第52話 資金力の戦いです!!
ジークロンさんとラーシィさんをはじめとする元『マテリアルハンターズ』が守る37番砦を攻撃するのは、南のギルド『そこに山があるからさ』
山を愛する登山家が集まるギルドのようで南の中でも最も険しい火山地帯の砦を中心に四つの砦を確保しているらしい。
ちなみにリアル登山が辛くなったことでVRMMOに山を求めるようになった高齢者が多く、『さくら館』ではないにしても同様の施設からアクセスしてる人が多いとのこと。
もしかしたら『さくら館』でもいるかも知れないけど……
そんな『そこに山があるからさ』の人達の攻め方はユニークで、『一般パートナー』の中でも比較的戦える部類の『冒険家』を中心にロッククライミングのように城壁を登ったり、ロープを使って城壁から高台へ、高台から高台へと移って城内に入り込んだりとなかなかにして厄介で、防衛ラインをスルーして気づいたら三層目に侵入されていた……とか言うシャレにならない事態になることも。
一方のジークロンさん達は相手の攻め方を弥生さんから聞いていたこともあって、通常の攻城戦構成ではなくて『狩り』構成で迎え討っていた。
「ガルタン!北西の城壁から15人。」
「了解です。」
わたしの頭上に映るディスプレイの中で、ジークロンさんが九画面のディスプレイの前で指示を飛ばす。
今ジークロンさんがいるのはジークロンさん達に割り当てた転送ゲート前ホール。
ジークロンさんが見るディスプレイには、砦の四隅と東西南北の城壁の中央あたりに配置した各小隊の小隊長と、中央の高台から全体を警戒するラーシィさんに持たせた『ビット』からの映像が送られてきている。
元々ギルドマスターやってただけあって攻城戦の指揮は慣れてるでしょうし、ディスプレイの中の九画面のディスプレイなんて正直見切れないからジークロンさんにお任せしよう。
黒の短髪を迷彩柄のバンダナで覆い、迷彩柄のズボンに上は深緑のタンクトップを着たガルタンさんは八人の小隊長の内の一人で北西担当。
ガルタンさんと同じような服装の五人の隊員と『アーチャー』パートナー達が眼下に迫る『そこに山があるからさ』のメンバーと『冒険家』パートナー達に弓で射かける。
元『マテリアルハンターズ』の『アーチャー』達は、普段の狩りに同行する関係で本来なら『冒険家』が得意とする罠やサバイバル能力も鍛えていて、もはや『弓兵』と言うよりは『狩人』と言った方が近いかな。
城壁にアンカーボルトを打ち込んで四方八方から登ってくる『そこに山があるからさ』
ジークロンさんの指揮の下で次々と『お帰り』になられているけど、死に戻りから繰り返されるゾンビアタックで終わりが見えない。
「北東、西側!アリア来るぞ!!」
「ごめん南側で手一杯!!」
北東を守るアリアさんは既に登ってくる敵に対応中でなかなか厳しそう。
「くっ!エセン行けるかっ!?」
「こちらも対応中!!」
北の中央を張るエセンさんもやや西側から来る敵に対して弓を放っている最中。
一ヶ所でも城壁の上部までアンカーボルトを打ち込まれたら、そこを集中的に登って来られるしそこに対応してると他にも打ち込まれると言う悪循環に……
そしてついに、アリアさんとエセンさんの真ん中あたりに城壁に届く高さまで打ち込まれ、『そこに山があるからさ』が城壁を登頂してしまう。
「かかったわ!!」
ラーシィさんが言葉を発するや否や爆音を響かせて登頂された城壁部分で爆発が起こり、登って来た敵が城壁外に落とされて『お帰り』になる。
「ジークロン、ある程度なら大丈夫よ。城壁も外郭も『地雷』の設置はあらかた終わったわ。」
「そうか、さすがだなラーシィ!」
ラーシィさんの下には『地雷』設置完了の報告をしている三人の『狩人』パートナー達。
「ふふふっ、ラーシィはんも結構えげつないことするなぁ。アレをやられとったらうちの二足歩行メカも危なかったかも知れしまへん。」
『Ritterorden aus Silber』は各部隊で割と自由にやってもらってるからだけど、味方の戦法を把握してないのはマズいかなぁ。
とか言うのを弥生さんに聞いてみたところ……
「ガチガチにやってもおもろうあらしまへん。好きにやってもろうて、うちも知らへん戦い方に驚ろかされるのも楽しみの一つどす。」
……だそうです。
弥生さんはなんかそのために各部隊にお金を出して好きにやってもらって、自分も二足歩行メカとか小型戦艦とか魔法研究とか好きにやってるとかなんとか。
それで『Ritterorden aus Silber』も強くなってきてるし、まぁ……まぁ会社とかじゃないし、いいのかな?
