8日目朝 初めての朝帰り
朝が来た。
いつもと違う景色に俺は寝ぼけた頭で天井を眺める。
木の匂い。隙間風があるのか、細い風が肌を撫ぜて俺は身体を震わせた。
申し訳程度に掛けられた布を除け、俺は上半身を起こす。
村長の家だ。
藁を敷き詰めて縛って作った簡易的なベッドに布を敷かれており、俺はその上に寝ていた。
床を見れば、サイノスを筆頭に皆が静かに寝息を立てている。
何故かこいつらは皆が俺よりも遅く起きる。まさか、俺が早すぎるわけじゃ無いとは思うが。
「む、殿。起きましたか」
サイノスは物音に反応したのか、そう口にして身を起こした。
すると、他のギルドメンバーも段々と覚醒していく。皆が代わる代わる挨拶をしてきた。
「おはようございます」
「おはよう」
俺は最後のミラの挨拶を聞き、全員に対して一言挨拶を返す。
ベッドから抜け出し玄関替わりの戸まで視界にいれるが、村長の姿は無かった。
そこまでして、ふと昨夜のことが思い出された。
村長の家に全員で1泊したが、肝心の村長が眠るスペースが無くなったのだ。
「村長は何処に泊まったんだったかな?」
「ダン親子の家です」
俺の疑問にミラが答えた。
大丈夫か、その組み合わせ。村長は友達がいないのか。
俺は頭の中でそんなことを考えたが、俺が心配する問題でも無いと思い直した。
村長があまりにも人望が無いようならミエラを町長にしよう。
「とりあえず、一旦ジーアイ城に戻って話を詰めよう」
俺は皆にそう言って村長の家を出た。
まあ、大まかな形まで出来ているのに話を詰めるも何もないかもしれないが。
「おお、代行者様! 良く眠られましたかな?」
外に出ると、村長が既に待機しており、俺を見て頭を下げ挨拶をしてきた。
「ああ、ありがとう。俺達は一度戻って城の仕上げの準備をしてくる。またすぐに帰ってくるが」
「なんと、そうですか…では、我々はまたお越しになる日をお待ちしております」
俺が村長に帰路につく旨を伝えると、村長は残念そうにそう言った。
「レン殿。我々はレン殿さえ良ければ早速何かお役に立ちたいのだが、何か仕事はありますか。雑用でも何でも言いつけて貰いたいのですが」
俺と村長の挨拶が終わるのを見計らい、村長の後ろに立っていたダンがミエラとシェリーを連れて前に出た。
ダンの要望を聞き俺は僅かに思案したが、今は頼むような仕事は無い事が分かっただけだった。
「よし、皆に紹介するから我らの拠点へ案内しよう」
俺がそう言うと、様子を見ていた村人達から騒めきが起きた。
どうやら、神の代行者の城に招待されたのは五大国の礎を築いた指導者達など、伝説に残る偉人しかいないらしい。
後でダンが珍しく興奮気味にそう話していた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
飛翔魔術で帰った俺達をメイド長のプラウディアが出迎えた。
プラウディアはメイド部隊を背後に控えさせ、下げていた頭を上げた。
「お客様でしょうか? 連絡も無く朝帰りしてお客様まで急にお連れとは…何処ぞに居そうなダメ親父の典型例のようで素敵にございますね」
「絶対に素敵だなんて思ってないだろうが」
俺がそう言うと、プラウディアはダン達を眺めて首を傾げた。
「お客様達が馬鹿面を晒しておいでですが…」
「毒舌過ぎる! どんだけ口が悪いんだよ」
プラウディアの台詞に突っ込むと、俺はダン達親子を振り返った。
すると、そこには呆然とした顔でジーアイ城を見上げる親子の姿があった。
確かに、こうして改めて見るとジーアイ城は我ながら良く出来ている。
グラード村の近くに建設中の城も随分と大きく見えたが、やはりジーアイ城と比べると小さく感じる。
大きさという意味だけじゃ無く、存在感が違うのだ。
「こんな…こんな景色を、生きている内に見ることになるとは…」
俺がジーアイ城を眺めていると、ダンが掠れるような声でそう呟いた。飛翔魔術の時も大層驚いていたな。
「ふむ。自信作だからな。作るのに半年掛かった力作だ」
俺が胸を張ってそう言うと、ダン達は信じられない物を見たような顔で俺を見てきた。
失礼な。デザインに時間は掛かったが、課金もかなりして創り上げた傑作だぞ。
「ご主人様は我々のような部下が殆どいない時に、この城をお一人で建てられたそうです」
「1人で!? そんな馬鹿な!」
いや、もちろん日曜大工みたいなノリじゃなくて、課金やらアイテムで揃えていったんだけど。
俺はそう思ったが、どう考えても上手く説明する自信がない。
「まあ、気にするな」
俺は説明を放棄して話を進めることにした。
「プラウディア、ディオンはどうした? いつもなら何処からか現れるのに」
俺がプラウディアに振り返ってそう聞くと、プラウディアは浅く溜め息を吐いて俺を見た。
「ご主人様が朝帰りをなさるから…」
と、プラウディアは珍しく口籠り、非難がましい目つきで俺を見てきた。
「な、なんだ? 俺が居ない間はエレノアがジーアイ城を取り仕切っているだろ?」
俺がそう弁明すると、プラウディアは目を細めて俺を見つめたまま口を開いた。
「…ご主人様、健闘をお祈りします」
プラウディアの気になる言葉が頭に残っているが、とりあえずダン達を案内する為に俺達はジーアイ城の中を歩いていた。
先ほどからダン親子は殆ど言葉らしい言葉は発せていないが、一応俺の後を付いてこれてはいた。
視線を彷徨わせながら歩く3人を見て、ダークドワーフのミラがそっと俺の隣に来た。
「マスター。彼らをジーアイ城に招いて良かったんですか? 」
「ん? ああ、国を興す以上はそれなりの人数が部下に必要だと思う。まずは、彼らが信用出来る部下第1号だ」
「なるほど。こちらも、多少のリスクを承知で彼らを信用する、と」
俺はミラの言葉に頷くと、後をフラフラと付いてくる3人を見た。
3人は時折何か話しながら、だが視線は様々な物に目移りしてしまっている為に彷徨いつつ歩いている。
「お、お父さん…私達こんな所に来て大丈夫…?」
「だ、大丈夫だ。レン殿…いや、レン様が良いと言われているのだ。堂々と、堂々…なんだ、この見事な絵画は…」
「ダン、見て。なにかしら、これ…もしかしてマジックアイテムじゃあ…」
シェリーは調度品などに触らないように恐る恐る歩き、ダンは高さ2メートル幅3メートルにもなる油絵に驚愕している。
ミエラが不思議そうに眺めているのは、ただのゲーム機の形をした置物です。すみません。
3人が逸れないようにギルドメンバー数人で前後を挟んで歩いてはいるが、中々歩みが進まなかった。
普段の倍近い時間歩いたが、やっと俺達は玉座の間に辿り着いた。
俺が巨大な扉の前に立つと、扉はひとりでに開かれてゆく。
そして、扉の開いた向こう側。
赤い絨毯の奥にはエレノアが真っ直ぐ立ち、俺を見ていた。
エレノアは俺を見て、小さく口を開けた。
お帰りなさいませ。
声は聞こえなかったが、口がそう動いた気がした。
めっちゃ怖いんですけど!?




