夜、ジーアイ城に来た王女と従者
夜になり、夕食前にはジーアイ城に帰れた俺達を、魔族の執事ディオンとメイド長プラウディア、そしてメイド部隊10人が出迎えた。
「お帰りなさいませ。マイ ロード」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ああ、ただいま」
ディオンとプラウディアの出迎えに俺は思わず身構えて挨拶を返したが、いつもの毒舌が一向にやってこなかった。
どうしたことかと二人を見ると、揃って面白くなさそうな顔で城に驚いているリアーナとキーラを見ていた。
「…今日はお客様がご一緒でしたか」
「…お客様がいらっしゃるなら楽士隊に連絡をしないといけませんね」
心底嫌そうな顔でディオンとプラウディアがそう口にすると、10人のメイド部隊がこちらに一礼してから城の中へ戻っていった。
なるほど。客人の前だから主人の俺に毒舌を吐けなかったのか。
これは良い方法を知ったぞ。
俺が内心ほくそ笑んでいると、城に驚き疲れたリアーナとキーラがこちらへ来た。
「こんなに素晴らしいお城は初めてです。私達が中へ入っても良いのでしょうか」
リアーナはそう言って俺を上目遣いに見た。
ああ、竜騎士の城だから英雄じゃないと入れないということか。
「大丈夫だ。ビリアーズ大臣も来たことがある。気にせずにゆっくりしていけ」
「は、はい!」
俺が気楽に考えられるように肯定すると、リアーナは輝くような笑顔で返事をした。
リアーナの後ろではキーラも嬉しそうに喜ぶリアーナの後ろ姿を見ている。
「それではどうぞ、お客様」
「こちらです」
俺たちのやり取りを見ていたディオンとプラウディアは、そう言ってリアーナとキーラの前を先行して歩き出した。
二人は仕草や作法だけは完璧である。
顔はとても不服そうだが。
リアーナとキーラの二人は城内に入ってからも驚き続けていた。
食堂に入ってもそれは同じである。
食堂の広さと豪華さ、更に楽士のネスト率いる楽士隊のクラシック音楽に二人は驚いた。
そして、食堂で待っていたエレノアと対面した。
「ようこそ、お客様。レン国王陛下の部下の一人、エレノアと申します」
エレノアが優雅な仕草で名乗り、お辞儀をすると、リアーナは慌ててお辞儀を返した。
「失礼致します。私はレンブラント王国第5王女のリアーナと申します。こちらは従者のキーラです」
「キーラと申します」
と、リアーナに紹介されたキーラも恭しく頭を下げた。
俺は3人の挨拶を眺めて、何となくエレノアの挨拶に違和感を覚えた。
随分と丁寧である。今迄も客人には挨拶をしてきたが、リアーナ達にはこれまで以上に丁寧な挨拶をしているようだ。
俺はそんなことを思いながら、手前のテーブル席を選んで腰掛けた。
俺が座るのを見て、エレノアが二人を席に誘導する。
そして、俺の隣にリアーナを座らせると、エレノアは俺の正面に座った。
いつもなら隣に座る筈だ。
俺がエレノアをマジマジと見ていると、隣に座ったリアーナが俺とエレノアを交互に見つつ口を開いた。
「本当に素晴らしいお城ですね。それに、これほど情感に溢れた音楽を聴いたのは初めてです。この曲は何という曲でしょうか」
リアーナはそう言って俺を見ながら小首を傾げた。
「確か、モーツァルトだったか。分かるか、エレノア」
俺が話を振ると、エレノアは浅く顎を引くように頷いて微笑んだ。
「ええ、流石はご主人様ですね。ピアノソナタの16番かと思います。他の楽士が楽器を変更するのをネストがピアノ演奏で繋いでいるようですね」
エレノアの台詞に奥でピアノを弾くネストを見た。金髪の髪を後ろに撫で付けたタキシード姿のネストはピアノが良く似合っている。
だが、別に間で手を休めて無音の空間にしても文句は言わないのだが。
俺は苦笑しながら他の楽士隊がバイオリン、トランペット、ウッドベースなどを用意しているのを見て、口を開いた。
「ネスト。即興でジャズでも頼む」
俺がそう言うと、近くにいた楽士から声を掛けられたネストが頷いた。
「任せてください、マエストロ。今日の為だけの曲をお聴かせしましょう」
ネストはそう言うと楽しそうに笑ってまたピアノを弾き出した。
流れるような、それでいて先の読めない変則的なピアノの旋律に、ウッドベースがリズムをとりながら合わせていく。
段々と音の種類と数が増えていく様子に、リアーナは感激したように夢中で聴いていた。
「なんて、なんて凄い…感動的な演奏でしょう! こんな独創的な音楽があったなんて…」
リアーナが感嘆する中、キーラは目を細めて俺を見た。
「素晴らしい演奏です。私個人としましては先程の見事に調和のとれた音楽が好みでしたが、この演奏には驚嘆致しました」
そう言ってキーラは演奏している楽士隊に目を向ける。
そして、食事が運ばれてきてまたリアーナとキーラが感嘆の声を上げた。
ちなみに、今回の食事はまさかの中華風だった。商人が沢山来るようになったから調味料のレパートリーが増えたのだろうか。
皆は喜んでいたが、俺が気になっている米はまだ出てこなかった。
そして、風呂の時間である。
俺はエレノアに勧められるままに露天風呂に入って疲れを癒していると、脱衣所の向こうからエレノアの声が聞こえてきた。
「さあ、こちらですよ。大丈夫ですか?」
ヘイ、待つんだ、エレノア。
何となく嫌な予感はしたけどエレノア。
少し待ってくれれば俺はもう出るからエレノア。
待て、開けるなエレノア。
「ご主人様、リアーナ王女様とキーラ様が来られました」
「…うむ」
いや、何故か変な返事をしちゃったじゃないか。
来られましたじゃないよ、来られましたじゃ。
ってか、エレノアさんも薄いタオル一枚巻いて出てこないでください。凄く煽情的で困ります。
「あ、お、お邪魔します」
「失礼致します」
混乱の真っ只中にいる俺を畳み掛けるように、タオルを巻いたリアーナとキーラが姿を見せて挨拶をしてきた。
「うむ、苦しゅうない」
誰だ、俺は。
パニックで変な返事をしてしまった。
エレノアの白い肌に艶やかな金髪とタオルを押し上げる武器も恐ろしいが、キーラの今まで隠れていた武器も危険極まりない。
あ、リアーナは見た目通り細くて小さいので何とか許容範囲でした。
可憐で可愛いが、あちらの二人のプロポーションに比べれば色んな意味で可愛いものだ。
しかし、月明かりに照らされる露天風呂でタオルを巻いただけの3人の美女か…。
俺、暫く湯船から出られそうにないな。
「凄い大きさですね!」
「えっ!?」
「こんな広くて景色の良い浴場を初めて見ました!」
「うむ、自慢の露天風呂だからな」
ああ、驚いた。
夜中には
書くべきでない
こんなシーン
乳酸菌




