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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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二日目の夜はパーティナイト

ジーアイ城内の大食堂にて、俺はグラスを掲げる。


「皆、お疲れ様。外に出れない者が多い為、せめてこの世界の食べ物だけでも食べて見て欲しい。買ってきた食材は限りがあるが、周辺で取れた動物や果物も増えてきたので合わせて楽しんでくれ。それでは、乾杯!」


俺がそう言って手に持つグラスを少し上に持ち上げた。グラスの中には少し黄色くなった液体が揺れている。ランブラスで樽ごと買ってきた酒だ。味はウィスキーに近い。


皆の視線を一身に受け、俺はグラスに口をつけた。すると、皆も次々に酒を口に運ぶ。


「本日もお疲れ様でした、ご主人様」


グラスから口を離すタイミングでエレノアが俺に慰労の言葉を口にした。


「ああ、エレノアもな。今日の報告会議は問題なかったか?」


「はい、滞りなく。後で報告書を持って参ります」


エレノアには俺が留守の間の拠点管理を頼んでおいたのだが、かなり優秀だった。


拠点周辺を探索している隊には昼に一度戻るように指示し、1日を半分に分けて報告を集めて情報を整理しているようだ。


拠点内を見回る隊には8時間の交代制を導入し、維持管理と点検、安全管理に一回で七つの隊が城の内部を見回り、一つの隊が見張り台と城壁から周囲警戒をしている。


残りの6隊は何かあった際の遊撃要員であり、手が足りない時は他の隊の手伝いなどもしているらしい。


俺は教えていないのに、現代社会の24時間稼働の工場のようなシステムだ。


ただ、惜しむらくは自然体で社畜精神が染み付いているのか、休日が来ない勤務体制を整えてしまっている。


1週間に一度か二度くらいは周辺の探索を中止して交代で休日をつくるか。


と、まるで起業したばかりの会社の社長みたいな悩みを抱えていると、カルタスとローザが俺の方へ歩いてきた。


「ボス! 次はアタシもお供させてくれよ!」


「もちろん、ワシも行きますぞ!」


2人がそう言うと近くで飲み食いしてる奴までピタリと動きを止めた。


「今回、サイノス、セディア、サニーは俺と冒険者登録してしまったからな。既に実力があると思われてる期待の新人が居なくなると絶対に探りをいれられるだろう」


「6人で旅をしてるってことにしたらどうだい?」


俺が暗にメンバーチェンジはしないことを告げると、ローザがメンバーを増員する方向で話を進めてきた。


だが、暫くは手の内を見せずに情報を集めたい。俺はそう思ってローザに対して首を横に振る。


「まずは今日のメンバーでランブラスともう一つの街、セレンニアで活動する。今のところ獣人族とドワーフは見てないし、エルフも1人しか見ていない。つまり、俺達はもう十分に様々な人に記憶されてしまっている」


