平和な朝(異世界4日目)
平和な朝を迎えた。
こんなにゆっくりした時間は久しぶりではないだろうか。
室内には自分1人。
1人の時間って大切なんだなぁ。
窓から見える景色もとても美しく見える。
淀んだ天気。青い部分が一切無い曇り空。
どんどんてんてんどんてんてん
国民的スーパーヒーローのテーマ曲が頭を楽しく巡る。
さあ、今日はどんな楽しい1日なのかな?
マジで部屋から出たくねぇ。
俺は部屋から出てすぐにエレノアに呼ばれて玉座に来た。
玉座の間に入ると、古参の部下達が雁首揃えて整列している姿があった。
嫌な予感しかしない。
俺は顔が引きつるのを抑えながら、玉座に向かい、静かに腰を下ろした。
すると、全員が一斉に片膝を地面につけて頭を下げた。
エレノアは全員が動きを止めたのを確認してから俺のすぐ前に立ち、俺に体の正面を向けてから片膝をついた。
本当に嫌な予感しかしない。
「ご主人様」
「な、なんでしょうか?」
エレノアに呼ばれた俺は思わず敬語で返事をした。
俺の返事を聞いたエレノアは頭を深く下げて口を開いた。
「ご主人様。私達は皆、ご主人様に絶対の忠誠を誓い、肉体も魂も全てを捧げる所存です」
エレノアはそこまで口にして、顔を上げた。
「皆、ご主人様を崇拝し愛しております。ご主人様、私達のことを信頼してくれますでしょうか?」
エレノアがそう言うと、背後に控える古参の部下達と一緒に俺を見た。
その真剣な表情に、俺は思わず唾を嚥下する。
「…勿論だ。俺にとって、お前達は最高の仲間だと思っている」
俺がそう言うと、玉座の間の張り詰めた空気が僅かに弛緩するのを感じた。
だが、エレノアは更に眉尻を上げて決死の表情を形作る。
え? まだ続くの?
俺は胃が痛む気配を感じながらエレノアの視線を正面から受け止めた。
「ご主人様、ありがとうございます。私達はこれからもご主人様の部下として粉骨砕身努力して参ります」
「ああ…宜しく頼む」
「ところで、ご主人様」
エレノアはそう口にすると貼り付けた無表情の仮面の下に憤怒を隠しながら、俺を見た。
鬼が出た。おらが村に鬼が出たぞ!
「ご主人様を…愚かにも罵倒した輩がいる、とか」
エレノアがそう呟くと、エレノアの背後の数ヶ所から歯軋りが響いた。
「…赦せません」
エレノアは底冷えするような声音で一言そう口にすると、立ち上がった。
「私達にとって、ご主人様は神と同義です。そのご主人様を貶めるような輩は生かしておけません」
エレノアがそう言うと、エレノアの背後に控えた皆が一斉に立ち上がった。
俺は、その光景に心臓が跳ねるのを感じた。
俺が震える指先を自らの足に押し付けて誤魔化していると、エレノアは不意に柔らかい笑顔を浮かべて俺の手元を見た。
「…しかし、ご主人様は私達が感情を制御出来ないかもしれないと不安になられています」
エレノアの微笑みには何か、安らぎを感じさせる魅力があった。
エレノアは、きちんと俺の意向を理解しているに違いない。俺がそう思っていると、エレノアはゆっくりと口を開いた。
「…ならば、愚かな輩に見せつけてやりましょう。ご主人様の力と叡智の結晶を。私達という戦力か、見たこともない魔術、マジックアイテム。このジーアイ城を。全てご主人様がお創りになられた誰にも真似できない素晴らしきものたちです」
「それを、お前達は話し合って決めたのか」
「…っ!」
俺が小さく呟いた一言に、エレノアははっきりと分かるくらいに身を緊張させた。
額から冷や汗のように汗が流れ、視線は俺の足元辺りを所在無さげに揺らしている。
見れば、エレノアの後ろで俺を見ていた部下達も頭を下げて固まっている。
…なるほど。俺が目立ち過ぎることで起きるかもしれない不測の事態に警戒心を持っていると理解しているが、自らの主人である俺が馬鹿にされるのは容認出来ないと。
それで結論が俺に聞いて許可を得てしまえ、ということか。
「お前達の総意か?」
俺がエレノアではなく、その背後に声を掛けると、列の真ん中近くに跪いていたサイノスとセディア、サニーが顔を上げた。
俺と目が合ったサイノスは、厳しい表情を浮かべて口を開く。
「拙者達は、昨日3人で話し合いました。拙者達の行動により、殿を不安にさせてしまったことを深く、深く後悔し、反省しております」
サイノスがそう言うと、セディアが引き継ぐように頷いて口を開く。
「大将が愚弄されれば、自分たちは頭が真っ白になるくらい腹が立つし、悲しい。けど、大将が望まない行動をするのが1番悪いってことに気が付いたんだ。だから、大将が思うことを、大将が見据える先を、自分達なりに考えて行動しようと思う…おもい、ます」
セディアが辿々しくそう口にすると、玉座の間に重苦しい雰囲気が流れた。
そんな中、サニーが片手を挙げて声を発した。
「マスターが良いと言えば私があの国を消し去る」
「サニー、内容がちがうよ!」
サニーが何故か胸を張って自分の願望が多分に盛り込まれた台詞を語った。
セディアが慌ててサニーを見て注意するが、サニーは一度も俺から目を離さなかった。
我慢は出来るが、したくない。
そう、サニーの目が言っている。
俺は深く長く溜め息を吐き、いまだに体を緊張させたエレノアを見た。
「…分かった。ならば、行動を起こすとしよう。今日は領主である伯爵が騎士を集めている頃だろう。ランブラスにある常駐騎士団から出すだろうから、もしかしたらグラード村に向かっている頃かもしれんな」
俺がエレノアにそう言うと、エレノアは顔を上げて俺を見た。
「で、では…」
エレノアの目には期待と不安の色があった。
俺はそれを見つめて、口の端を持ち上げた。
「伯爵共の度肝を抜いてやろうか。ジーアイ城にご招待だ」
俺がそう決定すると、玉座の間に歓声が響き渡った。
これで我々の存在はバレてしまう。
今までは此方から一方的なアプローチが可能だったが、この城や俺達の存在が公になると、相手がどんな行動を起こすか注意を払う必要がある。
ああ、グラード村に俺達と接触した者は多い。
利用出来ると判断されてしまえばグラード村を人質にとられて、交渉の材料にされる恐れもあるだろう。
全く、面倒なことになった。
嫌な予感がすると思ってたんだ。
でも、俺が作ったキャラクター達が生きている。怒って、悲しんで、悔しがって…そして今は輝くような笑顔で笑いあっている。
まあ面倒ごとくらい問題ない。
こいつらが喜ぶならやってやろうじゃないか。
皆から視線を外して横を見れば、エレノアが潤んだ瞳で俺に微笑みかけていた。
俺は苦笑混じりだが、エレノアに笑い返して頷いた。
こいつらが誇れるような、俺達の国を作ってやる。
建国だ。




