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005・町

 森を歩きながら、


「私たちは、採取クエストをするためにこの『深青しんせいもり』を訪れたんだ」


 と、アーディスカが教えてくれた。


 斧の冒険者がジャン。


 弓矢の冒険者がリジット。


 3人ともまだ新人冒険者らしくて、この『深青の森』を訪れるのも7回目ぐらいなのだそうだ。


(ふ~ん?)


 今回はそこで、思わぬ強い魔物と遭遇してしまったのか。


 運の悪いことだ。


 でも、僕としてはそれで出会えたのだから、幸運だったのかもしれない。   


 そんな話をしながら、森を進む。


(ん?)


 その時、樹々の奥から小さな黒い物体たちが、こちらへとピョンピョン跳ねながら迫ってくるのが見えた。


 黒い兎だ。


 でも、額に刃物みたいな角が生えている。


「ホーンラビットか」


 気づいたアーディスカは、僕をかばうように前に出る。


 ガシャッ


 兜をかぶり、剣と盾を構えた。


 ジャンとリジットも、それぞれの武器を小さな魔物たちへと向けていた。


(ふむ)


 僕は、素直に後ろに下がる。


 魔物の数は、5匹。


「やあっ!」


 ヒュンッ


 アーディスカが気合の声を響かせながら、手にした片手剣を振るった。


 ザシュッ


 黒兎の1匹がやられる。


 残った兎たちは、額の刃物のような角を振りかざして突進してきた。


 ガチィン


 衝突音と火花が散った。


 アーディスカの盾はそれを受け止め、反動で地面に落ちた黒兎1匹の首を、素早く胴体から切断する。


(へぇ……)


 強いじゃないか、彼女。


 素人目だけど、実に安定感のある戦い方をしていると思った。


 一方で、


「くっ!」

「こ、この……当たれ!」


 他の2人は苦戦している。


 ジャンの大振りの斧はかわされ、リジットの放つ矢も当たらない。


 う、う~ん。


(大丈夫かな、この2人?)


 少し心配になってしまう。


 …………。


 …………。


 …………。


 結局、5匹中4匹をアーディスカが倒して、残った1匹はリジットの放った矢に、たまたま当たった感じで倒された。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「はぁ、はぁ」

「ふぅ、ふぅ」


 ジャンとリジットは、肩で大きく息をしている。


 アーディスカも疲れているようだけど、2人ほどではないみたいだった。


 ポタポタ


 角でやられたのか、肌から血が垂れている。


(3人ともお疲れ様)


 僕は労いを込めながら、幼い両手を3人へと伸ばした。


「癒しの光」


 ピカッ ピカッ ピカッ


 3人の傷が治り、呼吸が整う。


 アーディスカは目を見開き、ジャンとリジットも「わ?」と驚いた顔をしていた。


「ありがとう、アオイ」


 赤毛の美女が、僕へと微笑む。


 けど、


「だが、そんなに魔法を使って大丈夫なのか? これまでに、もう10回以上、使っているみたいだが……」


 と心配そうに言われた。


(え?)


「魔法使いの魔法は、1日5~10回が平均と言われている。宮廷魔法使いたちも20回が限度だとか」


 そうなの?


 僕は驚きながら、


「まだ全然、大丈夫だよ」


 と答えた。


 疲れた感じは、まるでない。


 ぶっちゃければ、100回でも1000回でも使えそうな感覚だった。


(神様のおかげかな?)


 どうやら僕の『回復魔法』は、普通ではないようだ。


「そうなのか……」


 僕の答えに、アーディスカは目を丸くしていた。


 ジャンとリジットの2人も、なんだか顔を見合わせている。


 僕は笑った。


「疲れたら、また使ってあげる。さぁ、行こう?」

「あぁ」


 アーディスカは、戸惑いつつも頷いた。


 そして、4人で再び森を歩いていく。


 やがて、3時間ほどして僕らは森を抜け、『レイモンドの町』へと辿り着いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(へぇ? これが異世界の町かぁ)


 初めて見る景色に、僕は、目を輝かせた。


 そこは、頑丈な外壁と大門に囲まれた、大きな都市だった。


 門から大通りが真っ直ぐに抜けており、たくさんの人が歩いていた。また正面には噴水公園があり、通りの左右には幾つもの商店が並んでいる。


 歩いている人の中には、獣人やエルフの姿もあった。


「おお……っ」


 まさに異世界の風景だ。


 思わず、キョロキョロと視線が踊る。


 そんな僕の様子に、アーディスカはおかしそうに笑っていた。


 やがて僕らは、1件の大きな建物にやって来た。


「冒険者ギルドだ」


 と、アーディスカ。


 中に入ると、たくさんの冒険者たちが集まっている。


 1階は、受付フロア。


 2階は、食堂兼酒場。


 建物内部は、そんな構成みたいだ。


 1階奥の壁には、クエスト依頼書らしい紙の張り付けられた掲示板も設置されている。


(ふ~ん?)


