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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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クレイビス大忙し?

朝からクレイビスは次々と上がる報告に悲鳴を上げていた。


殆どがインメンスタット帝国との開戦についてである。


「陛下! 東部のドモコ子爵が開戦についての説明を求めておられます!」


「書状を用意させる。暫し待て」


「陛下! 東部のエイユ男爵が騎士団の再編に時が掛かるためまだ動けないと!」


「準備に時間が掛かっても良いから防衛の準備に全力を注げと伝えろ」


「陛下! 傭兵団の柔らかき銀の行軍の団長ソマサが謁見を求めています!」


「…くっ! 忙しいが、遣り手の傭兵団だ。相手をせねばなるまい…!」


「それでは謁見の準備を致します!」


まるで嵐のような報告に素早く返答するクレイビスは、謁見の間に向かう最中、辺りを見回して何かに気付いたように口を開いた。


「宰相はどうした?」


クレイビスがそう聞くと、斜め前を歩く近衛兵の一人が振り返って口を開いた。


「はっ! 宰相ユタ様は陛下が帝国への対応に集中出来るよう、その他の業務の采配を振るっておられます!」


「そうか。昨日の夜中に起こされてから一度も顔を見らんから気になってな」


兵の言葉にそう言って頷き、クレイビスが謁見の間に続く扉の前に立つと、二人の近衛兵が扉を開ける。


広い謁見の間には多くの人影があった。


大多数は革の服を着込んだ厳つい男ばかりだ。鎧を脱いではいるが、傭兵団の柔らかき銀の行軍の面々だろう。


その中の一人、スキンヘッドの背の低い男が唯一革の服の上に白いマントを羽織っていた。


「おお! クレイビス国王陛下!」


男はすぐにクレイビスに気がつくと、跪いてクレイビスの名を呼ぶ。


すると、柔らかき銀の行軍のメンバーは皆跪き、深く頭を下げた。


平伏する皆を見回し、クレイビスは白いマントの男の下へ向かった。


「よくぞ来られた、柔らかき銀の行軍傭兵団、ソマサ団長」


クレイビスがそう言って労うと、ソマサは貼り付けたような笑みを浮かべて顔を上げた。


「いやいや、噂では陛下がお困りと聞きまして…私程度では微力も微力ですが、お力をお貸し出来ないかと思いましてね?」


ソマサはそう口にして笑うと、跪いたままクレイビスを見上げた。


クレイビスは頷き、ソマサを見下ろした。


「ふむ、それは助かる。どうやら、ソマサ殿にも話は広まっているようだな」


クレイビスがそう呟くと、ソマサは苦笑しながら首を左右に振った。


「傭兵は戦争の匂いに敏感ですから。そして、優劣に対しても強い嗅覚を発揮します。今のレンブラント王国は大国の一つであるという肩書き以上の力があるはずです」


「つまり、勝ち戦になると踏んでこちらに売り込みに来たか」


「いえいえ、私どもでは無く、一般の傭兵団の話ですよ。私どもは最初から負け戦になろうともレンブラント王国の御力になりたいと思っておりますのでね」


「よく言う。だが、確かな実力のある傭兵団が敵にならなかったのは僥倖だ。柔らかき銀の行軍の皆の働き、期待しているぞ」


そう言って笑ったクレイビスに、ソマサは頷いてから口を開いた。


「そういえば、妙な噂をお聞きしましたが…」


ソマサはわざとらしく言いづらそうな顔を浮かべてそう漏らし、クレイビスは眉根を寄せてソマサの顔を見た。


「何だ?」


クレイビスがそう尋ねると、ソマサは短く息を吐き、僅かに顔を顰める。


「…帝国内で、神の使徒なる者達が現れたとか」


「神の使徒? 神の代行者が現れたと言いたいのか?」


クレイビスが渋面を作ってそう聞くと、ソマサは難しい顔で首を傾げた。


「いえ、どうやら、神の使徒は神の従者、弟子という意味であって代行者様とは別のようです。ただ、神の使徒を名乗る者達は複数おり、皆が今世に現れた神の代行者様は偽物であると申しているようです」


