10、アース勧誘される?
暫く沈黙が続いた。
「ぷはぁ~……。思わず息をするのを忘れちまったぜ。これはまた、サラっと凄いモンを出してきたねぇお前さん」
「そう言えばお名前をお聞きするのを忘れてました」
「俺はアースです」
「アースさん…どこかで聞いた名前ですね?」
「3年程王都で冒険者をやってましたよ」
アースは簡単に自己紹介をしつつ、ハラミーの顔を伺う。
「そうでした!王都の実力派クラン『カラーズ』ですね?創設時のメンバーにアースさんの名前があったはずです!」
「やたら詳しいですね。クランは確かに有名ですが、俺は大した実力もないからそんなに名前も知られていないはずなのに…」
アースは自分の名前を知られている事に気恥しさを覚えた。
「すまないな、こいつはクランおたくなんだよ。特に、王都のクランは好物でね。勘弁してやってくれ」
「別に悪い事やってる訳じゃないから、良いでしょ!ねえアースさん?」
いきなり話しを振られたアースは戸惑いながらも、「そうですね」とだけ答えておいた。
「これは俺が仮に預かっておくよ。どちらにしてもアースさん、アンタのモノだ。ユリシス達はうちのクランメンバーだが、ハイそうですかとタダで貰う訳にはいかねえんでな。もし……」
「リーダー!!」
ハラミーの言葉にビクッとしてしまったが、アースはそれを表に出さない様に努めた。
「どうされましたか、ハラミーさん?」
「いえ、いきなり大きな声を出してしまってすいません!」
「ああすまねえ。今のは俺のミスだ。忘れてくれ」
ミスの擦り付け合いをしているが、鈍いアースでもさすがにこれは分かる。
「サローインさん、俺はもう冒険者を辞めるつもりでこの街に帰って来たんですよ。でも、成り行きとは云え、最深部階層の鍵を持っているのは俺だけですからね。そうでしょ?」
サローインは顎を擦りながら…
「確かにそうだな。まだ話しは広がってはいねえが、階層主討伐が公表されればアースさんよ、お前さんはたちまちこの街の有名人だろうな。なにせ、このグールナットの迷宮は未だ50階層と55階層の階層主は討伐されてねえんだからな。より質の良いモノを求めて、冒険者たちはこぞってアンタの『鍵』を欲しがるだろうな」
「……ですよね~。はぁ」
それはアースにも分かっていた。
迷宮とはそう言うものだから。
より強く、より名声を求める冒険者たちは、より深層を目指すだろう。
自分だって嘗てはそんな冒険者だったのだから…。
「アースさん、私たちは貴方の『味方』です。いつでも相談に乗りますので、お気軽にこのクランハウスに来てくださいね!」
『味方』……か。アースは何とも言えない気分になったが、クラン的な判断としては間違いではない。
目の前に深層の鍵を持った人間がいるんだから、是非とも仲間に引き入れたいだろう。
「正直な話し、鍵に付いてはあまり興味も無いので権利を譲っても良いんですよ。ただ自分の感覚として、あの階層へいきなり入って死んでしまう様な事にならないか……ユリシスは二つ名を持ってるみたいですが、まだ早い様な気がするんです」
「その懸念はごもっともです!」
ハラミーがアースの意見に同意する。
「だからと言って何もしない、冒険者辞めると言ってる俺が偉そうにご高説をたれても仕方ないんですけどね」
「どうだろう?『相談役』みたいな立場で、一応の居場所を作っておくってのは?」
「相談役?」
「今のままじゃ、いくら味方だって言っても俺達がアンタの為には何もしてやれねえ」
アースの気持ちは揺れ動いてはいたが、やはり即決出来るほど興味は無い。
今更ながらに迷宮に潜ったのは間違いだったか?との考えが過り、思わずフォークの柄をギュッと握ってしまった。
「お気持ちは有難いのですが……すぐには決められないので」
「それもそうだな。じゃあ、これを持って行ってくれ」
そう言ってサローインは、一枚のカードをテーブルの上に置いた。
「これは俺達のクランの会員証みたいなモンだ。例えクランに入らないとしても、お前さんがうちのクランメンバーを助けてくれた事に間違いはねえんだ。その恩に報いるためのモンだと思ってくれ」
「そうですか、じゃあ貰っておきます」
アースはカードを鞄に入れて席を立つ。
「なにかあったらそのカードを見せると良い。ちょっとは便宜を図ってくれる店もあるだろうよ!」
「期待しておきます」
アースは二人に軽く会釈をして部屋を出た。
「何か分かったか?」
「いえ、ステータス以外のモノは。ですがこれを見て下さい」
ハラミーの言葉にサローインはそのフォークを見る。
「それがどうした?」
「ここを見て下さい。これはミスリルで出来たフォークなんです。指の力だけで簡単に曲がる様なモノではありません」
サローインがそのフォークを手に取って、元に戻そうと力を入れてみるが…。
「…あいつは、何者なんだ?」




