004・アオイ
「癒しの光」
ピカッ ピカッ
倒れていた斧と弓矢の冒険者2人にも、僕は『回復魔法』をかけてあげた。
2人はすぐに動き出す。
「う……?」
「あれ……俺たちは?」
頭を振りながら、呆然と体を起こした2人に、アーディスカと名乗った女冒険者は、赤毛の髪をなびかせて抱きつく。
「よかった、ジャン、リジット!」
そう安心したように吐息をこぼした。
(ふむ?)
戦闘中で考えていなったけれど、どうやら僕は『異世界言語』がわかるみたいだ。
まぁ、この子供の身体は異世界の生まれみたいだし、あの幼女神様が気を利かせてくれたのかもしれない。見た目に反して、いい神様じゃないか。
そんなことを考えていると、
「ありがとな、坊や」
アーディスカがそう声をかけてきた。
僕は「ううん」と答える。
だって、2人を治したのは、僕自身のため。
自分の安全のために、僕を守ってくれる人数を増やしたかっただけだからね。
(この森は危険みたいだから)
視線の先には、倒れた角の生えた狼の死体がある。
気づいたアーディスカは、
「ライトニング・ウルフだ」
と、名前を教えてくれた。
「本来なら、もっと森の深層部にいるCランクの魔物なんだ。こんな浅層の森に出てくるのは、珍しいんだがな」
ふ~ん?
彼女の後ろのジャンとリジットも、
「最近、この森、魔物が多くなったよな?」
「本当……なんでだろうな?」
そう首をかしげている。
「何にしても、坊やのおかげで助かった」
アーディスカは笑う。
なんだか、魅力的な笑顔をする人だなと思えた。
キョロキョロ
そんな彼女は周囲を見回し、それから、改めて僕を見て、
「坊やは、ここに1人なのか?」
と聞かれた。
僕は「うん」と答えた。
「親は?」
「いないよ」
「いない?」
「うん。というか、生まれてこの方、一度も会ったことないから」
「…………」
アーディスカは黙り込んでしまった。
(嘘は言ってないぞ)
彼女は少し考え、
「坊やは、なぜこの森に?」
「迷子」
「迷子?」
「うん。自分のいる場所がわからなくて、ウロウロしてたら、3人を見つけた」
「……そうか」
彼女は、少し困惑しているようだ。
こういう時、子供だと便利だな……と思う。
曖昧なことを言っても、それは子供だからと思ってもらえるし、勝手な解釈もしてもらえる。だから、深く追及もされない。
アーディスカは迷うように口を開く。
「坊やは、回復魔法が使えるんだな。それは誰に教わった?」
僕は答えた。
「神様にもらった」
「…………」
「…………」
「…………」
アーディスカはまた困った顔をして、ジャンとリジットは顔を見合わせている。
「……まぁいい」
彼女は息を吐く。
「助けてもらった事実に変わりはないんだ。それより、森で子供を1人にしておくわけにもいかない。どうだろう、私たちと一緒にレイモンドの町へと行かないか?」
「うん、行く」
僕は即答した。
(渡りに船だね)
アーディスカも「そうか」と安心したように微笑んだ。
ジャンとリジットも、反対する気はなさそうだ。
と、
「そういえば、坊やの名前は?」
と聞かれた。
(あ)
そういえば、まだ名前がなかったね。
転生した以上、もう前世の名前なんて使う気もない。
(どうしようかな?)
僕は、なんとなく頭上の空を見上げる。
「アオイ」
その色を見て、そう答えた。
アーディスカは頷き、笑った。
「アオイか、いい名前だ。それでは行こうか、アオイ」
「うん」
僕も頷き、歩きだした赤毛の冒険者の背中を追いかける。
他の2人の冒険者もあとに続いた。
アオイ。
その名前を、心の中で繰り返す。
名前がついたことで、僕は、ようやく転生した自分の新しい人生を歩みだした気がした。




