捧げられていた不器用な愛
「もう少し、ご自身の考えを言葉として伝えていただきたかったです。簡単にしてしまうがために、誤解を生じることも多く……好意による気遣いが、拒絶として伝わることも多くありました。もっと早くに、想いをそのまま伝えてくださったら……。騎士としての名声ではなく、"婚約者"として向き合う時間を持ってほしいのだと、話し合うことも出来たのだろうにと思わずにはいられないのです」
「……そうか。切り捨てられないのは、リアナが過去として考えられる程度にはあの男が変わり始めたからなのか」
お爺様は深く長い息を吐きだし、
「幼い頃の姿を知っているというのは、情が移っていかんな。あの男の肩を持つわけではないが、おおかた"婚約者"としてリアナに好いてもらおうとしたのだろう。自分の価値は次期侯爵という家名に伴う権力に、騎士としての才、そしてその容貌にあると考えているようだからな。この中で価値を高めることが出来るもののといえば、騎士としての出世だ。そしてそれは同時に、新たなる権力にもなる。だから焦ったのだろう。リアナとの結婚を確実にするために、その心を射止めなければとな」
「そんな……」
瞬間、脳裏にフレデリック様の言葉が響いた。
「俺が心から想いを寄せているのは、リアナ嬢です。"愛しい"という感情も、あなたから学びました。嘘偽りなく、俺にはずっとあなただけです」
共に踊りながら告げた、彼の真摯な瞳。
(フレデリック様は、本当にずっと私を想ってくれていたというの?)
無関心だとばかり思っていたこの二年間は、彼にとっては、私に好いてもらいたいがための必死の努力を重ねていた時間だったと?
「――フレデリック様が」
どこか縋るような心地でお爺様へと向けた顔は、きっと子供ようだったに違いない。
「フレデリック様が私との婚約を了承されたのは、"都合が良かった"からではないのですか……?」
「……少なくともワシには、嬉々としてリアナを迎えに来たように見えたの。婚約が決まった直後に、リアナを侯爵邸に迎えるにあたって気を付けるべき事項を、細かく教えてほしいと手紙を送ってきたほどだったしな」
「! わ、私が刺繍が苦手というのも、その時にフレデリック様に……!?」
「ああ、伝えたはずだ。肌を白く保つためにと日中の大半を屋敷の中で過ごす娘が多いようだが、リアナをくだらない"貴族らしさ"で閉じ込められてはかなわんからの。ましてや刺繍など……好きでもない者にはただの苦行にすぎん」
(もしかして、侯爵邸で思っていたよりも過ごしやすかったのは、そのお手紙のおかげ……?)
「ほ、他には、どのような内容をお伝えに?」
「ん? そうだの、色々と書いたもんで、細かくは覚えていないが……ああ、踵の高すぎる靴は駄目だと伝えたな。色の強すぎる化粧も良くない。それから、リアナは香水も苦手だったろう。貴族の娘はなにかと香水を振りかけるようだからな。調度品は見目の華やかさよりも実用性や心地よさを重視しておったし、食事についても、首都の貴族のような食事には不慣れだから、少しずつ慣れさせていってほしいと……」
(そんな……だからだったのね)
フィッティングですすめられる靴がどれも無理のない高さだったのも、覚悟していた香水が、心地よく思える程度の自然な香りばかりが用意されていたのも。
私の部屋が落ち着ける雰囲気だったのも、初めの頃の食事が少量ずつ、私の様子を尋ねながら出してくれていたのも。
(全部、フレデリック様のおかげだったのね)
無関心どころではない。
生活の細部に至るまで、フレデリック様は私を気にかけてくださっていた。
「リアナ」
お爺様は穏やかな声で呼ぶ。
「先ほども言った通り、あの男はそもそも人との向き合い方を理解していない。環境が故とはいえ、事実は事実だ。たとえ努力を初めたところで、何度も誤るだろう。そのたびに傷つくはずだ。あの男も、リアナも。……時間はまだある。よく、考えてみなさい。リアナの人生はリアナのものだと、忘れずにの」
「……はい。ありがとうございます、お爺様」
(やっぱり、来てよかったわ)
そして、改めて思う。
(フレデリック様とも、話し合うべきだわ)
どんな思いで私との婚約を了承したのか。
どんな考えをもって、この二年間を過ごしていたのか。
私のことを本当に――唯一の特別だと想っていてくれていたのか。
(フレデリック様の心は、フレデリック様にしか分からないもの)
胸を叩く鼓動が期待なのか、怯えなのかはわからない。
それでも私は、彼の想いを聞いてみたい。
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