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003・赤毛の冒険者

 それから僕は、森の中を2~3時間、歩いた。


 子供の体力では、なかなか辛い。


 けれど、足が痛くなってきたところで、


「癒しの光」


 ピカッ


 と『回復魔法』を使えば、あら不思議、足の痛みは消え、失われていた体力も回復されていた。


(こりゃ、凄いや)


 改めて、『回復魔法』の有能さに万歳である。


 そうして歩いていると、


「お、川だ」


 樹々の乱立する世界に、清流の流れを発見した。


 ありがたい。


 僕は、それで喉を潤しておく。


 生水を飲むのは危険かもしれないけれど、「癒しの光」とお腹にピカッと『回復魔法』をかけておけば、これで問題なしだ。


 いや、便利だね。


 さて、川の流れがあるということは、この水場を利用する人里も見つかるかもしれない。


「うん、下流に行ってみるか」


 頷いた僕は、清流に沿って、森の中を歩きだした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 30分ほど経った頃だ。


 カン キン


(お?)


 前方から、何やら金属同士がぶつかるような物音が聞こえてきた。


 何だろう?


 子供の足を走らせて、僕は、そちらへと向かった。


 やがて見えてきたのは、森の樹々の中で、3人の人間と1匹の巨大な角の生えた狼の争っている光景だった。


(なんだ、あの狼?)


 体長3メートルぐらいある。


 しかも頭には、鹿みたいな青白い角が生えていて、その周辺がパチパチと放電していた。


 もしかして『魔物』って奴かな?


 異世界ならではの生物。


 少し興奮する。


 一方で、対峙している3人の人間たちも、それぞれに武装をしていた。


 金属鎧に、剣と盾を持っているのが1人。


 皮鎧に、戦斧を持っているのが1人。


 皮鎧に、弓矢を持っているのが1人。


 剣と斧の2人が前線に立ち、弓矢の1人がその後ろで矢を構えている配置だ。


 まさか、


(あれは『冒険者』って人たちかな?)


 こちらも異世界ならではの職業だけど、初めて生で見れて、ドキドキしてしまった。


 冒険者と魔物。


 僕は木陰に隠れながらその対峙を見ていて、どちらもこちらの存在には気づいていないようだった。


『ゴガァアア!』


 狼が吠える。


 同時に、その角が青白く輝いて、凄まじい放電が前方へと放射された。


 バヂィイン


「ぎゃっ!?」


 奥にいた弓矢の冒険者が、その直撃を受けて倒れた。


「ジャン!」


 剣と盾の冒険者が叫ぶ。


 同時に、狼の魔物は走り出し、斧の冒険者へと襲いかかっていた。


「こ、この!」


 冒険者は斧を振る。


 ドガッ


 けれど、その刃が肉に食い込む前に、巨大な狼の突進がぶつかって、斧の冒険者の身体を5メートル以上吹き飛ばした。


(うわっ)


 まるで交通事故だ。


 地面に落ちた斧の冒険者は、動かない。


「く……っ」


 残されたのは、剣と盾の冒険者のただ1人だった。


 あの狼、強い。


 このままだと、残った1人がやられてしまうのも時間の問題だろう。


 そうなったら、


(もしかして、次は、僕が狙われる?)


 それはまずい。


 噛まれても、僕には『回復魔法』があるけれど、こちらが死ぬまで狼が攻撃をやめなかったら、それは永遠に終わらない拷問だ。


 残った冒険者は1人のみ。


 ……よし。


 僕は隠れていた木陰から出ると、そちらへと駆け出して、


「加勢します!」


 と叫んだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「子供!?」


 聞こえた声に振り返った冒険者は、僕の姿を見つけて驚きの声をあげた。


 同時に、


 バヂィイン


 その隙を見逃さなかった狼の角から放たれた電撃に、「ぐあっ!」と悲鳴をあげて倒れてしまった。


(うわああっ?)


