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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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行け!ボワレイ!君に決めた!

私は我慢の限界を迎えた。


いくら慈悲深く寛大で聡明な気品溢れる大男爵である、このボワレイ男爵であっても許容出来ん。


ビリアーズ伯爵はもう年をとってしまわれたから騙されているが、この深慮遠謀なる私を騙すなど不可能だ。


私は驚く皆の表情に若干の優越感を感じつつ、周囲に目を向けた。


「あの壁を見よ、皆の者!」


「ぼ、ボワレイ殿!? な、なにをなさるつもりか…!」


「えぇい、黙れ! ザクソン! 伯爵様がお優しいからといって調子に乗るな! 私の話を遮るとは何様のつもりだ!」


何という厚顔無恥!なんという傲岸不遜!


伯爵様の騎士団を預かる際に名目上貴族となったせいで増長しているようだが、貴様が庶子の出であるのは誰にも覆せない事実なのだ!


私が怒鳴ったというのに、ザクソンは腹を立てたように歯を食い縛ってこちらを睨んでいる。


こいつもだ! こいつもこんな造られた偽物ばかりの空間に騙されている。


「見よ、皆の者! あの壁は金か? 柱や壁、天井は金の板を敷き詰めていると? 良く見れば分かるだろう!? あれは全く別のものだ!」


私がそう言って周囲を指差していくと、不遜にも上から見下ろす愚か者が口を開いた。


「ああ、まあ金ではないな」


「聞いたか皆の者! この私の目は欺けぬと理解したあの男の言葉を! こんな安っぽい偽物の金箔を貼った部屋に騙されるな! この場に立つ者を見よ! 金が無いから、同じ作りの鎧を揃えられなかったのだ!」


私が朗々と雄大に語り、怯え萎縮する皆の心を奮い立たせる。


私の言葉をきいて皆の目に力が篭り始めた。


伯爵も力強い目で私を見ている。


さあ、私についてこい!


私があの愚か者を改心させ、見事、伯爵様の前に跪かせてやろう!






俺はいまだに現実が見えていない馬鹿な男を眺めていた。


俺からすれば失笑ものなのだが、部下は最早いつボワレイを処刑してもおかしくない形相だ。


好戦的なハイエルフのサニーに至っては俺に確認をとるように何度もこちらを見て眉根を寄せている。


なかなか愉快な男だったが、これでは交渉もままならないだろう。


俺はボワレイに掴みかからんばかりの血走った目を向ける伯爵に声を掛けた。


「伯爵。あの馬鹿はこちらに任せてもらえるか?」


俺がそう言うと、伯爵は苦虫を噛み潰したような顔で唸った。


「本来なら私がやるべきことだが、そちらの気が収まらんだろう。好きにしてくれて構わない」


まだ何か吠えているボワレイを横目に、ボワレイの処遇が決定した。


「サニー、好きにしていいぞ。連れて行け」


俺がそう言うと、サニーが喜色満面で立ち上がった。


「お待ちくださいませ」


だが、それを狐獣人であるソアラが止める。


「我が君。その任は私にお任せください。是非とも…」


ソアラはそう言うと扇情的な身体を揺らして一歩前に出た。静かながら有無を言わさぬその迫力に俺は自然と頷いていた。


「ありがとうございます。ささ、ボワレイ男爵でしたか。どうぞ、こちらへ…歓迎の準備は整っております」


妖しい微笑みを携えた美女に呼ばれ、ボワレイはだらし無く頬を緩めて何度も頷いた。


「うむ! 私の言葉に目を覚ましたか! 中々の美女だ。我が領土へ来たならばこんな偽物ではなく、本当の贅沢を教えてやるぞ? はっはっは!」


ボワレイはソアラに連れられて上機嫌に広間の左右にある扉の右側から出て行った。


サニーはその少し幼い風貌に似合った顔で不貞腐れている。


拷問かなー。怖いなー。


俺がボワレイの未来を想像していると、伯爵が恐る恐るとだが口を開いた。


「いや、誠に申し訳ない。あのような男は連れてくるべきではなかった…ところで、一つ提案があるのだが…」


「提案?」


俺が聞き返すと、伯爵は大きく頷いた。


「ああ、そうだ。貴殿は国を持ちたいのだろう?」


俺の反応に安心したのか、伯爵は思わせぶりな問いかけをしてきた。どうやら交渉を持ちかけたいらしい。


何故か呼び方が変わったのが気になるところだが。


「まあ、そうだな」


俺が言葉少なめにそう返事をすると、伯爵は満足気に頷いた。


「ならば、私と手を組まないか? 実は、もう10年に渡ってとある準備をしてきていてな」


「準備?」


俺が尋ねると、伯爵はどこか楽しそうに笑みを浮かべた。


「我が辺境領とそこに隣接する20に及ぶ領の領主と協力し、レンブラント王国から独立する準備だ」


伯爵はそう言うと、俺の反応を見るように俺を観察した。


独立だと?


