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矢線に射て〜信じる想い〜  作者: 河島もも


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第一話 凪原高校弓道部

第一話 凪原高校弓道部

 冬が過ぎ、友とはなれ、三年間過ごした学び舎を巣立ち、春が来て、桜が咲き、新たな学び舎に来る。

 今日は、春風が僕の髪を撫でるように吹く日だ。そんな僕の肩には、中学一年生の時に購入した矢筒をかけている。六本の矢と巻藁矢の全七本が、僕が歩くのに合わせて、音を立てる。

 校舎の玄関から続いているレンガ道を歩く。新しい制服と靴は、まだ少し体になじまず、歩きにくさがある。中学の時とほとんど変わらない制服のはずなのに、どうしてこうも違うのだろうと不思議ですらあった。

 高校に入学して、新しい生活がはじまり、ここでもう一度弓を引こうと、弓道部の道場に向かっていた。強豪校でもないし、何か実績があるのかも知らない。弓道のためにこの高校に来たわけでもない。だた、弓が引きたかっただけだ。

 「あれ?。矢筒ってことは、君も弓道部?」

 道場の入り口に、僕と同じく矢筒を肩にかけている男子生徒が一人立っていて、僕に話しかけてきた。僕よりも背が低く百六十五センチ前後であろう彼は、明るく元気そうな人だ。

 「あ、うん」

 「そうなんだ!。僕は、 『今福 日太』 、一年五組!。よろしく!」

 「僕は、 『相原 由来』 、一年三組。よろしく」

 彼は、僕の思った通りの明るい性格のようだ。彼の髪は、僕よりも長めの校則ギリギリぐらいだ。だが、凄くきれいな髪をしている。

 春とは言っても、まだ冷たい風が吹くときもある。僕たちは、お互いの出身中学や、中学での成績なんかのたわいもない話をしていた。だが、五分、十分と経っても、弓道部の人が来ることはなく、道場の前で立つことしかできていない。野球部やサッカー部などの

声が、数百メートル程離れたグラウンドから聞こえてくる。

 僕は、指先が冷えてきたように感じた。話続けている彼には申し訳ないが、話が半分ほどしか頭に入ってこない。

 「そういえば由来は、なんで『凪原高校』に来たの?。僕は、家から近かったってのが大きいんだけど」

 いきなりの呼び捨てだったが、特に驚きもしなかった。こういうタイプの人では、珍しくない話だ。中学にも、やけに馴れ馴れしい人がいた。ただ彼は、中学にいた奴よりも、性格がよさそうだ。

 彼の問は、進路選択において担任や親に訊かれ続けたことだったが、そのときから僕の出す答えが変わることはなかった。

 「特にこれといった理由はないかな。強いていうなら、お父さんがここの出身っていうのを聞いたっていうのがあるのかも…」

 彼は、僕の薄っぺらい回答を聞いても、笑ってくれていた。そして、 「そっか!。お父さんも弓道をしていたの?」といったように、次々に話を広げてくれるので、僕としては楽なタイプの人でよかったと思っていた。

 彼の話し方は、良くも悪くも相手の話をそこまで気にして聞いていないような気がした。相手との話すことを重視しているのか、内容の深堀をするわけでもなく、様々な話をするのだ。それが故に、相槌や反応が軽くも感じる。僕としたら、特に気にもならないので、嫌ではなかった。なんなら、僕にあまり興味を示してほしくなかった。そう思ってるのが僕の悪いところなのだろうから、彼の方がまだましだ。

 「聞いたことがないな。でも僕の部活に何も口を出さないから。多分やってなかったんだと思う」

 多分僕のお父さんは、自分の子供の習い事に興味がないのだろう。昔から水泳なんかも習っていたが、出した結果をほめてくれるだけで、そのもの自体に興味を持ったり、知ろうとすることがなかった。弓道もそうなのだろう、ルールも点数制と思っていてもおかし

くない。逆に言えば、僕の性格は、お父さん譲りなのかもしれないと思った。

 今の僕の顔は、彼から見てどう感じるものなのだろうか。楽しそうだろうか、悲しそうだろうか、つまらなそうだろうか、正直何も感じていないが、強いて言うなら早く道場に入りたかった。

