日本酒を使った推しのイメージドリンクだそうです
この場に辿り着くまでの道中が、強烈な体験として脳裏に焼き付いている。
夜だと言うのに煌々と明るく、活気のある街。
道は見える先々まで舗装が行き届いていて、馬を必要としない"クルマ"や"バイク"が行き交う。
歩かずとも運んでくれる動く階段が当然のように街中にあって、身分など関係なく大勢が利用できるようになっていて。
小屋と見違えるほど巨大なキャビンが連なる"デンシャ"に乗れた経験は、一生の宝物になるわ……!
「助かったよぉ、リアナちゃん! このコラボカラオケ、どーしても諦められなくてキャンセル待ちに応募したら当選して! もう絶対来れないから、出来るだけ人数を増やしたかったんだぁ。あ、そのペンラ気に入ったんならあげようか?」
「いえ! 香穂様の大切なモノですし、その、私の周囲に見つかってしまうと、きっと大騒ぎになってしまうので……」
「つか、キャンセル待ちだって突然当たって大声出してたってのに、なんで当然のようにペンラが鞄から出て来るんだよ。しかも二本」
「え? だっていつ当たるかも分からないんだから、常に万全の準備を整えておくのが常識でしょ」
「たしかに、こんなにも小型で便利な灯りでしたら、夜道で便利ですものね」
「ほらみろ。リアナさんの常識がねじ曲がっちまっただろーが」
「でも冷静に実際問題、ペンラの持ち歩きって常識になっても良くない? 明かりはもちろん用途で色も変えられるし、武器にもなるし」
「冷静に考えてもデカくて重すぎねーか?」
「あの、香穂様、辰彦様」
私はペンラの色を香穂様のそれに合わせ、
「連れてきていただけたからには、ちゃんとお力になりたいのですが、このペンラを振るだけでよろしいのでしょうか?」
「あっとね、それは――」
その時、部屋の扉がコツコツと鳴り、「失礼しまーす!」と店員が現れた。
「お料理とお飲み物、お待たせしましたー!」
外のワゴンから手際よく机に運びこみ、銀の小袋を数個さっと置くと退出する。
香穂様は「そう! これです!」と両手を広げ、
「コラボ限定のドリンクにフード! それぞれにランダムコースター付き!」
香穂様は画面に映る男性の一人を示して、
「この方は"神楽坂湊"って名前なんだけど、日本酒好きでねー。今回は彼がメンバーのイメージドリンクを考案してくれてるんだ。で、こちらが私の推し、龍ヶ崎ノアくんのイメージドリンク! "~キミの曇り顔も笑顔に変えてみせるから! にごり酒ジンジャーエール~"」
すると、メニュー表を開いた辰彦様が、
「にごり酒とジンジャーエールに、キンと冷えた氷を。ジンジャーエールの辛さと爽快感、にごり酒の甘さが、いまだ未知数の可能性を秘めているノアくんのような未経験の美味しさをあなたに届けます。おすすめのフードはからあげ」
「ってことで、こちらが鶏肉を油でじゅわっと揚げたからあげです!」
「からあげ……見た目は茶色い塊のようですが、食欲を刺激する香りがします……! それに、日本酒はそのままではなく、他の飲み物と混ぜ合わせて飲む方法もあるのですね」
すっかり忘れていたけれど、以前、三樹様も緑茶に混ぜるとか言っていたような。
香穂様は「あれ?」と小首を傾げ、
「リアナちゃんのところはやらない? ワインも同じようにジンジャーエールで割ったり、オレンジジュースと混ぜたり、色んなカクテルがあったと思うのだけど」
「ワインもですか!?」
つい声が大きくなってしまった私ははっとして、「すみません」と口元を抑えつつ、
「私の国では、ワインと他の飲み物を混ぜることはなくて……。冬の寒い日に、身体を温める目的で紅茶にブランデーを少量混ぜるくらいでしょうか」
へえ、と感慨深げに発したのは辰彦様。
「言われてみれば、俺達の知るカクテルってけっこう最近の飲み方なのかもな。嗜好性が高いっていうか」
「『縁』でも、日本酒そのものを楽しんでってスタイルだもんねえ。それじゃあリアナちゃんは、今回がカクテル初挑戦ってことなんだ。責任重大!」
香穂様は先ほどのグラスの隣を示して、
「こっちは日本酒を炭酸で割って、山椒の実を入れてあるんだって。リアナちゃんって前に焼き味噌で山椒を食べたことあったよね? で、このドリンクのオススメフードは麻婆豆腐! 豆腐にひき肉とネギを合わせて、色んな香辛料で味付けがしてあるトロピリッとしたお料理だよ。ちなみに、こっちにも山椒が入ってます」
「み、見た目からして赤く辛そうなお料理ですね……。けれど、薬味の影響でしょうか? 複雑ながら美味しそうな香りがします」
このお料理はもちろん、あの香り豊かな"サンショウ"の実がお酒に入ると、どんな風味になるかしら。
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