 計算外だ。


 僕は慌てて小さな両手を伸ばして、


「癒しの光!」


 ピカッ


 その輝きを受けて、倒れていた冒険者が立ち上がる。


「こ、これは……?」


 困惑した声。


 呆然としたように自分の手足を見つめているので、


「どんな怪我でも、何回でも、僕が『回復魔法』で治します! 冒険者さんは、その魔物をやっつけて!」


 と叫んだ。


 冒険者はハッとした顔をすると、剣と盾を構えた。


『ゴガァアア!』


 狼が襲ってくる。


「くっ!」


 ガィン


 その突進を盾で受け流し、振るわれた剣が狼の巨体をザシュッと斬り裂いて、鮮血が散った。


(よし、いいぞ!)


 浅手だけれど、傷を負わせた。


 僕に攻撃手段がない分、この冒険者にはがんばってもらわなければならない。


 ガッ ザキュッ ガガン


 狼と冒険者の1対1の対決が続く。


 やはり狼の方が強いらしく、冒険者は苦戦を強いられている。けれど、少しずつ手傷も与えている。


 と、


 ドガッ


「ぐあっ!?」


 巨体の突進を受けて、冒険者は近くの樹へと吹き飛ばされ、背中から激突した。


 地面に落ちて、動かない。


「癒しの光!」


 ピカッ


 僕は即座に両手を伸ばして、『回復魔法』を放つ。


「う……くっ」


 回復光を受けた冒険者は、ぶつかった樹の幹で身体を支えながら、なんとか立ち上がった。


 がんばれ、がんばれ。


 ガシャン


 その声援に応えるように、冒険者は再び剣と盾を構えた。


 …………。


 …………。


 …………。


 それから何度も『回復魔法』を使い、倒れた冒険者は何度も立ち上がって、恐ろしい狼の魔物に挑んでいく。


 やがて、


 ザキュン


『キュガ……ッ』


 その剣先が、狼の喉笛を深く抉るように斬り裂いた。


 大量の血液が噴く。


 魔物の巨体が、ズズンと音を立てながら地面に倒れた。その瞳からは生命の輝きが消え、角の光もなくなり、血だまりだけが広がっていく。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 返り血を浴びた冒険者は、肩で息をしながら、それを見届けた。


 ズシャ


 そのまま、地面に座り込む。


 僕は、その背中に向けて、


「癒しの光」


 ピカッ


 感謝と労いの意味を込めて、もう1回、『回復魔法』を使ってあげた。


 その輝きに気づいて、冒険者がこちらを向く。


 兜に包まれて顔は見えず、けれど、口元だけが見えている。


 その唇が、笑みを浮かべた。


「ありがとう、坊やのおかげで助かったよ」

「ううん」


 僕は、首を横に振った。


 こっちこそ、魔物に抗う術がなかったので、助かった。


(お互い様って奴だね)


 だから、僕は笑った。


 それを見て、向こうも安心したように息を吐き、立ち上がる。


 それから、兜を脱いだ。


(お?)


 ちょっと驚く。


 兜の中から、汗に湿った赤毛の長い髪がこぼれ落ち、肩から背中へと滑っていった。


 端正な顔立ち。


 そこにある金色の瞳が、子供の僕を見つめている。


(女の人だ)


 それも結構な美人さん。


 その時、ふと、幼女神様に言われた言葉を思い出す。


『――その世界で初めて出会った人間と離れないようにするといいよ。じゃないと、すぐ死んでしまうかもしれないからね』


 もしかして、この人が?


 目を丸くしている僕に、


「私の名は、アーディスカ・グリント。レイモンドの町の冒険者だ、よろしくな」


 彼女は、そう輝くような笑顔を見せた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 先に倒れた弓矢の冒険者と斧の冒険者には回復魔術をなんで使わなかったんでしょう?
[一言] 続きを楽しみに読み進めます!
[良い点] 新作投稿ありがとうございます&お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 今回の主人公は武力なしの回復特化型なのですか。 マールとは違った活躍が期待出来ます。 それはそれとして、今回は戦闘時の擬音が少な目…
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