「ファイムルはんとこは『電卓の騎士団』どすか……圧倒的な『Planets』の影に隠れて目立たへんのどすけど……うちもやってまいました。中央ではある意味最も気ぃ付けなあかんギルドやったのに。」
「えっ!?ファイムルさんとこ!?」
弥生さんに促されてファイムルさんの部隊を映すディスプレイを見ると、かなり劣勢で押されている状況になっていた。
油断してたと言うか、いつも盤石な『均衡した動かない防衛』のファイムルさんに任せていれば大丈夫って安心してたとこがあって見てなかったってのが正直なところ。
ファイムルさんとこの状況は、青みがかった銀色の鎧を身にまとい青みがかった銀色の盾を構える『騎士』に押され、青みがかった銀色の剣を振るう『剣士』にはファイムルさん達の盾があっさりと切り裂かれ、青みがかった銀色の鏃を持つ矢を放つ『アーチャー』にいとも簡単に盾を貫かれていた。
一見すると『騎士』を前面に出したスタンダードなプレス型の布陣で、派手さもなくて特にこれと言った特別なことはないようにも見えるのに……
「弥生さん『電卓の騎士団』ってそんな怖いギルドなんですか?」
「ある意味怖おすなぁ。資金力にモノを言わして高価な装備でパートナーを固めてくるギルドどす。」
曰く、『電卓の騎士団』は『クロニクル・ワールド』各地に点在する13人の商売人さん達が中心になって結成したギルドで、その圧倒的な資金力を活かしてギルドを強くしていってるとのこと。
弥生さんは各種計略や木造小型戦艦に二足歩行メカ、パートナーに魔法と言った多方面に出資して取り入れているのに対し、『電卓の騎士団』はスタンダードに『騎士』『剣士』『アーチャー』と言った攻城戦の基本的なところに力を入れていて、ファイムルさんにも通じる地味で地道な基本戦法が強いと言う。
「如月君……そこの隊長さんの『ビット』で見ているのだろう?どうかね?我々の『聖銀兵団』は。」
お知り合いなのかファイムルさんの『ビット』に向かってやや後方から名指しで弥生さんを呼ぶ『電卓の騎士団』の人。
中肉中背で本人は戦わないのかあまり強そうではないけど、ちょっと豪華で貴族に近い感じの豪商的な、それでいて『貴族と渡り合う最低限』って感じのイメージの服を着た男性が、径の小さい眼鏡の位置を左手の人差し指で直している。
「『アキトコーポレーション』はんどすか。あまりにも地味やさかいノーマークどしたで。」
「地味……いいねぇ最高の褒め言葉だよ如月君。ハッハッハ。」
両手を広げて芝居がかった感じに笑う『アキトコーポレーション』
って、あの人はアキトでいいのかな?
「如月君、貴女は素晴らしい。単独で豊富な資金力を持つ商会、様々な技術を積極的に取り入れる姿勢、惜しみない融資……方々で活躍する貴女の噂はどれも華やかだ。」
「ふふふっ、そないにうちのこと思てくれはるなんて光栄どすなぁ。」
ノーマークだったことをちょっと悔やんでる風だったのに、アキトとの口上合戦ではそんなことおくびにも出さない弥生さん。
「だが貴女は広く手を広げすぎた……地味に地道に『兵団』を育て、育てた『兵団』に全てを注ぎ込んだ『電卓の騎士団』は……」
アキトはそこで言葉を区切って腕を組み、眼鏡を右手の人差し指で直しつつ『ビット』に意思のこもった視線を投げかける。
「『キサラギ商会』には負けませんよ?」
対する弥生さんはわたしの隣で扇子で口元を覆いつつも口の端を持ち上げて、どことなく嬉しそうにも見える笑みを浮かべた。
「ファイムルはん、申し訳あらしまへんが今しばらく耐えとぉくれやす。うちもそちらに向かうさかい。」
「承知!」
弥生さんは着物の袖から銀色のカードを取り出して顔の前で握り、四人のパートナーを呼び出す。
「美月、美由紀、美紗、美里、いきますえ?」
呼び出したパートナーは『魔術師』の美月、『精霊術師』の美由紀、『上位神官』の美紗、『黒魔術師』の美里、と言った魔法系パートナー達。
「ほな行ってきますえ。イズミはん、あとはよろしゅうおたのもうします。」
「あっ、ちょっと弥生さん!みんなから応援頼んでみますから!!」
わたしの制止と提案に「大丈夫」と言わんばかりに手をひらひらさせながら、弥生さんは四人の魔法系パートナー達と一緒に転送ゲートをくぐっていった。
ファイムルさんが劣勢になっている状態で、『電卓の騎士団』相手に弥生さんとパートナー四人だけでどうするんだろう……
次回予告!
『電卓の騎士団』相手に劣勢になっているファイムル部隊に一人で救援に向かう弥生。
弥生の策が功を奏し持ち直すも、アキトは更なる手を打ってくる。
装備増強と技術開発、資金力にモノを言わせた両者がぶつかり合う。
「ファイムルはん今どす!反撃を!!」
第53話 いくらになるか考えたくないです!!




