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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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領主、ビリアーズ辺境伯

「話くらい聞いてくれても良いじゃないか」


「交渉の仕方が大雑把過ぎる。まずは挨拶から入り、相手が話を聞く態勢になってから要件を言え」


「…レン君は年寄りに厳しいな」


バートは引き攣った顔で何とか笑みを作り、俺を見た。レン殿から、レン君になったのはせめてもの反撃か。


あのまま帰ろうとした俺達を廊下に出てきてまでバートが俺の名を呼ぶので、仕方なく俺達はギルド長の部屋の中にあるソファーに座っている。


バートは見た感じから元冒険者だろう。耳や額にも斬りつけられたような傷痕が小さく残っている。


故に、無礼な若者にも慣れている雰囲気だ。


「丁寧に話されれば相手は前向きに聞くし、高圧的だったり大雑把な話し方をされれば否定的な気持ちになったりもする。上に立つんなら人の気持ちの動かし方を考えろ」


「…こんのがきゃあ」


俺がかなり上から説教すると、バートが口の中で小さく呟いた。顔も大いに引き攣っている。


そういえば口調も昨日よりかなり緩くなった気がする。


ふむ、俺は本来はあまり人に強く言えない性格だったと思うが…例え王族相手でも何でも言えそうな気分だ。


この世界に来た時にゲームのキャラクターの姿になってしまったが、それが影響しているのだろうか?


俺が自身の変化になんとなく頭を巡らせていると、セディアが俺の背後で殺気を放ち出した。


すると、俺達の前に座るバートが息を呑む。


ベテランならではの危機察知能力かもしれない。


「止めろ、セディア」


俺がそう言うとセディアの放つ殺気が収まり、バートは長く息を吐いた。


「おっそろしい娘だな。俺はサイクロプスも討伐したことあるってのに…今が人生で一番死を覚悟したよ」


「ほう、それは中々凄い。サイクロプスを1人でか?」


「…いや、二つのパーティ合同でだが」


俺が感心して思わず話を掘り下げると、バートはバツが悪そうに眉間に皺を寄せた。


悪いことをしてしまったなと思う反面、中々良い情報を聞いたことを喜んだ。


ゲームの時はサイクロプスといえば中級クラスの良い獲物だった。初級クラスが集まったパーティなら確かに10人から20人くらい必要だろうか。


「…レン君は1人でサイクロプスを…いや、良い。聞きたくない」


思案する俺を見ながらバートが何か言いかけたが、途中で自ら言うのを止めた。


小刻みに頭を振って気持ちを切り替えるバートを眺め、俺は話をさっさと進めることにする。


その方がバートの精神衛生上良さそうだしな。


「それで、そろそろ要件を聞かせてくれ」


俺がそう言うとバートは難しい顔で唸った。


「…なるほど。立場をお互い理解してから交渉に入る。それが目的か。どうあっても俺が君に強気ではいけなくなったからな」


バートは勝手に、さも俺の思惑に気づいたという態度で語り出した。


いや、そんなこと考えてませんけど。


俺がバートに指摘するかどうするか考えていると、バートは咳払いを一つして自分の膝の上に手を置いた。


「ならば、こちらは敢えて単刀直入に言わせてもらう。先日、そこの会議室で貴族が1人居たのを覚えているな?」


「ああ、ボワレイ男爵だったか?」


俺がそう言うとバートは渋面を作り頷いた。どうやらバートにとっても面倒な話らしい。


「そのボワレイ男爵だが、彼は領主のビリアーズ伯爵の腰巾着でな」


「ビリアーズ伯爵? 辺境伯か?」


俺がバートの説明に割り込む形で声をあげた。辺境伯といえば、実際には公爵か大公相当に位置する特別な地位だ。


それを敢えて、伯爵と縮めて呼ぶのは不敬に値するだろう。


だが、バートは不思議そうに首を傾げた。


「ビリアーズ伯爵はガラン皇国に接する西の辺境を守護する辺境領の伯爵だ。間違いは何もないと思うが?」


「そうか。ビリアーズ伯爵と王族の血縁関係は?」


「ビリアーズ伯爵の姉が前国王様の側室だが…なんだ一体? なにが聞きたい?」


バートは俺の質問の意図を図りかねて不思議そうに聞き返してきた。


俺は生返事を返しながら、この国の貴族に関して思考しかけ、途中で諦めた。


後でミリアに聞くとしよう。


「いや、何でもない。それで、男爵がなんだって?」


「そこからか…ボワレイ男爵がビリアーズ伯爵にレン君のことを報告してな。たまたま今日この街に視察に来る筈だったビリアーズ伯爵が君を呼び出せと仰せだ」


「却下」


「ぅおい!」


俺が手身近に拒否を告げると、バートは立ち上がって声をあげた。


その瞬間、セディアが無言で手元に短剣を出したが、バートは気にせず両手を広げて叫ぶ。


「伯爵への御目通りだぞ! 普通なら子飼いの部下になれるように伯爵にアピールするもんだ。なにせ、将来が約束されるようなもんだからな」


バートは身振り手振りを交えながらそんなことを言った。


「安定した平和な毎日なんて冒険者じゃないだろう?」


俺が冒険者ギルドのギルド長であるバートに皮肉を込めてそう言うと、バートは一瞬動きを止めて目を丸くした。


そして、噴き出すように笑い出す。


「ぶはっ! はっははは! 確かに! 冒険もしない冒険者なんかいやしないな! ははははは!」


バートは余程面白かったのか、大笑いしてソファーに座り直した。


どうでもいいが唾が飛んだぞ、唾が。


「いやぁ、誤解していたようだ! レン殿は根っからの冒険者なんだな? よし、気に入ったぞ! 贔屓出来るだけ贔屓するからこの街に住め!」


「いや、贔屓するなよ。平等にやれ、平等に」


「ぶははは!」


バートは完全にご機嫌フィーバータイムに突入したらしく、なにを言っても笑い出して煩いことこの上ない。酔っ払った親戚のおじさんか、お前。


「それで、伯爵に会うってだけか?」


俺がそう言うと、バートは肩を揺すって笑いながら首を振った。


「いや、ビリアーズ伯爵に拝謁する時にボワレイ男爵も同席する。だから、横からボワレイ男爵が口出ししてくるだろうから、失礼な態度をとったらレン殿は仲間諸共打ち首かもしれんな。はっはっは」


「笑い事じゃねぇよ」


バートは何がツボに入ったのか、俺達の打ち首の部分から顔が既にニヤけていた。何という人でなしか。


「いや、普通なら面倒な事態なんだがな。ボワレイ男爵も貴族ではあるからな。しかしレン殿を見ていると打ち首という言葉がまるでピンとこん! ぶははは!」


「笑い出す意味が分からん」


俺がそう言うとバートはまた笑い出した。


こいつ、さては頭がボケてやがるな。


俺が本気でバートの痴呆を確信していると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。


「失礼します。ビリアーズ伯爵様がお着きになりました」


「おお、そうか」


ドアを開けて顔を出したケインズがそんなことを言い出し、バートは返事をして立ち上がる。


「…ハメたな?」


俺が低い声でバートにそう言うとバートは不敵に笑った。


バートは最初から伯爵が来るまでの時間稼ぎをする為に俺を呼んだのだ。普通に言えば逃げられる可能性を考慮して。


「なんのことかな? さて、行きますぞ、レン殿? 私に付いてきてくだされ」


「急によそ行きの態度出すな、気持ち悪い」


俺が不機嫌に文句を言うと、バートはまた大きな声で笑った。


完全にしてやられてしまった。


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