9、ビービーキュー
今日、ここで話した内容は外部へ漏れ出ない様に二人へ頼んで、アースは協会を後にした。
とはいえユリシスとハーツ?には隠せないし、彼らもクランリーダーには正直に話すだろう。
「面倒な事になったなぁ…」
アース自身、3年も上がらなかったジョブやスキルのレベルが上がった事に関しては素直に嬉しかったが、今更どの面下げて王都の仲間に会いに行くと言うのか。
この街で冒険者をやり直すという選択肢も無い事はないが、やはり踏ん切りはつかない。
「斧はユリシスに譲って、魔石のお金は三人で分けて…残りでマッサージ屋を開こう!」
この街へ戻って来た当初の目的のままに、アースはマッサージ屋を造る決心をした。
「スローライフも良いかも知れないしな。迷宮の事については、また今度考えよう」
「あ、兄貴だ!」
声のした方に顔を向けると、ユリシスとハーツが居た。
ユリシスは手を振りながらこちらへ走って来る。
「兄貴~、もう協会の方は終わったの?」
「ちょうど良かった、ユリシスと…ハーツだっけ?二人にこれを渡しておくよ。はい…」
布袋を鞄から出して二人に1つずつ渡した。
「え、ちょっと待ってくれよ!兄貴、これは何だよ?」
「何って……オークロードの魔石の分じゃないか。三人で倒したからお前たちの分だよ」
「いや受け取れねえっすよ!倒したのはアースさんじゃないですか!」
ハーツも困って布袋をアースに返そうとしてくる。
「そう言われてもなぁ…」
アースとしてもこんな街中の往来で、押し問答をしているのは意味が無いと思い二人に提案した。
「じゃあこれはお前たちのクランリーダーに渡しておくよ。それならクランも潤うし、お前らにも利益はあるだろう?」
なるほど、と二人が納得したのでとりあえずは、アースが二人の分を鞄に収めておいた。
「アース兄貴は時間あるんだろ?ついでに俺達のクランへ来てくれよ!その方が話し早いだろ?」
「それはいいな!」
ハーツもユリシスの言葉に同意したが、アースは少し疲れていたので断った。
が結局、二人に根負けする形でビービーキューのクランハウスまで行く事になった。
「俺がリーダーのサローインだ。今回はクランメンバーを助けてくれて感謝する。大したもてなしも出来ないが、さあ入ってくれ!」
クランハウスの入り口でいきなりリーダーに感謝の言葉を言われ、アースは戸惑っていた。
そのままクランハウスへと誘われて入って行く。
「初めまして。このクラン、ビービーキューの副リーダーをやっているハラミーです。宜しくお願い致します」
副リーダーだと言う女性に丁寧に挨拶される。
あれ?っとアースは思ったが、言葉に出てしまった。
「ユリシス達のパーティーに……」
「ああ、ユリシスのパーティーに一緒に居たのは妹のツラミーですね」
姉さんか…なるほど、それなら似てても不思議ではないとアースは納得した。
「どうぞこちらへ!」
アースは立派な応接セットの置いてある部屋へと通され、大きなソファに座らされた。
あっという間に目の前のテーブルにはケーキと紅茶が並んでいた。
「改めて、感謝する!クランメンバーを死なせずに済んだ!ありがとう!」
サローインとハラミーが同時に頭を下げている。
さっきも同じような事が……と思いながら協会での出来事がフラッシュバックされる。
「頭を上げて下さい。ユリシスは俺の弟も同然ですから、助けるのは当然です。ハーツくんもヒヤッとしましたが助かって良かったです」
「相手がオークロードだという事もユリシス達から聞いています。私たちが居たとしても、勝てたかどうかは分かりませんから……感謝以外の気持ちが出てきません。ホントにありがとうございました」
ハラミーが目尻に涙を溜めて、再度アースへと頭を下げている。
アースは居た堪れない気持ちで一杯だった。
「皆が元気でここに居るという事で、もうその話しは終わりにしましょう。それとこれをお渡ししておきたいのですが……」
アースは二つの布袋とオークロードからドロップした斧をテーブルに置いた。
「これはオークロードの魔石を換金したお金です。ユリシスとハーツくんの分です。斧はオークロードを倒した時に残っていたので、恐らくドロップアイテムだと思います。俺では使い道が無いので、どうぞこれからの冒険に利用して下さい」
サローインとハラミーは目を大きく見開いてビックリしている。
この状況も2度目だな、とアースは心の中で思っていた。