16.実技試験の結果
教えられた部屋に行くと、そこには実技試験を終えた受験者たちが揃っていた。きょろきょろと辺りを見渡していると――。
「ユフィちゃん、お疲れー!」
ミレイ様が駆け寄ってきているのが見えた。ミレイ様は私の手を取ると、目を輝かせる。
「ね、ね、どうだった!? 上手にいった!?」
とても期待している様子だ。だけど、試験の結果は伝えてはいけない。そういう決まりがあるから、私は困った顔を浮かべる。
「えっと、もう少し上手に出来たんじゃないかなって反省しているところです」
「ユフィちゃんが反省!? 緊張して失敗しちゃった? ユフィちゃん、よしよしー!」
ミレイ様が驚いた後、悲しい顔をして私の頭を撫でてくれる。なんだかその優しさが気恥しくて、思わず俯いてしまう。
すると、そこへロゼリア様とアルベルト様が近づいてきた。
「……そう、思ったような実力を出せなかったのね。ユフィがどれだけ魔法を使えるのかは分からないけれど、後悔が残ると辛いわよね」
「思ったような力が出せないのは、迷いがあるからだ。それを事前に振り払えなかったのが原因じゃないか?」
「もう! アルベルト君は厳しすぎ! こういう時は優しい言葉をかけてあげるべきだよ!」
「僕は事実を言ったまでだよ。ちゃんと自己管理が出来ていない証拠だ。普段から気が緩んでいたせいだろう」
さらっというアルベルト様にミレイ様は怒ったように頬を膨らませた。二人とも言葉は違うけれど、私のことを思って言ってくれている。それだけで、嬉しかった。
「ありがとうございます。こういう事は初めてでしたので、とてもいい経験になりました。次があったら、もう少し自分を管理できるようになれるように頑張ります」
「……全く。それだと、後悔しか残らない。今やらなくてはいけないんだ。そうじゃないと、後悔する日々になる。そんな日々を送りたいのか?」
無難に話すと、アルベルト様が少し厳しい言葉をかけてきた。だけど、それは図星だった。
きっと、私の気持ちがあやふやだったから、納得のいく力を出せなかったのだろう。もう少し私が真剣に向き合っていたら、結果は違っていたかもしれない。
「そう、厳しい言葉をかけないであげて。ユフィだって分かっているはずだから。今は、結果を待ちましょう」
ロゼリア様の優しい言葉にアルベルト様は小さな声で「すまなかった……」と謝ってくれた。私は首を横に振り、笑顔で答えた。
それから四人で結果が出るまで雑談をしていたのだが、気になって横目でレイチェル様を見ていた。
また魔法を使って周りの音を遮断している。その中のレイチェル様は本を読んでいて、他に見向きもしない。
レイチェル様はどうだったのだろうか? 上手く試験が終わったのだろうか? どんな風に魔法を使ったのだろうか?
考えれば考えるほど、気になってしまう。レイチェル様は知識は豊富だし、魔法だって凄く上手なはずだ。私の知らないことを、たくさん知っているに違いない。
もし、レイチェル様が合格して、私が合格していたら――学園で会える。
そう思うと、なんだか胸が弾んだ。分からないことがあったら教えてもらえるかもしれないし、魔法についてお話をすることもできるかもしれない。
それに、王立グランセリア魔法学園には、他にもたくさんの魔法使いがいる。そこでどんな魔法を学べるのだろう。どんな人と出会えるのだろう。考えているうちに、自然と頬が緩んでしまう。
ここにいるみんなと一緒に学園へ行けたら、きっと楽しいだろうな。そんなことを考えながら、私は結果が出るのを静かに待っていた。
◇
部屋の中には、落ち着かない空気が漂っていた。
誰もが結果を待ちながら、何度も時計を確認したり、隣の受験者と小声で話したりしている。けれど、先ほどまで聞こえていた話し声も、扉の向こうから足音が近づいてくると、次第に小さくなっていった。
そして――扉が開かれた。全員の視線が、一斉にそちらへ向く。
数人の試験監督が入ってくる。その手には、大きな紙が握られていた。
誰も声を出さない。ただ、試験監督の一挙一動を見つめている。
「待たせたな。今から、結果を発表する」
その言葉が響いた瞬間、部屋の空気が張り詰めた。試験監督が掲示板へ歩いていき、大きな紙をゆっくりと貼り付ける。
合格者の名前が書かれた、結果発表の紙。貼り終わるよりも早く、受験者たちが一斉に駆け出した。
「どいて!」
「見えない! 前を空けてくれ!」
「私の名前は……!」
さっきまで静まり返っていた部屋が、一瞬にして人の波に飲み込まれる。合格しているのか、それとも――。
誰もが祈るような気持ちで、掲示板へと目を向けていた。すると、声が上がる。
「あ、あった! 僕の名前だ!」
「えっ、なんで……ない……」
「嘘、そんな……」
歓喜の声と落胆する声が聞こえる。飛び上がって喜ぶ者もいれば、俯いてその場に座り込む者もいる。
その様子を見ていると、不安になる。もし、自分の名前がなかったら……。早く見なければという気持ちと、まだ見たくないという気持ちがせめぎ合う。
だけど、その時。スッとレイチェル様が前に出た。顔が上に向くと、その目が見開かれた。まるで、信じられないものをみたように。
「そ、そんな……なんで……」
そして、その顔が絶望に染まる。予期していないことが現実に起こったような、そんな感じだ。
一体、何があったのだろう? 私が恐る恐るレイチェル様の視線の先を追った。そこは、紙の一番上に向いていた。
そこを見ると――一位、ユフィ、百五十点。と、書かれていた。