 荒事をする職業だからかな。冒険者の多くは、手足に包帯を巻いたり、怪我をしている人が多いようだった。


 ウズウズ


 ちょっと回復したくなる。 


 そんな僕を連れて、アーディスカたちは受付の1つへと向かった。


「あら、おかえりなさい、アーデ」


 そこにいた柔らかそうなフワフワした紫色の髪の受付嬢が、赤毛の女冒険者に気づいて、明るく笑いかけてきた。


 顔見知りかな?


 アーディスカも「ただいま、フラン」と返事をしている。


「あら?」


 と、フラン嬢が、小さな僕に気づいた。


「アーデ、この子は?」

「アオイだ」

「アオイ?」

「森で出会ってな。この子に、命を助けられたんだ」

「???」


 困惑するフラン嬢。


 アーディスカは、かくかくしかじかと事情を説明する。


 そして、


「ライトニング・ウルフ!?」


 その魔物の名前を聞いた受付嬢は、思わず、大きな声をあげてしまっていた。


 ザワッ


 周囲の視線が集まり、彼女は慌てて声を潜める。


「それって本当なの、アーデ? 『深青の森』の浅層部に現れたの? 深層部じゃなくて?」

「あぁ、間違いない」


 アーディスカは頷いて、


「これが証拠だ」


 と、荷物の中から青白く輝く角を取り出した。


 それは、ライトニング・ウルフの角だ。


 アーディスカたちが討伐証明になるからって、帰る前に、その角を回収していたんだよね。


「確認するわ」


 フラン嬢は、それを受け取ると奥の部屋に消えた。


 多分、鑑定しに行ったのかな?


 5分ほどで戻ってくる。


「……本物だったわ」


 フラン嬢は、呆けた表情でそう言った。


 それから気を取り直したように、大きく息を吐く。


「情報ありがとう、アーデ。すぐに他の冒険者たちにも注意するよう、ギルドから告知させてもらうわ」


 そう言った。


 アーディスカも「そうしてくれ」と頷く。


 フラン嬢は、そんな赤毛の美女を見つめ、


「それにしても、よくアーデたち3人だけでライトニング・ウルフを倒せたわね? あれは、Cランクの魔物なのに」


 と呟く。


 アーディスカは微笑んだ。


 ポム


 その手が僕の頭の上に置かれる。


(お?)


「アオイのおかげだ」

「え?」

「このアオイは『回復魔法』が使えるんだ。そのおかげで、持久戦でなんとか倒すことができた」

「…………」


 フラン嬢はポカンとする。


 その視線が僕を見る。


「……この子が……回復魔法を?」 


 なんか、疑いの眼差しだ。


(ふむ?)


 僕は、アーディスカが何かを言う前に、近くにいた見知らぬ冒険者に近づいた。


「あ? なんだ、坊主?」


 強面のおじさんだ。


 その腕には、包帯が巻かれていて、僕はそこに向けて幼い両手を伸ばした。


 足元に魔法陣が展開され、両腕に光のラインが走る。


「癒しの光」


 ピカッ


 その光が包帯を巻いた腕を照らした。


 おじさんは「うおっ?」と驚く。


 けど、すぐに何かに気づいた顔をして、


「お? おお? なんだぁ、腕が痛くねえ! なんか怪我が治っちまったぞ!?」


 と叫んだ。


 包帯の巻かれた腕を、ブンブンと元気に動かしている。


 僕はフラン嬢を振り返り、ニコッと笑いかけた。


「…………」


 今の光景を見たフラン嬢は、目を見開いたまま呆然としていた。


 アーディスカが苦笑して、


「な? 本当だったろ」


 ポンッ


 その肩を軽く叩いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連続更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ うん、弓使いと斧使いが生きていて良かった。 ……まぁ、戦い慣れはしていないようで、帰りも苦戦していたようですが(苦笑) ともあれ、無事に町まで辿り着いた…
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