「何? それはエインヘリアル国王のレン陛下のことを偽物呼ばわりしているということか? 誰だ、その馬鹿者共は」


ソマサの情報にクレイビスが怒りを抑えながらそう口にすると、ソマサは恐縮したように身を縮めて口を開いた。


「メルカルト教の高級神官となっている聖人、聖女合わせて十二人の男女達です。帝国にしては珍しく、種族も年齢もバラバラの者達が同じ組織の要職に就いています」


「…そいつらは、もしかして帝国軍の一部を動かしている聖人軍などという奴らか? 中々辛辣な書状を寄越してきたが」


クレイビスが嫌そうにそう尋ねると、ソマサは困ったように眉をハの字にして頷く。


「恐らく…実は近隣諸国だけでなく、主だった傭兵団や冒険者にも書状は送られているようです。


「書状にはレンブラント王国を陥れる誹謗中傷の類と、レンブラント王国のこれまでの蛮行、そして神の代行者を騙るエインヘリアル国王といった内容でした」


「何? 傭兵団に手を貸せという催促の書状ではないのか?」


書状の内容が意外だったのか、クレイビスは目を丸くして聞き返す。


それにソマサは曖昧な笑みを浮かべて肩を竦めた。


「それが、傭兵団を歯牙にも掛けていないような文を送られまして…簡単に言うと、レンブラント王国の侵略に対抗する為に神が使者を遣わし、王国を滅亡に追い込む軍を派遣したという内容でしたね。なので、傭兵団は王国の味方にはならない方が良いという…」


「我が軍に傭兵団が加わった大陣営が相手でも、帝国は苦もなく我らを蹴散らすと言いたいわけか? やり過ぎだな」


ソマサの言葉にクレイビスがそう言って唸ると、ソマサは重苦しく頷いた。


「そうでしょう。この書状は確かに帝国の自信は滲んでおりますがね、我々のような多少の修羅場を潜り抜けてきた傭兵団には失礼な話です。私も自尊心をいたく傷付けられましたな」


そう言って困ったようにソマサは笑ったが、その目は全く笑っていなかった。


クレイビスが溜め息を吐いて口を開こうとした。


だが、その時謁見の間の入り口の方から兵が一人早足でクレイビスの下へ歩いてきた。


「陛下、エインヘリアル国国王様がお見えです」


「何? レン様が?」


慌てた様子の兵士の報告を受けて、クレイビスは驚きの声を上げて顔を上げた。


「すぐにお通ししろ」


クレイビスがそう告げると、兵士は一礼し、また慌ただしく謁見の間の入り口の方へ向かって行った。


「…エインヘリアル国王…噂の神の代行者様ですな…」


ソマサの小さな呟きに、クレイビスは浅く頷いて謁見の間の入り口に目を向けた。


「見ておけ、ソマサ殿。本物の神の代行者様を」


クレイビスの台詞にソマサは怪訝な顔を浮かべたが、何も言わずにクレイビスに言われた通り、謁見の間の入り口に顔を向けた。


謁見の間の扉が開かれると、正に威風堂々とした様子の四人の人物の姿があった。


「国際同盟最初の仕事になりそうだな、クレイビス王。手を貸すぞ」


真ん中に立つ青年がそう言って笑い、クレイビスに近付いて来るのを見て、ソマサは呆気にとられたまま固まった。


「レン国王陛下。御助力感謝致します」


クレイビスがそう言って頭を下げる姿に、ソマサを含む傭兵団の面々は目を剥いたが、レンと呼ばれた青年はあくまで自然体で歩み、クレイビスの前で立ち止まって口を開いた。


「おう、任せておけ」


そう言って、レンは笑った。



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