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17 新しい事件発生!

 アイビーが殺された日から、二か月ほどがたった。暗い冬は終わり、春が来ようとしている。来月の四月で、私は十八才になる。

 私はゲームの知識にこだわりすぎた。イーサンと結婚する未来もあったかもしれない。イーサンは婚約当初は、私を恋人として扱ってくれた。デートにも誘ってくれた。なのに私は彼を拒絶するように、イーサンの妹になりにいった。

(婚約破棄の責任は、本当は私にある)

 冷めた態度をして、恋愛を避けた。私はわき役、悪役令嬢と言い訳した。ヒューゴの言ったとおり、前世にこだわるべきではなかった。

 金曜日の放課後、教室でアリアとエマとおしゃべりする。あたたかい窓際に、イスを寄せて座っている。穏やかな日常だった。今日は天気もいい。教室には、ほかにも七、八人のクラスメイトが残っていた。

「値段などつけられないような宝石が盗まれて……」

「犯人はつかまっていない。そもそもどうやって盗んだのか?」

 興奮して話す声が聞こえる。今、王都では、話題の事件がある。ある大金持ちの家から、宝石が盗まれたのだ。宝石は厳重に保管されていたのに、いつの間にか消えてしまった。密室だの不可能犯罪だの、クラスメイトたちが楽しそうにささやいている。

 しかも一度、花園にやってきた騎士団第三隊が調査しているから、なおさらだろう。生徒の死体にみんなが混乱する中、彼らはきびきびと冷静に動いていた。かっこよく、頼もしく見えただろう。

「ヒューゴは今ごろ、いそがしくしているのかな」

 私は、ひとりごとのようにつぶやいた。ナゾの多い事件に、彼はにやにやと笑っているだろう。楽しんでいるにちがいない。私はもう彼に会うことはない。そう思うとさびしかった。

 急に教室が、一段と騒がしくなった。周囲を見回すと、扉のところにひとりの騎士が立っている。長身の若い男で、優しい笑みを浮かべている。藍色のマントをひるがえして、私の方に歩み寄ってきた。

「ヒューゴ!?」

 私は驚いて、声を上げた。

「やぁ、シエナ。かわいい君に会いたくて、学校まで来てしまった。突然の訪問を許してくれ」

 彼の口説き文句は、このパターンしかないらしい。彼の能力はすべて、事件捜査に割り振られている。

「僕と一緒に、今、この国でもっとも楽しい場所へ行こう」

 ヒューゴは、座っている私を見降ろして笑う。私はあきれた。

「ニコル家に行くの?」

 ニコル家は宝石が盗まれた家だ。さらに、アイビーの事件では容疑者のひとりだったノアの家でもある。

「さすが僕の恋人。話がはやい」

 ヒューゴは私の前にひざまずいた。私もアリアもエマもびっくりする。いつもは上にある金髪が、下にやってきた。

「一緒に犯人たちを追い詰めよう。何よりもぞくぞくする、運命をかけた遊びだ。これ以上におもしろいゲームはない」

 私の手を取り、手のこうに口づけを落とす。彼の背中から白い翼が出現した。大きくふわりと広がり、白い羽が舞う。隠しきれない恋心が、翼となって現れる。

 私のほおは熱くなった。窓から差しこむ日の光が、彼の姿を輝かせる。彼のそばにいたい。ヒューゴの手を強く握り返す。これが私の初恋と確信できた。もしも彼が裏切ったなら、私はナイフをこの手に持つ。絶対にこの変態を殺してやる。

 しかし、はっと気づくと、アリアとエマが目を丸くして私を見ている。彼女たちだけでなく、教室中の注目を集めている。みんな興味しんしんだ。

 私は動揺して、キスされている手を引っこめた。まだ胸がどきどきしている。ヒューゴは気を悪くした風を見せず、立ちあがった。にっこりと笑う。

「さぁ、行こう。解くべきナゾは、たくさんある。君は騎士ではないが、特例で第三隊の仲間入りだ。盗まれた宝石をともに探そう」

「えっ」

 なんで私が第三隊に入るの? 宝石探しならともかく、殺人事件とかにもかかわるの? それは嫌だ。だがそのとき、

「いいな」

「俺たちも行きたい」

 クラスメイトたちのこそこそ声が耳に届く。彼らの顔を見ると、私をうらやましがっている。特に男子たちが。ヒューゴは意地悪く笑った。

「第三隊に入るのと、ナイフ窃盗犯としてしょっぴかれるのと、どちらがいいかな?」

 ざっと血の気が引く。私は大変なことをした。ナイフを盗んだなんて、親にも友人たちにも内緒にしている。前にヒューゴはオスカーに、何かを盗んだらうち首にしてやると言っていた。

「盗まれた宝石を取り戻して、犯人を捕まえたいな。わーい、とっても楽しそう」

 私は、引きつった笑みを浮かべた。それから、ふしぎそうな顔をするアリアとエマに、ごまかし笑いをする。

「今から、ヒューゴと一緒に行くね」

 アリアたちはうさんくさそうな反応をすると思いきや、うれしそうにほほ笑んだ。

「そっか。いってらっしゃい」

「最近、シエナはヒューゴの話ばかりしていたものね」

 ちょっと待って、なんでふたりとも納得しているの? 私の第三隊入りを祝福しているようにも見える。ヒューゴは、にやにやと笑っている。私は、大事な選択をまちがえた気がする。殺人事件大好きな天使にはなりたくない。


 数日後、ヒューゴの活躍により犯人たちは捕まった。ただそれまでに、女好きでナンパなノアが私に言い寄ったり、ヒューゴが複雑怪奇な焼きもちをやいたり、オスカーが茶々を入れたり、イーサンが出張ってきたり、いろいろあった。

 が、それらはまた別の話だ。今回の話はここで終わり。春はやってくる。私は初めて、恋のともしびを胸に燃やした。相手は、変人で変態だけど、……たまに優しいから、たまにかっこよく見えるから、と自分に言い聞かせている。

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