 春の風に飛ばされて舞う桜の花びらが、一瞬起きた突風で僕たちの方に飛んでくる。黒色の学ランに、薄いピンク色の花びらが引っ付き、気のせいかもしれないがほのかに桜の香りを鼻に届けてくれた。

 「あ!!!」

 僕たちが歩いてきた校舎の方にふと目を向けると、僕たちの方に走ってくる女子生徒がいた。近づいてくるその女子生徒の肩をよく見ると、赤色で校章が刺繡されている。一年生である僕たちの刺繡は青色なので、赤色のあの人が二年生であるとすぐにわかった。

横に並ぶように立っている彼もその女子生徒に気が付いたのか、 「あの子も弓道部かな?」と言っているので、あの人が一個上であることには、気が付いていないのだろう。

 「はぁ…はぁ。もしかして…。新入部員!?。そうだよね!!」

 女子生徒は、僕たちの目の前に来るなり僕たちの手を取り、嬉しそうな顔で僕たちを見た。身長は、僕よりも小さい彼より数センチほど低かった。百六十センチといったところだろうか。

 そしてその女子生徒は、道場の鍵を開けて、僕たちを引っ張った。女子生徒ということもあって、弱い力なのだが抵抗することができなかった。

 引っ張られ入った道場の中は、中学校に比べて大きく感じた。周りを見ていると、手入れもされていて、綺麗でよさそうだと感じた。僕は、ここで弓が引けるなら十分な環境だった、そう思った。

 「男子部室がこっちね!。…あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私は、 『藤井 一花』 、二年三組。一応この弓道部の部長だよ」

 先輩と名乗るこの人は、自己紹介をすると、 「荷物を置いたら、一旦出てきてね!」と言って、女子部室に入っていった。テキパキとしていると言うのか、少しせっかちな人と言うべきなのか、とにかく無駄が少ない人だ。

 それから僕と、一緒だった彼は、荷物を置いて制服のままで部室を出た。

 「まずは、入部ありがとう!。…でもね、先に言うとうちの弓道部、私の君たち含めて、四人なんだよね。女子二人と男子二人…」

 先輩は、さっきまでの笑顔が申し訳なさそうな顔になり。そう言い、それを聞いた僕たちは、自分の耳を疑った。今の話でいくと、男子はそもそもいなかったことになる。そして先を考えると、大会にも団体で出れないということでもある。

 僕としては、大会で出ようが出まいが目的に関係はないのだが、緊張感を味わういいチャンスが大会しかないと思っていたので、少し残念だった。

 「だから、ここ数年の大会記録がないんですね」

 僕の隣の今福君は、僕と違い凪原高校弓道部のことをしっかりと調べたうえで入学をしたようだ。

 でもじゃあなぜ彼は、調べても大会記録のないこの弓道部を選んだのだろう。僕はそう思ったが訊くことはしなかった。彼のことだから、僕が訊けば話してくれたのだろうけど、そんなこといつか勝手に話してくれるだろうと思った。

 「そうなんだよねー。一応個人でも大会には出てるんだけど、結果がでなくて…。ところで二人は、中学ではどうだったの?」

 僕は、その質問で少し考えた。中学校では、上位とは言わないが、県で五位ぐらいを取っているぐらいの成績だった。中学校でも、そこまで結果に執着していたわけでもなく、残した成績を他人に言うのが嫌いだった。

 「これといって特には…」

 僕の答えは、ただそれだけで、先輩も何も言わなかった。

 「僕もです!。県で二十位に入るぐらいだったんで!」

 今福君は、僕の回答に便乗する形で、回答をしていた。先輩が、 「二十位でも十分すごいよ!」と言っている。僕は、大会で誰が強いとか一位だったとかを気にも留めていなかったので、今福君がいたことも覚えていない。というよりも、二十位までわかる大会を覚えていない。

 先輩は、それ以上深堀もせずに、そのままこの弓道部のルールや掃除などの細かなことを教えてくれた。スリッパをはき、安土に来た。安土に水を撒きながら、先輩が的を付けていたのだが、的には数個の穴が開いていて、最近的を貼り直したのかあまり中たっていないのかと考えてしまった。でもすぐに失礼な考えだと思い、貼り直したのだと自己完結をした。

