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少年達  作者: 南波 晴夏
20/33

20. 傷モノの少年

僕には自分の心が分からない。


カウンセラーの先生は言った。

「辛いことがあったら頼りなさい」と。

辛いことがなんなのか分からなかった。

僕は今辛いのか、分からなかった。


保健室の先生は言った。

「痛かったら、いつでも来ていいのよ」と。

痛いのがなんなのか分からなかった。

僕は今痛いのか、分からなかった。


アザだらけ、傷だらけの身体。

これが普通なのだと思ってきた。

母がいないのは普通で、外に出れないのも普通で、父に殴られるのも普通だと思って生きてきた。

外に出たのは、小学生の時以来か。


僕は今、自分がどんな人間なのかもわからない。

テレビを見て、僕は『高校生』なのだと知った。

“コウコウセイ”って、なんだろうと思った。


僕はある日、またテレビを見て『死』という存在を知った。よくわからなかったけれど、いなくなるっていう意味なんだと思う。


じゃあ、僕は、いなくなりたい。

殴られるのが痛いことだとは思ったことがないけれど、何も考えずに、ただ眠っていられるのなら、そんな幸せなことはないだろう。


僕は恐る恐る外へ出た。大量の水があるところまで歩いた。

外の空気、というのを初めて感じた気がした。


黒い水だった。

今まで、こんな水は見たことがなかった。

でも、水に飛び込めば『死』ぬことができると学んだ。


きっとこれで、僕は自由になれる。

幸せになれるんだ。

僕は、そのまま水へ落ちた。苦しさは感じない。

誰かの声が、聞こえた気がした。



……目が覚めた。

目の前にはいつにも増して変な顔をしている父が座っていた。


「どうしたの?」

僕は問いかけたが、父は答えなかった。

乱暴に僕を家へ連れ戻し、力の限り腕を振り上げた。もう二度と、外へ出てはいけないと言われた。


「どうしてダメなの? 外へ出ないと、僕は『死』ぬことができないじゃない」


父はまたおかしな顔をした。

少年には痛みが分からなかった。

普通も分からなかった。

ただ、死ぬことができれば、幸せになれるのだと信じていた。


少年は、傷だらけの身体で、虚ろな瞳を窓の外に向けた。


「『死』ぬことができたら、どんなに幸せだっただろうなぁ」

あの黒い黒い海を見つめて、少年は呟いた。


「あぁ、『死』んでみたかったなぁ」

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