第1話 事務所と揉めたV、生まれ変わって転生……異世界へ
「みんな~。今まで本当にありがと~」
リスナーに最後の言葉を送って、私は配信を切った。
このアバターとも、これでお別れだ。
私は今日、この事務所を引退をする。
「人気V 先日電撃引退」と、ネットニュースにもなっていた。
それを、引退したV本人である私はスマホで読んでいる。
登録者数も、考えられないほど増えた。少数のアンチはいたけど、ファンはそれ以上にいる。「やめないで」って声も、ファンのみならず、同じ事務所のメンバーからも言われた。
ただ、やりたいことを全部やれたわけじゃない。
事務所が大きすぎて、できなかったこともたくさんある。
案件に縛られて、自分の配信をおろそかにしてしまったり。とんでもないアンチが沸いたりもした。
その度に、みんなが助けてくれたっけ。事務所の方たちも、Vチューバーの仲間も。
だが、もう限界だった。
わたしの夢は、アイドルになること。
しかし、スケジュールは案件で溢れて、とてもライブをする時間が取れなかった。
ライブはお金もかかる。リスナーとの時間調整も大切だ。
私のわがままで、人を振り回すのは辛い。
人に頼るのも、仲間に迷惑をかけるのも。
そうこうしているうちに、事務所の方針が変わってしまった。
案件は更に増えて、コンプライアンスも大変になっていく。
人が多くなってしまったのだから、仕方がない。
だが、今のやり方に私はついていけなくなってしまった。
何度、事務所と口論になったかも数しれない。
そういった申し訳なさも、事務所をやめるきっかけになっていった。
「なにより、もう血を見るのはイヤーッ!」
私は、ホラゲーがなにより苦手なのだ。
運営もファンも、私にホラゲー実況を迫る。
視聴者が喜んでくれるのは、構わない。
それでも精神的に、やばくなってきた。疲労が、蓄積していたのだろう。
気がつけば、事務所に退社を告げていた。
「自分はもっと、やりたいことをやりたい」
これからは、個人勢として生きるのだ。
全部、自己責任。事務所に迷惑は、これ以上かけられない。
「完成した。ずっと温め続けていた、私のキャラ!」
病室のベッドで、私は自分のノートを眺める。
そこには、アバターの設定がびっしりと書き込んであった。
転生予定の新アバターの名前は、「厨二病V レオ・シズマ」という。
いわゆる「静まれオレの左腕ぇ!」ってやつ。
オレ女って、一度やってみたかったんだよね。
前に少年声をやって、ウケたってのもある。私のリスナーは男性ばかりなのに、どうしてみんなショタボイスが好きなのかな? 疑問に思うよ。
武器は木刀! 修学旅行で買ってきたやつ。柄にはライオンのキーホルダーが紐づけられている。ドラゴン剣のキーホルダーならぬ、ライオンの剣を加えているのだ。
服装は学ラン! 中二病はブレザーというよりセーラー服か学ランってイメージ。改造制服じゃなくて、あえてちゃんと着こなすところがポイントだったり? でも服がはだけていたり、袖がギザギザに擦り切れている。一応、不良アピールなわけ。
学生服の下は、赤いTシャツ。胸も巨乳でパッツンパッツン。
「いい感じじゃん。これを送信して、と」
今回は、アバターも自分で考えたもんね。
前世のママは清楚系がお好きなので、キワモノは無理そう。なので今回は、新アバター作りを断らせてもらった。ごめんなさい……。
あとは、動かせるように出来上がるのを待つばかり。
感謝しています、パパさん! 前世からの、お付き合いですもんね!
「さて、寝る前にコンビニで夜食買ってこよっと。なにを食べようかな。たしか先日から、カップ麺の新作が出て――」
そして、私は帰らぬ人となった。
家から出た途端、全身が跳ね上がったのである。
トラックのライトは、見えていたのに……。
なんか変な夢を見て、女の人が私にフニャフニャ語りかけているなあ。
夢かな?
けど、なんか死んでいくみたいに眠かったので、スルーした。
適当にフンフンと相槌を打って、あしらう。
気がつくと、私は見知らぬ草原に突っ立っていた。
「はっ。ここはどこだ?」
あれ? 服がトレーナーじゃない! 学ランだ!
半身を起こすと、胸がドルンッ! と、跳ねた。
どうしちゃったの、私の絶壁は? 寝具も、お気に入りのジェマルド・ピカ特製のトレーナーだったのに!
姿見がないかな? 自分の状態を、確認したいよ。
「こんなところに、都合よく池が!」
池の水で、私は自分の姿を確認する。
「おお、これは!?」
どこをどうみても、私は学ランになっている。
「しかも髪がある! ばっちり黒髪!」
ショートヘアで、顔もぜんぜん違う。
体型も、貧相な胸は豊満となっている。サラシをしていても、ピッチピチに膨らんでいた。その上に、真っ赤なTシャツを着ている。
手には木刀! キーホルダーも紐でくくりつけられている。
二〇代後半だった年齢も、一〇代後半くらいに若返っていた。
これは完全に、「私の考えた設定」どおりだ。
「レオ・シズマだ、これっ!」
私、自分が作り上げたVチューバーに転生してんじゃん!?




