不思議なデザインね」
ブリュンヒルト達は石造りに見える真四角の箱を見てそんなことを呟いていたが、ディグニティが向かって暫くして急に箱の外観が変わっていき、気が付いた時には立派な建築物が出来ていて驚いていた。
外観はゴシック建築と言うべきか。
縦長の窓が特徴的な荘厳な雰囲気だ。
どちらかというと、神殿とか大聖堂と呼ばれそうな見た目をしている。
「…いや、冒険者ギルドっぽく無いぞ」
俺がそう突っ込むと、ラグレイトが首を傾げた。
「そう? 僕は好きだけどな」
「俺も嫌いではないが…」
口を開けたまま固まるブリュンヒルト達と並んで、俺は冒険者ギルド大聖堂を眺めて頭を捻っていた。