通常であればそんなものは許可されるわけがない。


ならば、どうやって独立するのか。もしや、レンブラント王国の王家が弱体化しており、その権威が落ちた頃合いを見計らってのことなのか。


「準備とはどんなものだ?」


俺が尋ねると、伯爵は口の端を上げた。魚がエサに食いついたとでも思っているのかもしれないが、いまだに決定権は俺が握っている。


まさか、騎士団で俺達をどうにか出来るなど思っているわけでは無いだろうが。


「決して外部に出せない内容だが、深淵の森の王殿になら問題はあるまい。簡単に言えば、ガラン皇国の力を借りる手筈になっている」


伯爵はそう言うと、隣のザクソンを見た。ザクソンは一瞬、伯爵の視線の意図を把握出来ていない様子だったが、すぐに何かに気づいて跪いたまま俺を見上げた。


「はっ! 僭越ながら失礼致します! ガラン皇国からは兵士5,000を借り受け、更にガラン皇国王殿から独立を認める認可を得ています! 後は決行した後、レンブラント王国からの許可を得るだけで独立国誕生となります!」


ザクソンは一気に捲し立てるような報告をすると、慌てて床に目を向けた。


「…今はレンブラント王国の混迷期とでも言う時代にある。前国王がレンブラント王国の領土を増やしていき、現在のレンブラント王国は領土だけならば五大国で最も広いだろう。だが、先日、前国王は崩御した。今の王はそれまで将軍をしていたが直情型で謀には向かんし、内政よりも軍部に携わることを好む」


伯爵はレンブラント王国の内情を実に感情豊かに、実に無念そうにそう説明した。


いや、多分に自分の感情が混ざってるぞ。


俺が胡散臭い気持ちで伯爵を見ていると、伯爵はなおもレンブラント王国について語り出した。


「更には、せっかく広げた領土の中でも東側は特に安定していない。内政も治安もだ。だから、東の大国であるインメンスタット帝国に付け入る隙を与えてしまっている」


「東側が安定していないから今の内に西側で独立してしまうということか?」


「その通りだ! 流石は深淵の森の王と呼ばれるだけはある! はっはっは!」


呼んでるのはザクソンだけじゃねぇか。


俺は伯爵の情報と計画を何となく頭の中で纏めたが、これはどう見てもあれじゃないか?


よく歴史で見る、亡国に至る前兆じゃないか。


今まで安定して領土を守ったまま動かなかった諸国。つまりは大きな力の差が無い複数国が牽制しあっていた状況だ。


そこを、レンブラント王国が無理矢理領土を広げた。しかも聞いている限りだと東の大国相手以外の国に対してもだ。


余程、前の王は戦上手な王だったんだろうが、その王が居なくなれば近隣の国は動く機会を得ることになる。


つまり、隣接する国々によるレンブラント王国の奪い合いだ。


東が動いたならば、何故西のガラン皇国が動かないと思うのか。


伯爵は俺の胸中など想像も出来ていない様子だ。


「そういうわけで、この独立は成ったも同然だ。だから貴君には私達の独立を手助けしてもらいたい。我々の独立が成れば、我々より更に西になる貴君の国は建国を認められやすいだろう。レンブラント王国は間違い無く認めるぞ!」


そう言って、伯爵は笑い声を上げた。


いやだから、そのレンブラント王国が滅ぶ可能性が高いだろう。


その時、伯爵が手勢と興した新興国なぞ、ガラン皇国からしたら最高のエサになる。


そうか。そういえば冒険者ギルドの資料室で調べたところ、ここ200年近く各国の領土は変わっていなかったのだ。前の王が精力的に領土を広げたのもここ20数年の話だ。


そして、つい最近前王が崩御した。


これはつまり、伯爵がこれまで安定した国内情勢しか経験していないことを意味する。戦争に出れば前王の采配で勝利ばかり経験し、領土は広がるばかり。


国内の貴族は皆大いにのぼせ上がったことだろう。


そして、前王が居なくなった途端、周囲から領土を取り返されそうになる新しい王。


不満が溜まるわけだ。現実が見えていないのだから。


伯爵は常勝無敗だった前王の時代に広がる領土を見て野心に火をつけたのだろう。


これは、俺にとっても最高の状況じゃないか。


楽に建国出来る最大の戦乱が巻き起こるのだから。


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