「そ、それじゃあ、殿。これからも冒険者としての活動はあの3人だけということであろうか?」


俺の説明にカルタスが泣きそうな顔でそう言った。ヒゲ面の魔族が目に涙を溜める姿は破壊力が抜群だ。暑苦しい。


「とりあえず、この近辺ではこれでいく。だが、別の国に行った時は間者としても送り込めるように別のメンバーを考えよう」


俺がそう答えると、カルタスとローザ以外の者達まで騒ぎ出した。


まだかなり先の話になると思うが、もう決まったことのように喜んでいる。


ちなみに、サイノスとセディア、サニーは同じ席に座った奴らに自慢気に今日のオーク討伐を語っている。


俺はその様子を眺めて、この地のモンスターについて考えを巡らせた。


オークの亜種にしては少し弱かった気がするが、今回用いた武器が規格外過ぎるので細かいパラメータは判断が付かない。


だが、サニーの魔術による一撃は参考に出来るだろう。


流石にオークといえど亜種ならば、ライトニングアローの一発で絶命するほど弱くは無い。


このジーアイ城の周辺ではゲーム中序盤から中盤のボスだったトロールやスフィンクスが出たという報告がある。


もちろん、2人いればゲーム中のソロ・1パーティー向け最強ボスであるブラックドラゴンを狩れるメンバーが10人一塊で探索しているのだ。


その一隊が撤退を余儀なくされた場合は、最低でもこの辺境伯領は壊滅する規模の災害だろう。


もしかしたら、俺達を凌駕するこの世界の実力者もいるかもしれないが、今のところはそのような情報は無い。


この世界のオークが極端に弱いということも無さそうだから、最低でも我がギルドのギルドメンバー全員がAランクの冒険者以上の戦闘能力を保持していることになる。


後はどんな国があり、どんなモンスターがおり、どんなマジックアイテムがあるのか。


それさえ調べられたら自分達の安全くらいは確保出来るだろう。


「ご主人様」


「ん?」


無意識に考え耽っていた俺をエレノアは優しい声で呼び、俺は顔をあげた。


エレノアを見るとその背後にはラストの方で作ったギルドメンバーであるメイド部隊が立っていた。更に一歩分だけでも後方にはメイド長が静かに控えている。


皆がお揃いのメイド服で揃えるメイド部隊は、背丈は大体145から155くらいまでの細身に揃え、髪はショートからセミロングまでの長さにしてある。


髪の色と顔つきは全員はっきりと違うが、遠目からの雰囲気は似たようにして統一感を出した部隊だ。


ただ、メイド長だけは別である。メイド長は初期の方に作ったキャラクターであり、育成も終わっている。


外見も、メイド部隊は全てヒューマンだが、メイド長だけはハイヒューマンであり、身長175センチの長身だ。そして長い銀色の髪を結ってある。


蛇足を加えると、メイド達は職業的には暗殺者である。


嫌われたら俺も毒を盛られるかもしれない。


「どうした? プラウディア達まで一緒で」


俺がそう尋ねると、メイド長のプラウディアは蔑むような瞳で俺を見下ろした。


自分が座っていてプラウディアが立っているという位置関係なのも影響があるとは思うが、長身の美女から冷たい目で見つめられると色んな意味で心臓に悪いな。


「ご主人様、お話は聞かせていただきました」


「お話?」


プラウディアは美しいが低い声音で、妙な切り出し方で話し始めた。


どうしてだろう。こんな言い回しをされると良い話を聞ける気が全くしない。


俺が聞き返すとプラウディアは眉間に皺を寄せて、とても嫌そうな顔をした。どこかで見た腹立たしい表情だ。


「エレノア様と熱いヴェーゼを交わしたばかりか掻き抱くように抱擁し狂おしいまでにその身を…」


「お黙りなさい!?」


急に始まった頭の悪い官能小説の朗読のような台詞に、俺は思わずニューハーフ的な返しをしてしまった。


プラウディアは俺の羞恥に気付いてくれたのか、静かに頭を下げた。


すると、プラウディアの前に並んでいたメイド隊が左右に退いた。


メイド隊の間に出来た道を歩いて、プラウディアは無表情に近づいてきた。


「申し訳ございません、ご主人様。それでは、詳細はこちらの報告書に記載しておりますのでご確認ください」


そう言って、プラウディアは週間雑誌みたいな紙の束を手渡してきた。


渡された紙の表紙には


我が主、愛の営み

第1章【純潔、散る】


「そこになおれぃっ!」


俺はあまりのタイトルに分厚い紙の束を両手で引き破った。怒りのあまり何故か戦国武将のような怒声をあげてしまった。


視界に映る何人かは無関係なのに思わず背筋を伸ばす中、プラウディアは逆に胸を反らして俺を見下ろした。


一方、エレノアは必死な顔で俺が破いた紙の束を集めている。


「ご主人様が順番を間違えておいでなので僭越ながら私達が遅まきながら正道へ御戻しに参りました」


「…正道? 正しい道か? 道を踏み外したのは俺じゃなくエレノアだ。加害者と被害者を間違えるな」


俺が立腹してそう言うと、プラウディアはあろうことか小さく舌打ちをして俺を見た。


「だからご主人様は所詮ご主人様なのです」


「敬称を織り交ぜて馬鹿にしやがった」


プラウディアの言い回しに俺はむしろ素直に驚いた。誰がこいつを作ったんだ、アンポンタンめ。


俺がそんな事を思っていると、プラウディアは一歩前に出て深みのある笑みを浮かべた。奈落のようだ。


「主君たるご主人様の最も大切なお仕事はお世継ぎを御授かりになることですが、まずはメイドで大いに練習をしなくてはなりません」


「…は?」


「楽士の皆様。宴を盛り上げてください。我々は少々席を外します」


「任せたまえ。楽士隊10人が揃えば天上にも届く音の調べを響かせよう」


「それは素晴らしい。ご主人様の耳にも届くのですね。それでは、また」


「うぉ⁉︎ 待て、お前達! ちょ、やめて! ほんとに!」


俺はまた三つか四つ、大人の階段を登った。


無理矢理だった。



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