 「安土は、水をかけ過ぎないようにね。ドロドロになっちゃうから」

 僕は、二人の後ろを歩きながら、手で安土の土をそっと触れてみたが、掘り返したりもしていないのかガチガチに固まっていた。これでは、水を吸わずに、表面だけがドロドロになるのも必然的なことだろう。

 僕は、手に着いた土を払落し、先に行く二人についていった。

 「うちの弓道部はね、顧問の先生も弓道未経験者なんだよね。でもこの辺りに、適任のコーチがいるって頼み込んでるらしいんだけど、頑なに断られているみたい。結構若い人らしくて、顧問の先生の同級生らしいんだけど…」

 先輩は、安土の土が少し付いたままのスリッパを、古いタイプのタイルでできた玄関に脱いだ。そして道場の中に戻ると、先輩が一枚の紙を持ってきた。

 「二人は、中学で何キロの弓を使ってた?」

 弓のキロ数。僕の場合、中一で九キロ、二年で十二キロ、三年で十三キロといったように上がっていったものだったが、今では十三キロが軽いとですら感じていたぐらいだった。

 「十四キロ前後でした」

 僕は、キロ数を少しだけ盛って伝えた。横の今福君は、 「十二キロです!」と答えた。僕よりも小柄ということもあってなのだろうか、やっぱりキロ数は下のようだ。

 先輩は、綺麗に並べられた弓と、持っている紙を見比べ何かを探していた。そしてその中から、二本の弓を取り、僕と今福君に渡した。

 「相原君が、十四キロ。今福君のが、十二点六キロの弓ね。二人とも弦は…」

 【弦】 『弓を引く際に必要な紐のようなもの。中学生の最初の多くは、千本弦というものを使う。値段が高いが、弦音や矢飛びなどがいい弦などといった、豊富に種類がある。 』

 「僕は、持ってます」

 僕は、先輩が言い終わる前に答え、一度男子部室に戻り、自分のカバンに入っている道具箱を持って出た。今福君も、僕と同じようにカバンから弦巻を持って出た。

 僕たちは、先輩から渡された弓に弦を張った。軽く素引きをしてみると、十三キロよりも張り合いがあっていい感じだった。今福君もいい感じのようで、弦音を確かめていた。

 彼の弦音は、少し高めで、何の弦なのか少し気になった。

 「大丈夫みたいだね。じゃあ二人とも体操服に着替えてきてくれる?。二人の射を見てみたいからさ」

 先輩にそう言われた僕たちは、男子部室に戻って、お互い新しい体操服に着替えた。部室の外に出ると、先輩も着替えていたのだが、僕たちのような体操服ではなく、黒いTシャツに【一射入魂】と書かれたものを着ていた。この弓道部の部活Tシャツのなのだろう

か?。

 「よし!。じゃあ早速弽を着けてみて!」

 【かけ・ゆがけ 】『右手に着け弦を引く際に、親指と弓の圧力から手を守るためのもの。鹿の皮でできていて、質などによって値段が変わってくる。高価なもので、十万以上にもなる。 』

 僕は、道具箱の中から、矢と同様に中一の時に購入した弽と下弽を取り出した。今福君は、茶色の弽。僕のは、黒色の弽だ。ただ僕のは、弽紐が一般的に購入時に付いてくる紫色のものではなく、赤寄りのオレンジと言った感じの弽紐だ。

 「黒にその弽紐かっこいいね!。僕も、弽紐変えたいんだよね~」

 今福君が、自分の弽紐を見ながら言った。

 「茶色もいいと思うけどね。上級者感があって」

 僕の言葉は、結構本心だった。黒色の弽よりも茶色の方が、上手い人が多い気がしていた。だが、黒色の自分の弽も嫌いじゃなかった。

 僕たちは、弽紐を絞めて、巻藁矢と弓を持った。久しぶりに巻藁矢に向かい弓を引いた。久しぶりということもあるのかもしれないが、引きなれていない弓は角見があたりにくく、少し引きずらい。

 【角見】 『弓手(弓を握る左手)の親指の付け根を指す。重症箇所の一つで、角見を的の方向に押し出すことで、矢を真っ直ぐ飛ばす。 』

 僕の手は身長に比べ少し小さく、その中でも小指が少し短い。弓は、キロ数が上がると太くなってしまう。そのため僕の手は、この弓に適していないように感じた。その上この弓に貼られている握り皮は、分厚めのものだった。

