ゲスイン
不幸体質な男の子と年上ゲスヒロインが書きたかったのよ……
(大丈夫だと思うけど、もし警告が来たら消すかもしれない。)
「やれ」
道行く誰もが絶対に振り返るだろう、可憐な女性が穏やかに告げる。
その女性の立つ姿は野に咲く鈴蘭の様に凛として、声は太陽を浴びて燦々と煌めく泉のように澄んでいる。
だがそんな声音と容姿に対して、表情は無い。自身の目の前に跪く男二人を冷たい眼で見下ろしている。
男達はどちらもダラダラと汗を掻き、怯えた表情で美女を見上げた。
「し、しかし……っ」
「言い訳はいらねぇ。やれと言ったらやれ」
何かを言わんとする男をピシャリと言い止める。男は声をうっと詰まらせ、悔しそうに唇を噛んだ。
そのまま暫し沈黙する。その光景を見ている僕も部屋の片隅で息を潜め黙っていた。
美女が苛立たしそうに足でタンタンと床を鳴らし始める。びんびんと放たれるプレッシャー。それを一身に受けている男達は額から流れ落ちる汗を袖で拭った。
美女はセーターの大きく開いた胸元に手を入れ煙草を一本取り出すと、それを口に銜えシュボッとライターで火をつけた。
すうぅと吸い込み白く噎せ返るような香りの煙を吐き出す。それを二〜三度繰り返し、美女はようやく冷たい顔に表情を浮かべた。
――――それはまるで天使のような微笑み。
目を緩く細め両口角をほんの少し上げて、ふわりと微笑んだ。
見る者を魅了する可憐な笑顔を向けられ、男達は恐怖で震えている。
「もう一度言う。――――やれ」
その声に先程のような穏やかさは残っていない。
研ぎ澄まされた鋭いナイフの刃のように凶器的な色がその声に乗せられていた。――――あの可憐な笑みのままで。
やがて観念した男達は動き出す。
カチャカチャと金属がぶつかる音、次いで微かな衣擦れの音が目を閉じている僕の耳に届いた。
――――じゅぷっ、ぬちゅっ。
しばらくするとそんな水音が室内に響き渡り始めた。
その音を必死に聞かないように両腕で耳を塞ぎ、ぎゅっと目を瞑った。
――――ずぽっ、ちゅぷっ。
………っく、ふぅ……あっ。
男達が何をしているのか、むしろナニしているのかなんて考えたくもない。
「ハハッ、こりゃ傑作だなぁ……!」
愉快気な美女の声が聞こえる。目の前の光景を、無邪気な子供のように楽しんでいる。
――――どうしてこんな事になったのだろう?
これも僕の厄介な体質をのせいなのか。
昔から何かと面倒事に巻き込まれる、そんな有り難くもない迷惑な体質。
いっそ生まれなければ幸せだったと思ってしまう。
これはそんな僕の、慌ただしくも不幸な物語。