 【握り・握り皮】 『弓を引く際に、弓手がが弓を握る場所を握り。その握りに貼る鹿や牛などの様々な種類の皮を握り皮という。 』

 僕は、握り皮の違和感を持ちながらも、そのまま的前に立った。僕たちにとっては、二十八メートル先の的は、久しぶりの光景だった。

 僕は、いつもの感じで、いつものように二十八メートル先にある直径三十六センチの的を狙った。僕の一本目は、三時方向に五センチほど外れた。今福君の一本目は、十一時方向に蹴った。そして僕と今福君の二本目は、そのままの方向で的に中った。

 「おぉ!。二人ともめちゃくちゃ綺麗じゃん!」

射位を出ると、先輩が黒板に僕たちの名前と的中を書いていた。僕と今福君の的中は、全く一緒だった。

 「二人ともいい感じだね!。でももう時間も時間だから、大したことしてないけど片付けようか。今日顧問の先生は、会議で来れないらしいから、これ以上の詳しい話は明日にしよう」

 時計を見ると、既に七時になっていた。顧問の先生は、入部届を出すときに一度会ったが、優しそうだが気弱そうな人だったのをよく覚えている。

 僕よりも丁寧に退場をした今福君が、何か疑問に思っているような顔をしていた。

 「もう一人の先輩は、来ないんですか?」

 「あぁー、今あの子風邪ひいちゃってさ。今週末までには来週と思うんだけどね。他に何か聞きたいことある?」

 僕は、特に聞きたいこともなかったので「ないです」とだけ答えた。今福君は、 「大丈夫です!」と元気に言っていたので、先輩との相性はよさそうだと感じた。

 僕たちは、安土整備やシャッターを下ろしたりなどの片付けをして、道場を出た。僕は、自転車できていたので駐輪場まで行くと、今福君も先輩もついてきていた。今福君は、家が近くで歩いてきているらしい。

 「じゃ!私最寄り駅、こっちだから!。明日もよろしくね。あっ、あと勧誘とかクラスでもしてみてくれない?」

 校門を出ると、先輩が数メートル離れた距離で言った。でも確かに、勧誘をしないと人数が足りていない。僕はわからないが、今福君は勧誘するのが得意そうだ。

 「 「わかりました」 」

 僕たちは、全然違う声のトーンで言った。それに対し先輩は、笑って右手を振りながら帰っていった。僕たちも、それを見て歩き出した。今福君の家は、学校から歩いて十分ぐらいの距離で、今福君も先輩と同様に手を振って、自転車で帰る僕を見送ってくれた。

 「お帰り。部活はどうだった?」

 家に帰るとお母さんが出迎えてくれた。お父さんは、まだ仕事から帰ってきていないのだろう。

 「いい感じに自分の射を追究できそうだったよ…。人数が少なかったけど」

 僕は、そのまま靴を脱ぎ揃えてから中に入った。洗面台で手をよく洗い、二階の自室に行き、制服を着替えた。

 一階に戻り、用意された夜ご飯の前に座った。いつものように母さんが作ってくれた暖かいご飯を食べながら、弓道部の話をした。

 「今日は、お父さん遅いんだね…」

 「今、新入社員の人の指導とかで、仕事が立て込んでるらしいからね。あっ、握りの話、お父さんにしてみなさいよ。週末にでも弓具店に行けばいいじゃない」

 この辺りに弓具店は一つしかない。いつもお世話になっている弓具店なのだが、自転車で行くには少し遠い距離なので、毎回お父さんに車を出してもらっている。まぁ、なぜか絶対に車から降りようとはしないので、本当に興味がないのだろうけど。

 「そうしようかな。流石にあれでずっとは引けないし」

 僕は、その後帰ってきたお父さんに、その週末弓具店に連れて行ってほしいと伝え、行くことになった。

こんばんは河島ももです。今日から連載する「矢線に射て〜信じる想い〜」は、弓道をモチーフとした小説です。今回は、入部した主人公ともう一人の新入部員、一人の先輩が登場しました。今後展開を広げていくのでぜひ次の投稿も確認していだければ幸いです。Xなどでも報告などはさせてもらう予定などでよろしくお願いします。

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